ルサンチマン

現実を直視しろ。
俺たちにはもう仮想現実しかないんだ。
この世界で真実の愛をつかむのだ。

行け。
今、彼女を救えるのはお前だけだ。


×××


『松岡さん、それじゃあ現地で会いましょうよ。お酒奢ってください』


まるで青年向け恋愛漫画の主人公だ。


職を失ってからというもの、一向に再就職の兆しは見えず、あろうことかもうこのまま一生フリーターでいいなという淡い覚悟すら生まれてきている今日である。

遊びの幅は広まり、LINEツールの便利さがそれを後押しするかの如く、後輩は平気で『私も夏フェスいくんですけど日程あわせませんか』と私へ連絡をいれてきた。


「楽しみだね。でも俺一緒に行く友達いるんだけどなんて説明しよう。以前なら”後輩”だけどいまは違うもんね」

『いや、友達でいいんじゃないっすか』


男女の友情は成立しないと常日頃から確信していたわけだがそれはあっさりと破られた。

それを結果的に友情でなくエロい方向に持っていくのが私の仕事ともいえる。


-数日後、現地会場-

『あ、お疲れ様です。こっち、彼氏の○○です』

彼氏「はじめまして!いつもお世話になってます!」

「・・・( ^-^)」


ですよね( ^-^)

まあ現実なんてそんなもんです( ^-^)


女『あ!お酒奢ってくださいよ!約束通り』

「ああ・・・そうだね。」

・・・

・・・

俺「・・・あの、よかったら彼氏さんも飲みますか。。。」

彼氏「え!いいんですか!すみません!ありがとうございます!」

惨めにもほどがある。

しかしここで奢らないと非常識にもほどがある。

エグいぞ現実。

×××

HYのAM11:00が流れる中、彼女は私に言う。

女『次、どこ行きます?』

「あー、せっかくだから松任谷由美行こうかと思ってる。なんか民生はいつでもみれる気がするし」

女『じゃあ私もゆーみん行きます』

彼氏「俺は奥田民生行くんで」

女『わかったー。じゃ一旦後で』


うーむ。


うまいことこれは二人っきりになったけども・・・うーむ

「ゆーみんって何歌うのかな?いきなり春よ来いとかかな?」

彼女『意表をついて、ひこうき雲とか』

「いやいや。あれ荒井由美名義だからやんないんじゃない?」

彼女『じゃああれだ。卒業写真。いきなりバラード』


期せずして雰囲気が良い。まいった。


「彼氏、感じ良いし、すごい良い人だね」

彼女『・・・そうですか?わりともううんざりですけどね』

「え、そうなの?なんで?」

彼女『色々。私もわがままなんですけどね』

「へー」

彼女『一緒に来るのはこれが最後だなー』

「いやいや。彼氏はすごい好き好き感出してたよ」

彼女『私、追いかけたい派ですから』


うん?おやおや?


「お酒飲みすぎじゃない?なんか変な空気になってるよ」

彼女『え?そう?酔ってますけどたしかに』


いやーまいったなこれは。

なんて演出をしてくれてんだキミは。

これからゆーみんを観るんだぞ。


音楽と酒。

これを融合させるのはそもそも犯罪みたいなもんである。
ある種のドラッグだ。
だから自称音楽好きと酒好きはバカとアホしかいない。納得だ。

まんまといま、私の目の前にバカが現れた。このバカ。


だがエロい空気だ。
なんなら性行為そのものよりもエロい。


別ステージに到着し、腰をおろした場所では、ちょうど私たちの目前でカップルがいちゃいちゃしていた。

「去年さ、たまたま通りかかった場所でマキタ・スポーツが演っててさ。楽しかったなー。ウルトラソウルもステイゴールドもやってて。不覚にもすっげえ興奮したんだよなあ」

彼女『私も同じ場所にいたんですよ。マキタさんすごいよかった。私たちの好きな集まれパーティピーポーもやってましたよね!』

「やってたね!彼氏といたの?」

彼女『そのときは・・・はい。楽しかったんですけどね。そのときは・・・』


彼女が物憂げな視線を、常陸那珂の空へと投げる。


私は彼女の手を静かに繋ぎ、ゆっくりと握り締めた。


私「・・・また来年も来ようよ」


彼女『・・・(゚Д゚;)』


いやどんな顔しとんねん。


「え?え?なに?」

彼女『いや、手。手(゚Д゚;)』

「あいやこれはだな」

彼女『え。え。え(゚Д゚;)』

「いやほらその。なんていうか。覚悟っていうか」

彼女『(゚Д゚;)』

だめだ。

ここで手を放したら絶対だめだ。

おそらくここからの恋愛派生はほぼ無いがこの手を放したらだめだ。私の精神が崩れる。放したと同時に。


「フェスだからね。ほら」

彼女『(゚Д゚;)』

「いやその。キングスマンでもあったじゃん?フェスの秘密は墓場まで!って」

彼女『(゚Д゚;)』

「いや・・・そうだな・・・これはだな」

彼女『と、とりあえず放してほしいんですが』


私は手を放した。

そして私のメンタルは案の定崩壊した。


「・・・俺、友達近くにいるみたいだから・・・そっち合流するね」

彼女『はい。そうしたほうがいいですよ・・・』

砕け散った心を、松任谷由美の超ローライズジーンズが刺々しく刺激する。

×××

相棒「お。どこ観に行ってたの?」

「あ、いや。友達と会ってた」

相棒「フェスで友達・・・それってエロいパターン?」

「残念ながら・・・そうはならなかった、としか」

相棒「あ、ああ。まあアジカン楽しもうよ」

「そうだね」

相棒「嫌な思い出・・・ここでリライトしよう!」

「Woh yeah!」

相棒「Woh woh yeah yeah yeah!」


アジカン最高。


誰がなんと言おうとリライトは最高だ。

相棒「あ、帰る前にその友達に挨拶しとかなくていいの?

「あーいいよ。大丈夫」

相棒「え、俺待ってられるからしてきちゃえば?

「うーん。実はだな、その友達、っていうか」

相棒「うん」

「・・・残念ながら、恐らく“友達”という関係性も、リライトされてしまいました」


相棒「Woh yeah!」

「Woh woh yeah yeah yeah!」



終(泣)

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