秋心ミッドSUMMER
小学生の頃、仲の良かったかつての友達から突然連絡がきた。
ラインをはじめとしたsnsの普及に伴い、昔は街で偶然出会うことでしか結びつき直すことができなかった人との再会は容易である。
かくいう私も、小学生の頃の親友と再び会えることに喜びを感じていた。
中学高校を地元ではない場所へ進学した私の耳元には、彼の不良伝説が都度届いた。
昔からハーフで背が高くてケンカの強い男の子だった。
そんな彼と30歳を超えて再会するのは、どこか恥ずかしく、また楽しみでもあった。
×××
待ち合わせにあらわれたのはまがいようのないインテリヤクザだった。
インテリヤクザではあったがあきらにそれは私の友人そのものだった。
私はあまりのその怖い風貌に「よお。お前変わったなあ」と大喜利の前フリみたいな挨拶をされたが、「へへっ…」とクソみたいなリアクションしかできなかった。
こわい。
言葉は乱暴でよく笑い、すぐに小突いてくる。
居酒屋の呼び込みを恫喝に近い物言いで、お通しを定額で5品出させる交渉がまとまった際、私は本当に家に帰りたくて仕方なかった。
しかしながら店に入ると「ガンガン好きなだけ飲んでよ」や「わり、タバコ吸って大丈夫?」等とても気遣いが多く、また、私の発言をなんでも笑ってくれる聞き上手であった。
だいたいこわいやつが聞き上手に徹してくると、「おや?これはマルチかな?」と疑ってしまうが、友達紹介キャンペーンも壺も化粧品も登場することはなかった。
私たちは近況を語らい、共通の趣味話に花を咲かせ、いままでの女遍歴で互いに大いに笑った。
「久しぶりにめちゃくちゃ楽しいわ」
「マジ?俺も超楽しい!」
それだけで、離れていた何年もの時間が、一気に埋まっていくような、幸福感に包まれる。
気がつけば終電はとうにすぎていた。
×××
「キャバクラ行くか。奢るぜ!」
そう彼は言った。
そして宣言通り、全額奢ってもらってしまった。
一軒目の熟女キャバクラでは、お互いに人妻抱きたい願望があいまみえ、容赦なくババアを口説いた。
二軒目はあえてその逆を行こうという話になり、21~20ばかりを揃えた若者キャバクラへ行ってみることにした。
私のトークはことごとく不調であったが、若いバカはみんなアウトローが好きである。
誰もがびっくりするくらい友人になついていた。
特にいたるところにタトゥーをいれた晴海ちゃんに、彼が「いいねそれ。もっと近くでみしてよ」と硬派に言うと、晴海ちゃんはパンツの食い込み近くのタトゥーを彼にみせつけ誘惑していた。
私はというと、その晴海ちゃんと大親友であるという明日香ちゃんにひたすら鏡月をロックで飲まされ続け、潰れる寸前であった。
明日香ちゃんに、「つーかなんで彼ばっかりモテるの?俺もパンツみたいんだけど」と告げると
「え、別にいいけど」と真っ赤なティーバッグをみせてくれた。ラッキー。
その後なにかあるたびに「はいそればっぷ!ばっぷだわ!」と鏡月を飲ませてくるので、さすがに勘弁してくれと頼み込んだところ、「しかたねーなー」と明日香ちゃんは叫び、今度はその倍の水を私に飲ませてきた。
私の腹はタプンタプンな状態となった。もうこれきっかけひとつで潮噴いちゃう準備できてますばりに水を飲んだ。
そこに、いい波のってんねー!!だとか、まんじー!!だとかいよいよわけのわからないノリまで追加されたことで、ついに私は限界を迎えた。
そして吐いた。
水以外の何物でもない水を大量に吐いた。
水を飲み過ぎて吐くという経験は初めてだった。
それを見て晴海ちゃんと明日香ちゃんはゲラゲラ笑っていた。
友人は申し訳なさそうな顔をしていた。
×××
その後四人でラブホテルにいき4Pをした。
友人の前で萎縮し、たつかどうか非常に心配であったが、彼は全体をすごく上手にリードし、また、こちらが物怖じしないような空気づくりを行ってくれたため、全然大丈夫だった。
いや、堅苦しいことはよい。
めちゃくちゃ興奮しました。
明日香ちゃんと晴海ちゃんがのりのりで勝手に裸でちちくりあいだして、ディープキスをしはじめた時は心底気持ちわりいなこいつらと思ってしまったが、その仲良しのおかげでダブルフェラまでやってもらえたのだからまあいいだろう。
だが一発思い切り明日香ちゃんにぶちまけた後はテンションはガタ落ちし、次は晴海ちゃんを抱こうと思っていたがとんでもなく醒めてしまった。
友人も一段落ついたところで休憩していると、明日香ちゃんも晴海ちゃんも眠り出したので、私もそそくさと帰り支度をし、始発で家に戻ることにした。
帰り際にまどろむ友人に「今日まじでありがとうね」と伝えたところ「いや俺もめっちゃ楽しかった。またすぐ飲みにいこうな!」と言われた。
めちゃくちゃいいやつじゃないか。
めちゃくちゃ素晴らしいやつじゃないか。
やはり人間は見た目で物事をきめつけてはならないのだ。
×××
数日後突然【良い波のってんねー!!】というクソみたいなライングループの招待状がきた。
あの4Pした女の子二人からだ。
焼き肉に行こうだの遊園地に行こうだの正直鬱陶しくて仕方がない。
「どうする?焼き肉いく?」
「いやーでもまあもう一回くらい適当に抱いとく?」
「いいねー。小便でもひっかける?」
「あー、陰毛剃っちゃうか」
良い波がくればくるほど、私と彼の失われた時間は、どんどん取り戻されていくのだ。
終