外を歩けば、銃声が聞こえる
身体を溶かすような気温。
したたり落ちる汗。
眩暈のするような日差し。
「お前も肉焼くの手伝えよ・・・」
大木先輩が半ば呆れたように苦言を呈した。
私は日陰に座り込みながら、目の前でパスタを炒めるオジサンを見ていた。
あのパスタをあのオッサンは、いまこうして何もしていない私にも分けてくれるのだろうか。
というよりはなぜ、あのオッサンはBBQで皆と肉を焼かず、持参した小さな網焼きセットでパスタを焼いているのだろうか。
『トマトソースを絡めてミートソースにするって言ってたよ』
「へー。あの人、僕が話しかけても無視するんすよね。なんでですかね」
『いつも誰に対してもああいう感じらしいよ』
「パスタもらえたりするんですかね」
『無理だな』
「ユイさん、あの人と知り合いなんですか?」
『前の時もいたんだよあの人』
「へー。常連か」
『で、あそこの(仮)子ちゃんと付き合ってる』
「(仮)子ちゃん?」
『名前明かしたくないんだって。だから(仮)子』
「いやいや。ずいぶん若い子ですけど。僕より全然年下なんじゃ・・・だいぶオッサンですよあいつ」
『関係性があるんだよ』
「信頼関係みたいなもんですか?」
『主従関係だな』
「なんですそれ」
『あの人めっちゃ(仮)子ちゃん調教してネットにアップしてるんだよ』
「うそだあ。しこしこパスタ焼いてますよ」
『ほら』
「・・・」
『どう?』
「めちゃくちゃ調教されてるじゃないっすか!風呂場で縛られてますよあの女!」
『主従関係だから』
「はー。そりゃ名前も(仮)子になるわ」
『キミ面白いね』
「そうですか?」
『っていうかBBQ手伝いなよw大木くん頑張ってるよ』
「大木さんは頑張ってる姿を見られるのが好きなんですよ」
『キミは?』
「僕はBBQが嫌いなんです」
『じゃあなんでBBQ参加してんの?』
「いやBBQは嫌いなんですけど女の子が好きなんですよ」
『キミ面白いね』
「そうですか?」
『出会いうまくいきそう?』
「いやあなんとかなるんじゃないっすか。BBQ好きな女なんかバカしかいないでしょ?」
『ちょっと!それじゃあ私もバカってことになるんだけど!』
「僕に話しかけてる時点でまんまとバカですよ」
『キミ面白いね』
「そうですかね?」
『このあと池袋のエアガン専門店に行くんだけど。一緒に行く?』
「エアガンですか?」
『そう。エアガンを見たり撃ったりしながら酒飲むバーだよ』
「えー!めっちゃ面白そうなんですけど」
『ミワさんと一緒に行くんだけど』
「ミワさん?」
『ほらあそこの・・・』
「え・・・デカ・・・あの全体的にやたらデカい人ですか?」
『おい』
「すみません」
『ミワさん嫌だ?』
「いや。めちゃくちゃタイプです」
『キミ面白いね』
「でもまだBBQ途中ですよ?」
『抜けてしまおう』
「えー。パスタ食べたいんですけど。パスタ食うより楽しいことあります?」
『あると思うよ?』
「二人だったらいいですよー」
『じゃあ二人で行こう』
「え?いいんですか?」
『いいよー』
「興奮してしまうようなことあります?」
『うーんどうだろうね』
「僕、童貞なんで優しくしてもらえますかね?」
『ビシビシいくよw』
×××
このあと私はめちゃくちゃエアガンで撃たれた。この女に。
そこに後ろ向きに立ってと言われ、従うとめちゃくちゃエアガンで撃たれた。
2発目までは戸惑いに近かったが3発目からは悲鳴をあげ、以降は恐怖に震えた。
彼女は次から次へと銃器を持ち替え、私を撃った。
エロいどころではなかった。
めちゃくちゃサイコパスだった。
彼女はケラケラ笑っていた。
店員もケラケラ笑っていた。
『キミ面白いね』
彼女はそう言って、ベレッタの引き金に指をかけた。
終