ray
夢を持って生きている人は多いけど、最初の一歩を踏み出すのは怖くて難しい。
実現はおろか、試してみることすらね。
でも。試すことで失うものは、何もないじゃないか。
×××
この会社に入って早5年。
ようやく羨ましがられるような仕事依頼としてグラビアアイドルと一緒に仕事をすることになった。
これまで単発の意味のわからん体験取材やアートコラムと違い、今回は"プロジェクト"ということで、年間通して活動を行い、都度打合せを行っていくという私史上最長の仕事だ。
なんといってもグラビアアイドルだろう。
少年時代に憧れた熊田曜子はいまや目も当てられない出涸らしのような人種へと堕ちてしまったわけだが、やはりそのグラビアアイドルという淫靡な響きには心を躍らせてしまう。
「一応こういう人です」
事前に責任者から渡された宣材写真には、特異な名前と年齢、そして何よりもおっきなおっきなおっぱいが載っていた。
デカイ。Gカップだ。まだこの目で見たことがない大きさであり、もはやこのGというアルファベットすらエロく感じる。
自分の人生すら主役になれなかったこの私が、まさかおっぱいがやたら大っきい人と会えるなんて思ってもいなかった。
やはり人生は、踏み出してみないと始まらない。
×××
『なんかこの仕事馴れ合いっぽいっていうか…なんか未来がないと思う』
グラビアアイドルはイキっていた。
あまり胸が強調されないような厚着を着込んだこのオッパイでか美は、オッパイを揺らさずに我々のビジネス意識の部分を揺さぶりにきた。
『初対面で言わせてもらうけど、ちょっとお互いの実力を褒め合うっていうか、馴れ合うっていうか。そういうのばっかになっちゃうとキモいかなって』
意識が高い系オッパイデカ美。
この世の中のオッパイデカ美は総じて頭が悪いときいてはいたが、このオッパイデカ美は意識が高い上に頭も悪そうである。
厄介なのはそのデカイ胸か、それともデカイ態度か。
初参加で…と若干恐縮してはいるがこの日は4回目の打合せ。
一度目寝坊、二度目体調不良、三度目海外ロケとバッティングからの4回目遅刻である。
もうこれはオッパイでどうにかなる問題ではないな、と私は思った。
ちなみに私との初絡みはというと
「はじめまして。松岡と申します」
『はじめまして。何やってる人?』
「僕は本職はレバリィプロジェクトという団体で脚本を執筆して。副業でこの仕事をやったりしてて」
『そうなんですか。一般の方なんですね。あんまり一般の方の前で素を出すのは気が引けちゃうんだけど、、、引かないで頑張ってくださいね!』
な、なんか鼻につくなこのオッパイは( ͡° ͜ʖ ͡°)
それで案の定、数分後にこのハイパーオッパイタイムである。
『私の知り合いに作家の人とかいますけど、ビジネスですからそういう人とも罵倒しあったり、意見言ったりして良い作品作ろうとしてやってます。やっぱりぶつけあわないといけないよ』
何をだ。
ぶつけるのはオッパイであれ。それ以外はぶつけんでくれ。いやむしろ既にオッパイ以外の全てをあなたはいまぶつけにきている。
『やっぱりゴールが定まってないから。ブレブレだからなんか気持ち悪いというか。ちゃんとゴール設定しましょうよ』
それはもっともだがそれを言うべきは俺だ。
ちゃんと毎回30分前には会議室入りしている俺だ。
三度欠席し今日遅刻したあなたが言うべきオッパイではない。
『やるからには良いもん作りましょうよ。冗談でもなく社会現象になるくらい目指して』
意識高いなー。意識高いけどどこかバカっぽいなあ。
オッパイのせいだろうか。
いや120パーセントオッパイは関係ないのではないか。
YouTubeでこの人を検索したらオッパイで風船割ったり、"乳ドン!"っていってオッパイで壁をドンしたり、カメラ目線で『いっぱい出ちゃったね♪』とか言ったりしてたけどこれ楽屋で血涙流してんじゃねえかこれ。
戦ってるなー。なるべき姿と戦ってるなーこの人は。
これでオッパイがデカくなければただのゴリラ顔で「あー、あの人性欲強そうだなー」ですんだところを…オッパイがデカイばっかりに。
誰が観るともわからないネット番組でオッパイ同士でピンポン玉運ばされたり、視聴者投票のために普通の人ならまず言わないような卑猥なセリフをカメラを担いだオッサンに言わされている。
それもこれもオッパイがデカイからである。
オッパイがデカイため、親が泣くような真似を全世界に発信している。
素ではこんなにイキってるのに。
「じゃあ一応今日、全員揃いましたので簡単な懇親会の場を用意しました。皆さん会場のほうによろしければ…」
『いや、私さっき言った通り馴れ合いはちょっと違うと思うんで。不参加で』
いや尖ってもいるのかよ。
尖っちゃってんのかよそのオッパイは。
オッパイ尖らせんなよ。
ずっと欠席してて満を持して持ってきたオッパイ尖っちゃってんのかよ。
私は懇親会後、家に帰り、佐山愛をFANZAでダウンロードして抜いた。
心なしか、佐山愛が性格悪そうに見えた。
×××
『もうずっと、再来週まで休みない。しばらくはずっと仕事。だから会えないよ』
そんなわけないだろ、と私は思う。
今のご時世、んな無休とか平気であるかい!と私は思う。
それにキミは、そんな無休で働くようなタイプじゃないだろう、と、私は思う。
休みがない!と騒ぎそうなもんだけどな、と、私は思う。
「そうか。それは大変だね。頑張って。応援してるよ」と、私は言う。
『ごめんね。ありがとう』と、彼女は言う。
『体調はどう?風邪治った?』と、彼女は尋ねる。
「治ってないし、ずっと治らない気がする」と、私は言う。
多分もう会うことはできないんだろうな、と、私は思う。
終