同じ戦術でも大きな差がつくわけ -『レジェンド&バタフライ』と『金の国 水の国』について-
こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケターの栗原です。
さて、1/27(金)に公開された木村拓哉さん、綾瀬はるかさん主演の映画、『レジェンド&バタフライ』が大ヒットを迎えています!
初登場では、オープニング3日間で動員37万1000人、興収4億9700万円をあげて初登場1位を獲得。これまで長らく『THE FIRST SLAMDUNK』が1位を、『すずめの戸締まり』が2位を独占していましたが、遂にそこに風穴を空けた形になりました。
同じくそんな週に公開されたアニメ映画が、『金の国 水の国』です。
実は恥ずかしながら、まだ『レジェンド&バタフライ』は観られていないのですが(今週末観に行きます!)、『金の国 水の国』は岩本ナオさんの原作が大好きなこともあって、公開日に劇場に駆けつけました。
内容は本当に素晴らしかったです。忠実に再現された世界観も見ごたえがありますし、主演の二人もハマりすぎ、、!何よりもストーリーが良くて、しっかりと原作をリスペクトしながらも、原作になかった余白の部分が脚本でカバーされ、圧倒的な感動で包んでくれました。もうどれだけ泣いたかわからないくらい、号泣しましたね(笑)。大好きな作品の一つになりました。
ただ公開初日に観て驚いたのが、自分以外の観客が数名しかいなかったこと。自分の近隣の映画館がそこまで都心部じゃないのと(とはいえ首都圏)、レイトショーだったということもあるのでしょうが(とはいえ金曜の21時~の回)、大好きな作品だけに少し寂しい気持ちになりました。
上記の興収ランキングにもありますが、『金の国 水の国』の初登場の成績は6位。強力なライバル作品の存在はあれど、4位くらいには滑り込んでほしかったな、、(せめて『イチケイのカラス』や『ONE PIECE FILM RED』には勝ってほしかった)。
結果がはっきりと分かれた2作ですが、よくよく思い返してみれば、『レジェンド&バタフライ』と『金の国 水の国』って共通した宣伝展開をしていたなと思い、改めて分析をしてみようかなと思います。
両作とも、とにかく役者稼働が多かった
とにかく2作品とも主演俳優がTVに出まくっていましたよね。読んでくださっている皆さんも公開直前に木村拓哉さんや賀来賢人さん、浜辺美波さんをTVで観た、という方も沢山いらっしゃると思います。
かたや東映、かたやワーナーブラザーズの力作、ということもあってか、両作品とも朝から晩まで主演キャストが各局の番組に宣伝として出演していました。映画の意欲が上がりやすい公開直前、公開日に役者がTVで番宣活動を行うこと自体、日本ではスタンダードな宣伝手法ですが、ここまで大掛かりにやっている作品も久しぶりな気がしました。
特に木村拓哉さんに関しては、もはやネガティブな切り口での記事も出てしまうくらい、本当に精力的に宣伝活動をされていたのが印象的でした。上の記事でも書かれているように、現代における「番宣効果」の可否はあるにせよ、どちらの作品も沢山の露出をとれたことによって、作品認知を高めることには大きく寄与したと考えられます。
さて規模の違いはあれど、どちらも役者をフックにTVを中心とした露出をとる戦術をとっていた部分は共通しています。ただ初登場の結果は1位と6位。
この差をわけたもの、それは大きく下記の2点だと考えられます。
①作品が持っているアセット(内容以外の強み)
②作品のターゲットセグメント(デモグラ的、トライブ的な観点ともに)
順に解説していきましょう。
作品が持っているアセット
詳しくはぜひこちらの記事を参照いただきたいのですが、①②ともに大きくは「ターゲット設定」の話になります。
まずターゲット設定を検討するうえで、考えるのはアセットの観点です。
例えば「ベストセラー〇〇万部の原作」とか、「超有名キャスト」とか、「あの〇〇を大ヒットさせた」監督とか、アセットとは、そういった内容以外の部分で、引きを作れる要素のことを言います。
このアセットが著しく強い作品だったら、極論「認知」に振り切って露出をとりまくる戦術でも問題ありません。例えば名探偵コナンの劇場版だったら、コナン自体が国民に強く根付いているアセットなので、作品が公開されている情報さえインプットしてあげれば、劇場に来てくれる人は多くなることは想像に難くないですよね。(誤解を恐れずに言ってしまえば、内容はそこまで重要じゃない)
もう1年くらい前ですが『シン・ウルトラマン』なんて、「ウルトラマン」という国民的アセットを生かした、まさに「認知」特化な戦術でした。
この観点から見てみると、『レジェンド&バタフライ』は、このアセットが近年稀にみるレベルで強いです。
まず映画でもドラマでも、数々の作品を大ヒットに導いてきた木村拓哉さんが主演であるということ。そして同じく国民的女優、綾瀬はるかさんがW主演を務めることをはじめ、超豪華キャストの共演が観られるという点。さらに題材が、誰もが歴史の授業で学び、知らない人は「絶対にいない」と言っても過言ではない、「織田信長」の映画であること。それを『るろうに剣心』を成功させた大友監督が撮る…。
これらの超強力なアセットがあるからこそ、『レジェンド&バタフライ』は、「認知」に振り切っても、「観たい」という気持ちを醸成することが可能でした。
一方で『金の国 水の国』のアセットは、そこまで強いとは言えなかったと思います。原作はマンガ賞をとっているものの、あまり知名度があるわけではなく、監督も新進気鋭の方なので、まだそこまで知られていません。
浜辺美波さん、賀来賢人さん、主演の二人も当然物凄く人気がありますが、ポイントは「声だけ」の出演ということ。もちろん鑑賞済みの私からすると、お二人とも声も演技力も素晴らしいのですが、ビジュアルが人気なこともあって、「劇中では声だけしか聴けない」、というアセットの制約は結構あったと思います。
まず「認知」特化で攻められるほどのアセットがあるのか、「アセットの強弱」はどうなのか、この観点があったのかなと思います。
ターゲットとTVとの親和性
もう一つはアセットと関わる部分でもありますが、ターゲットとの親和性がどうだったかです。先の記事にあるように、ターゲット設定はアセットを起点に、趣味嗜好で繋がった「トライブ」、年齢や性別、居住地、家族構成などの「デモグラフィック」の観点から検討していきます。
まず『レジェンド&バタフライ』のトライブですが、各役者陣が国民的なので、役者トライブ(「木村拓哉トライブ」を筆頭に)が非常に強いでしょう。それに加えて、織田信長が題材ですから、「時代劇トライブ」の2強になってくると思います。(時代劇と言っても、もっと細かいのは重々承知ですが、ここではあえて単純化します)
次にデモグラです。こうしたトライブが多く属しているデモグラはどこか。それは40代以上の中高年の層です。元SMAPの木村さんは「平成を抱いた男」と言われるくらい、上の世代から圧倒的な人気がありますし、時代劇と言えば、NHK大河ドラマを観ている層も中高年の世代が中心です。
こうした層に特徴的なのが、TVを非常によく観ているということです。近年デジタルネイティブの若年層のTV離れが叫ばれて久しいですが、中高年の層のTV人気はいまだ根強いものがあります。
そうしたトライブ・デモグラの人たちに、木村拓哉さんのアセットを生かしながら露出をとりまくった『レジェンド&バタフライ』の戦術は、理にかなったものだったと言えるでしょう。
『金の国 水の国』は、同じく役者トライブや、マンガ賞をとるような原作をキャッチアップしている「マンガトライブ」(これももっと細かいのですが、ここではあえて単純化)が中心になるでしょう。
ただ主演の二人もまだまだお若いですし、原作も2014年の作品だったりするので、デモグラを考えると、かなり若年層なんですよね。20代、いっても30代くらいがメインターゲットになって来るでしょう。
そうした世代の人々たちは、なかなかTVをはじめとしたマスメディアでは情報が届かなくなってきていますから、そうしたターゲットとTVとの親和性の面でも、露出する戦術は利きづらかったのだと思われます。
ポイントは「アセットの強弱」と「ターゲットとTVとの親和性」、この要素が同じTV露出を図っていた2作で、大きく結果の差が生まれた部分なのかなと思います。
番宣が効果的に利く条件
先ほど上にあげた記事から、番宣効果に疑問を呈した大泉洋さんのセリフを引用します。
個人的には、まだまだ「番宣効果」というものの効果は根強くあると思います。ただそれが利く作品には条件があります。ここまで見てきたように、
①アセットが超強力であること
②ターゲットとTVとの親和性が高いこと
この2点が備わっている作品であれば、「認知」特化の番宣も大きな効果を発揮すると思います。
逆にそれ以外のほとんどの作品は、「文脈を繋いであげること」がテーマになります。具体的には特定のトライブの「興味関心」「意欲」を上げるために予算を使い、その方々に刺さるコンテンツを発信することで、局所的熱狂を作ることです。
いきなりマスではなく、そうした局所的熱狂を土台として、マスにクチコミで広げていくような流れが主流になるでしょう。
アセットが強くなかったとしても、内容が本当に素晴らしい作品なんて本当に山のようにあるので、しっかりと映画と生活者との文脈を繋いで、観てもらうための導線を作れるのが理想ですよね。
「認知」のパワープレイができないと、戦略や企画が大変になるのですが、それを検討するのが醍醐味でもあるのかなと思います。
以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!