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ディズニーのブランドパーパスを体現する実写版『リトル・マーメイド』
こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。
先日発売された「DVD&動画配信でーた 2023年8月号」で「『リトルマーメイド』はディズニーのパーパス・ブランディングの一環だ」という記事を書かせていただきました。
※↑↑今月はラース・フォン・トリアー特集が最高でしたよ!!
文字数の関係上書ききれないことも多かったので、本noteにて完全版を挙げたいと思います。
実写版『リトル・マーメイド』
満を持して、ディズニー創立100年記念作の一つとなる、実写版『リトル・マーメイド』が今年6月に公開されました。本作は製作の時点から色々と物議を醸してきた作品なので、個人的に本当に「満を持して」感が強いなぁという印象です。
最も議論を呼んだのは、主演のキャスティングでしょう。主人公のアリエル役に選ばれたのは、黒人女性のハリー・ベイリー。言うまでもなく、アニメ版のアリエルは白人女性として描かれていますから、そのハレーションは非常に大きいものがありました。
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多くの人が批判の槍玉に挙げたのは、あまりにもポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)意識が強過ぎるのではないか、ということ。
原作を大きく改変してまで黒人女性を起用する必要があるのか、逆にポリコレばかりで作品へのリスペクトがないのではないか、そういった声が公開前からも多く挙がっていました。
『リトル・マーメイド』の興収や評価
では実際に「ポリコレ意識が強い」とされる、本作『リトル・マーメイド』は公開されてみてどうだったのか。
まず全米では、あの実写版『アラジン』を超える好スタートを記録し、大ヒットで迎えられました。批評家スコアはまずまずなものの、Rottentomatoesのオーディエンススコアでも、94%の評価と高い支持を受けています。
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ただし北米以外の地域では、特にアジアでは、あまり好調な成績ではない、というか、かなり苦戦が見られたようです。
まず日本においては、30億を超えるヒットを記録はしました。ただし、同じく実写版の『美女と野獣』、『アラジン』の興収120億ラインと比較すると、かなり見劣りしてしまう数字です。
中国や韓国でも(特にディズニーがマーケットとして重視していた中国では)、興収は事前の期待を下回る数字となっており、下記で引用したような、アリエルの配役に起因するネガティブな動きも多く見られていたようです。(日本でも同様の動きがあります)
中国のレビューサイト「ドウバン」での評価は10点満点中の5.1点。興行データ追跡サイトの「マオヤン」では、「私にとってリトルマーメイドは白人なのに」「幼い頃に聞いて育ったおとぎ話が見る影もない」と嘆く書き込みや、差別的なコメントが相次いだ。
韓国からも、インスタブラムに「#NotMyAriel」(私のアリエルではない)というハッシュタグとともに、映画が「台無し」だという投稿があった。
日本では9日の公開前から、アリエルがイメージと違うと批判する声が上がった。子ども時代の大事な思い出とアリエルのイメージを踏みにじらないで、と書き込むユーザーもいた。
当然コロナによる市場の変化やディズニープラスの台頭など、本作の興収には複合的な要因が絡み合っていると考えるべきですが、こうした結果を踏まえると、ポリコレ、および配役による影響は少なからずありそうです。
パーパス・ブランディング
こうしたネガティブな生活者のリアクションは、ある程度ディズニー側でも予測はついたはず。ましてやアニメ版『リトル・マーメイド』やアリエルは絶大な人気を誇っていますから、原作をビジュアル面で改変することのリスクは認識していたはずです。
それでもディズニーがこのキャスティングを固辞し、スタンスを貫いたのは、100周年記念として作られる本作が、ディズニーの「パーパス」を体現するブランドコンテンツに他ならないからでしょう。
ここで、そもそも「パーパス」の説明をしておきましょう。
マーケティングにおける「パーパス」とは、自社の存在意義や世界に対する働きかけを明文化し、世の中に対して表明するものです。
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このパーパスが注目されている背景としては、現代においてプロダクトやサービス内容だけで差別化をすることはどんどん難しくなってきており、自ら情報収集が可能になった生活者(特にZ世代など若年層)は、企業やブランドのスタンスを確認し、購買や契約の意思決定をする、という生活者の志向の変化があります。
そのため企業はパーパスを対外的に表明し、それに基づいた行動を起こすことで、ステークホルダーの共感や信頼を勝ち取ることを目指します。
加えてパーパスを策定することで、対内的にも社員のモチベーションアップに繋がるというデータもあり、少し沈静化はしてきているものの、一時期のマーケ業界では「パーパス」がバズワード化していました。
※パーパスの詳細な解説はこちら
※過去Netflixのパーパスについても書いています。
ちなみに弊社トライバルメディアハウスのパーパスはこちらです!(唐突な紹介スミマセン)
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ディズニーが掲げるパーパス
さて前置きがすっかり長くなってしまいましたが、ディズニーのパーパスを見てみましょう。
【英語】
A world of belonging where each person feels seen, heard, and understood. A world in balance where people and wildlife thrive. A world filled with hope and promise. Explore our commitments and our work to create a better world through our stories, experiences, operations, and philanthropy.
【日本語】
一人ひとりが、自分の存在を認められ、理解されていると感じられる、誰もが居場所のある世界。人と野生動物が共存する、バランスのとれた地球。希望と可能性に満ちたコミュニティ。ディズニーはこの3つの世界を物語、体験、事業、ソーシャル・レスポンシビリティの活動を通じて目指していきます。
あえて一言でまとめるとすると、ディズニーは「物語の力で良い世界へ」というパーパスを掲げており、このパーパスを指針にして、様々な社会活動を行っています。
当然、本作『リトル・マーメイド』も、このパーパスのもと製作されている映画になりますから、ある意味社会活動の一環と言ってもいいでしょう。特にこれから公開される『ウィッシュ』に並び、創立100周年の節目にリリースされる映画ですから、よりその文脈は強いことが想像されます。
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「誰もが居場所のある世界」=黒人女性がアリエルをなんの違和感もなく演じて受け入れられる世界。「バランスのとれた地球」=セバスチャンやフランダーなど種族を超えた共生が実現する地球。「希望と可能性に満ちたコミュニティ」=性別や人種など関係なくお互いを理解し尊重しあう、本作の最後で描かれた陸と海の相互理解。
このような本作で描かれた「美しい未来」は、「誰も置き去りにせずに平等に夢を与えたい」、「希望に溢れたより良き世界を作っていこう」という、ディズニーによるパーパスの宣言に他ならないのです。
だからこそポリコレと批判されようが、一部で興収が不調になるリスクがあろうが、このパーパスと未来を約束するために、ハリー・ベイリーにアリエル役を託す決断をしたのでしょう。
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一応補足しておくと、ロブ・マーシャル監督は、ハリー・ベイリーは黒人だからあえて意図してではなく、シンプルに才能に溢れていたからアリエル役に起用しただけだ、と説明しています。ただそれがOKかのジャッジをしたのは紛れもなく出資元のディズニーになりますので、その判断の土台にあったのは、上記のようなパーパスだったと考えられます。
パーパスの源泉になるもの
このようにパーパスを表明し、行動するうえで大切なことが、それがその企業が持つ歴史や強みを源泉としていることです。それがなければ、パーパスとは名ばかり、ただの空虚なステートメントになってしまいます。
例えばソニーのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」ですが、これはオーディオやスマホを開発しながら、映画や音楽などエンターテインメントに投資をするソニーの強みに深く根差したものでしょう。
また個人的にサイバーエージェントのパーパスが大好きなのですが、「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というもので、これも言わずもがな、CAの強みを源泉としています。
(弊社のパーパスも「マーケティング」という強みを源泉にしています)
ディズニーでいうと、広義には「物語の力」ということになりますが、こと『リトル・マーメイド』においては原点回帰として、「真実の愛」を源泉にしていることが、個人的に感銘を受けました。
「真実の愛」、これは『白雪姫』からディズニーが何十年も描き続けてきたテーマですが、近年はステレオタイプを回避しようと苦心していた印象があります。男女ではなかったり、姉妹だったり、友情推しだったり、これもパーパスによる判断なのかもしれませんが、変化球が多かったなと。
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それでも『リトル・マーメイド』では、アリエルとエリックという二人の男女の「真実の愛」の物語に真正面から向き合い、それを源泉として、パーパスが理想とする未来を描き切りました。
ただ未来を描くだけじゃない、「真実の愛」を軸に、ディズニーの過去と現在と未来が地続きになっているからこそ、本作が提示する未来は非常に説得力があり、ワクワクするのです。
ディズニーが蓄積してきた歴史と強みを土台にして、新しい未来へと共に船出する~、そのストーリーが非常に胸熱で、まさに完璧なパーパスブランディングだなぁと思わず感心してしまいました。
まとめ
確かにディズニーにそこまでの思い入れが強くない一介の映画好きとして観てみても、主演の配役以外にもポリコレ意識は非常に強いし、要素としても多いので、説教臭いなとは思います。
ただもはやポリコレを批判する人を振るい落としに来ているかのような、真っ直ぐぶれないパーパスで、ついてきてくれるファンと新しい未来に向かっていくんだ、物語の力でよりよい世界を作っていくんだ、という強い決意を感じました。
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本作を観た個人の感想としては、ストーリーはアニメ版をそのまま踏襲していたのですこし退屈してしまう場面もあったのですが(アニメは幼少時から何回も観ているので)、それでもパーパスに共鳴し、こうしてディズニーを讃える記事を書いています(笑)。見事にディズニーの戦略が成功している一例と言えるでしょう。
12月に公開される前述の『ウィッシュ』をはじめ、ディズニーはこれからもパーパスドリブンな映画製作を続けていくでしょう。ディズニープラスが盤石となりつつあり、配給収入以外にも映画製作の投資を回収する手段が増えたことも追い風になりそうです。
まだ不確定ではありますが、実写版『バンビ』の監督が、『テイク・ディス・ワルツ』や『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のサラ・ポーリー監督で検討されているようで、社会性の強い監督なので、このアサインは色々と想像してしまいますよね。
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ということで、これからもディズニーの映画は追い続けたいし、一緒に世界を良くしていくことができたらなと思いました。
長文になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
※絶対に不要だし空気読めないのはわかってるけど、やっぱサラ・ポーリーは『ドーン・オブ・ザ・デッド』が好き!!(笑)
※色々堅苦しいことを書きましたが、本当はこんな人間です!
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