大腸内視鏡検査中に寝言を言った話
人間ドックの結果が届いた。
例によって概ね問題なし。と思いきや、要精密検査の項目がある。
便潜血あり、大腸内視鏡検査を受けなさい、と。
過去に胃カメラは2回経験があるが、お尻の方からのやつは未経験だ。
「めちゃくちゃ痛い」「とても苦しい」と、いろいろ恐ろしい話を経験者から聞かされた記憶もある。
受けたくない。全力で回避したい。
とりあえず、病院に電話して「もう一度、便の検査をしてもらいたい」と相談したが、あえなく却下。内視鏡検査以外あなたに選択肢はない、と冷たく宣告された。
当然だが強制ではないので、無視を決め込むことも考えた。
とはいえ、父親も数年前に大腸がんになったことだし、自分自身の年齢を考えても、この際ちゃんと検査して白黒はっきりさせた方が精神衛生上良いだろう。
観念して内視鏡検査を受けられる病院を探すことにした。
条件はとにかく「鎮静剤を使って眠った状態で検査」をしてくれるところ。
10年ほど前の初めての胃カメラが鎮静剤なしだった。
ぼくは人よりも嘔吐反射が著しく過敏なため、それはもう地獄の苦しみだった。大人になってから人前で本気で泣いたのは、後にも先にもその時しかない。
で、それに懲りて、数年後に2回目の胃カメラをやることになったときは鎮静剤を使ってくれるところでやった。
びっくりするほど苦しくなかった。というか、何かをされた記憶さえない。
というわけで今回、人生初の大腸内視鏡検査も鎮静剤なしなんて考えられないのである。
ネットで検索して病院はすぐに見つかった。
梅田のど真ん中の商業施設の上層階。アクセスも良好。内視鏡検査専門でやっている、真新しいクリニック。
さっそく電話して、検査前の問診を受けに行った。
院長先生、若い。まだ30代といったところか。
「アキラさん、胃カメラやったことは?」
「ありますよ、10年ぐらい前と、5年ぐらい前」
「あー、もう結構前だし、年齢的にもアレなんで、今回やっときましょう」
「え。マジすか。下からだけじゃなく、上からも?」
「そう。どうせ鎮静剤で寝てるんだし、この際いっぺんに」
「はあ・・・じゃあ・・・」
なんかよくわからないけど、ハンバーガー頼んだついでにポテトも、みたいなノリでダブル検査という運びになった。
まあ、いいか・・・。
検査前日の夜に下剤を飲んで、翌朝起きてから再びモビプレップという下剤を飲む。
これがクソまずい。
たとえるなら、まずい梅ジュース。
しょっぱくてうっすら甘くて、割と苦くて、そして重い。
そいつを2リットルほどチビチビ飲みつつ、その間も頻繁にトイレに行く。
2時間も経てば、出てくるものはほぼ透明な水だけになるので、そこまで行ったら準備完了。ヘロヘロになりながらクリニックへ向かった。
検査着に着替えてベッドの上に。
下は、お尻の部分がパカっと開くショートパンツみたいなやつである。
胃カメラの準備として、喉に麻酔をスプレーされる。
これが苦いのよ。
そして喉がマヒするので、上手く嚥下できなくなってよだれがダラダラ。
お尻に穴の開いたパンツはいて、よだれを垂れ流している自分の姿を想像し、思わず笑いそうになり咳きこんでしまう。
看護師さんが慌てて「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってくる。
すみません・・・大丈夫です。
たぶんぼくは、鎮静剤が効きやすい体質なのだろう。
前回の胃カメラの時もそうだったが、鎮静剤入れた直後にプツっと意識が切れる。
テレビやパソコンの電源を引っこ抜いたみたいに、一瞬で落ちる。
あとは前回同様、検査が終わって拮抗剤を点滴で入れられて目覚めて・・・
・・・のはずだったのだが、今回は違った。
なんと、途中で目が覚めたのである。
タイミングとしては、胃カメラが終わって次は大腸というところだろう。
おそらく、内視鏡を挿入するためにお尻にジェルみたいなやつを塗るんだろうね。
そのあたりで、ぼくはどうやら不埒な夢を見ていたらしい。
かわいい女の子とムフフな雰囲気になっている。
彼女がしきりにぼくのお尻のあたりを触ってくるので、
「そんなところ触ったら・・・
ダメだって・・・!」
と言った。
そう、「言った」のである。
思いっきり寝言を。
その瞬間、自分の声にハッとして意識が戻った。
看護師さんが、
「大丈夫ですか? 今は検査中ですよー」
と半分笑いながら言う。
その瞬間、ぼくは再び意識を失った。
検査後、院長先生の説明を受ける。
「もうねえ・・・大変でしたよ。
めちゃくちゃ暴れるんだもん。
検査中止にしようかと思ったぐらい。
寝言も言うし・・・笑」
「はあ・・・寝言・・・
言いましたか、やっぱり」
「言ってたね笑」
とりあえず検査はなんとか無事に(?)終わったけど、大腸にポリープがあったのでそれは切除して生検に。
先生の見解では「まあたぶん悪性ではない」とのことだけど。
ポリープを切除すると手術扱いになるので、検査費用に手術費用がオンされていきなり請求額が爆上がり。約4万円のお支払い・・・。
そんなわけで、人生初の大腸内視鏡検査は、
懐とハートに大ダメージを食らったのでした。