巡る、廻る、この世界

オーラスの局面になり、私は先輩・・・といっても60歳くらいの大先輩の青山さんに

「どちらかが和了するかで遊びませんか」

と提案した。

青山さんはその半荘も独走で機嫌が良かった。

打つ手がみな和了する感じだった。

「●本でどうですか」

「●本って、松岡君、●本だね」

「そうです」

青山さんの麻雀で感心したのはこういう時に早和了の手造りをしない。

出来れば私から直に取りたかったのかもしれない。
他の人も場が2人の戦いと分かって、回しを打ってくれた。

青山さんが場が詰まったところでリーチをかけた。
妙な捨て牌だった。

チュウチャン牌が早いうちに続けざまに切られて、字牌が一枚も切られてない。

手の内に無駄な字牌がこないということはまずあり得ない。


国双・・・七対子・・・

そう思って安牌を切っているうちに私の手でテンパイを構えられるようになった。

「どうした?リーチ?」

これはだめだ。

僕は降りようと思ったが、切らなくてはならないのはリャンピンがある。

早いうちにサンピンとスーピンが切り出してあり、イーピンまでが中盤で出ている。

「青山さんはツイているからここは引き下がった方がいいんでしょうね」


でもただ引き下がるだけなのは性に合わない。

どれだけツキがあるのか見てみよう。

私はリャンピンを切った。

×××

9日はデートであった。

ディケンズの友達のみちるちゃんの友達の千佳ちゃんは、武蔵浦和に勤める物流会社のOLだそうだ。

数日間メールを続けたものの、それは実に退屈極まりなく、不毛であった。

しかしながらメールがつまらない女は大概、メールのクオリティなんぞ度外視できるだけの美人なのだろうと勝手な先入観を持っているので期待はできる。


待ち合わせ場所に着くと『いまどこにいますか?』とメールがきた。

近くに乞食がいたので
【いま、乞食がいる自動販売機の近くにいます】
とメールして、遠方からやってくる人間を見守ることにした。

しばらくすると乞食の近くに携帯をいじりながら占い師みたいな格好をした女が近付いてきて、キョロキョロしはじめた。

メールを送ってみるとその占い師がメールを開き、またキョロキョロし始めた。

なぜか乞食もキョロキョロしていた。


アイツか・・・


意を決して占い師みたいな格好の女に話かけると、案の定そいつが千佳さんであった。


「ようやくお会いできましたね」

というと

『はい、嬉しいです』

と千佳さんは言った。

×××


千佳さんは

『私はキープが15人いるんです』

と言った。

「じゃあ僕も千佳さんにキープしてもらえるんですかね?」

と尋ねると

『もちろんいいですよ!これで16人目のキープです』

と喜んだ。

「すごいなあー」ととりあえず感嘆すると

『いやいやいやいや!嘘ですよ!キープなんて1人もいません!』

と慌てて訂正をしてきた。

いやどっちでもいいけど・・・

「趣味はなんですか?」

『寝ることとテレビをみることです』

「・・・(^^;)」

会話が終わってしまった。


「テレビドラマとかはみますか?」

『はい見ます!』

「好きなドラマはなんですか!?」

『ハンチョウです!』

ハンチョウ・・・

「あの、お酒とかじゃんじゃん飲んでくださいね」

『いや、私お酒苦手で・・・お腹もあまり減ってないんです』

「・・・(^^;)」


『今日は地味めの格好で来ましたけど、いつもはすごい派手だって言われるんです』

「へえー。派手というと?」

『結構スゴいミニスカートとか生足で頑張ったりとか、胸元がちょっと開いてたりとか』

いやそっちのパターンでこいよ・・・

男なんてミニスカか生足か胸元かみせられりゃ大概のステップもプロセスも吹っ飛ばせるんだからさあ。
なんでBパターンをチョイスした。


結局酒は飲めない腹は減ってないと言っていたくせに、もう一軒行きましょう!みたいな流れになり、私は総額1万6千円を支払うことになった。


しかしながら私は1万450円しか所持金がなく、また三菱東京UFJ銀行はあろうことか翌朝7時まで利用停止という脆弱っぷりだ。

仕方がないので私は千佳さんから6千円借りた。


カップルシートに座り、占い師のような女から6000円を手渡される私の姿を、店員が終始好奇の目で見つめていた。


こんな書き方をしたが、千佳さんはおとなしいものの感じは良く、非常にいい子であった。もう会うことはないだろうが。


『私からは次のデートを誘ったりはしません。自分から誘うのは苦手で・・・だから必ずデートに誘ってくださいね』

と本人は言っていた。


借りた6000円に関しては踏み倒そうと思う。


×××


先輩と打つときは少々負けるくらいが丁度いい。

だがこの日、結局僕の手持ちでは負け分が足りなくなった。

この夜、ツキの怖さと、それに逆らうことを厳禁するべきだと教えられた。

帰ってきて7時過ぎに寝て、途中何度か起きて水を飲んだり、何か食べたが、結局19時半まで眠ってしまった。


仕事上の問題が片付いて少しスッキリしている。

しかし身体はだるい。

また明日か明後日には新たな問題が生まれるのだろう。





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