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タトゥーを入れたら腐った風呂に入る羽目になった話

ずっとずっと、タトゥーに憧れていた。
タトゥーを入れたくて仕方がなかった。

今でこそ、大阪ならアメ村あたりに行けばそこらへんにタトゥーショップもある。でも、昔はそんなカジュアルなものではなかった。

大学生の頃は「タトゥー入れたいなー」なんて口走ったところで、まあ当然ながら親には反対されるわけです。親の金で生活している身分ですから、諦めました。それ以前に、当時は(今でもたいして変わりませんが)まともな堅気の人間で、そんなものを体に入れてる人はいませんでしたからね。

結婚してからも、妻からは「タトゥー入れたら絶対に即刻離婚」ときつく釘を刺されていたので、仕方なく諦めていました。たしかに、今考えれば入れなくてよかったと思います。だって、子どもと温泉やプールに行くこともできないしね。

でも、50歳になるときに、ふと思い立って『死ぬまでにやりたいことリスト』を作ってみたら、一番目が「タトゥーを入れる」だったんです。
で、妻に言いました。
「半世紀生きてきて、死ぬまでの残り時間の方がはるかに短くなった。これまできみの要望に従ってタトゥーは入れなかったが、もう好きにさせてくれ」
案外、すんなり「じゃあ、もう好きにしたらいいんじゃない」ということになり、晴れて念願のタトゥーを入れることに。

50歳の誕生日を機に、タトゥーを入れました。
左肩の鎖骨の下あたりにツバメの絵のちいさなやつ。
翌年、51歳の誕生日前後には、胸に文字を入れました。鏡に映した時に自分が読めるように反転した鏡文字で、しかもちょっと変わった書体なので、一見するとよくわからない文様のように見えるやつ。中二病感、ハンパねえ。
さらに52歳になったときに、右のふくらはぎに。これはどんなモチーフなのか説明がちょっと難しいので割愛。
本当は毎年ひとつずつ増やしていくつもりだったんだけど、ここ数年は例の感染症絡みのゴタゴタや、愛犬との死別などいろいろあったのでタイミングを逸してしまっています。でも、また入れていく予定。

で。
「腐った風呂」ってなんやねん、って思いますよね。はい。
ここからはその話です。

昨年、年の瀬も近くなったころ、「正月に一緒に旅行に行きたい」と義母から妻に連絡がありました。
数年前に義父が他界し、彼女にしてみれば、自分もそう長くはないとぼんやり感じているのかもしれません。ぼくは義母のことが好きなので(変な意味ではない)、元気で長生きしてほしいけど。
というわけで、娘夫婦+孫(妻とぼくとうちの娘ですね)、そして息子夫婦(義弟とその妻。子どもはいません)、6人で最後の思い出づくりに・・・という話です。

義母の暮らす妻の実家と、義弟夫婦の住まいは名古屋。うちは大阪。
というわけで間を取って、三重県の桑名にあるホニャララ温泉に行くことになりました。ホニャララ温泉周辺は、アウトレットモールもあって一大レジャーエリアになってるんですね。知らなかったわ。

泊まったのはホニャララ温泉のあのグループの中でもそこそこのランクの、ホニャラララ。正月2日からの予約を取るの、めちゃくちゃ苦労したらしいです(妻談)。

部屋に案内されるときに大浴場の前を通ったので、ちらっと確認したところ、「タトゥー・入れ墨のある方入浴お断り」とめちゃくちゃバーンと貼ってある。外国からのお客さまも増えたし、最近はOKのところもあるよな・・・と思ってた自分が甘かったです。まあ仕方がない。

夕食後、妻と娘は浴衣に着替え、キャッキャとはしゃぎながら大浴場へ。
ぼくは部屋の内風呂にお湯をためて入ることにしました。湯舟の横にある蛇口に、木の札みたいなのがぶら下がってて、そこに「源泉からのお湯が出ます」みたいなことが書いてある。そうなのか、じゃあ大浴場とおんなじだね。なんて思いながらお湯をためました。

数分後、お湯がたまったので風呂場へ。
頭と体を洗って、湯舟を覗いてちょっとビクッとした。
なんか、白濁してる。白濁してるけど、若干茶色っぽいような気もする。っていうかどぶろくみたいに濁ったものもフワフワしてる。
しかし、これはここの温泉の泉質がそういう種類なんだろうと思いました。フワフワしてるのも、「あー、これが湯の華とかってやつ?」なんて思ったり。特にこれといったニオイはありませんが、ややヌメリを感じるような。
「これがお肌に良いのだろうな、ふむふむ」なんて考えながら、のんびりと湯に浸かりました。

風呂から上がっていい気分でビールを飲んでたら、妻と娘が大浴場から戻ってきました。
「いいお湯だったわ」と妻。
「内風呂も源泉から引いてるんだって」とぼく。
「へえ、そうなんだ」
「うん。ここって、お湯が白濁してるんだね」

「え?」

不穏な沈黙。

「いや、普通に透明だったよ」と娘。

怪談で、こういう展開になってゾッとする系のやつあるよね。

「そんなわけない、だって白かったもん!
 フワフワしたやつも浮いてたもん!
 ちょっとヌルッとしてたもん!」
と駄々っ子のように言いながらスマホでググるぼく。

<ホニャララ温泉 泉質>

そこに表示されたのは無情にも「無色透明、無味無臭」の文字。

「白かった・・・」と妻。
「フワフワしたやつ浮いてた・・・」と娘。
「ヌルッとしてた・・・」とぼく。

風呂場に行って、空っぽになった湯船にもう一度勢いよくお湯をためてみると、なんのことはない無色透明のお湯が勢いよく出るばかり。

恐らく、例の感染症のせいで宿泊客も激減してただろうし、そもそもこんなところに来たらほとんどの人が大浴場に行くだろうから、ずいぶん長い間この内風呂は使われていなかったんでしょうね。それにしても、あそこまで変質するってどうかと思うし、部屋の掃除のときに湯舟を洗ったりしないんですかね・・・ホテル ホニャラララよ・・・

妻と娘から「体にカビが生えてくるかも」「変な病気になる」と脅され、結局ぼくはもう一回シャワーを浴びる羽目に。
2022年は、そんな散々な正月で幕を開けたのでした。

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