映画『運び屋』を観た
クリント・イーストウッドといえば。
『グラン・トリノ』や『ミリオンダラーベイビー』で、すっかり欝映画監督としてのイメージが定着しているような気もするが。
アメリカに実在したレオ・シャープという伝説の運び屋を報じた記事の権利まるごと買い取ってモチーフにした今作、『The Mule』は、なんと、あろうことか「武器と麻薬でハッピーになってしまう映画」だった。
退役軍人で園芸家の主人公・アールは、仕事に生き、家族を顧みない男だ。娘の結婚式の日にも、自身が育てた花の品評会に趣き、孫娘の結婚報告パーティーには、園芸業が立ち行かなくなった為に現れた生粋のクズ。しかしそこで偶然出会った、孫娘のフィアンセの友人であるメキシコ人に麻薬の運び屋を依頼され、大金を手にしたことで、アールの生ける伝説が始まる。
なんとこのおじいちゃん、元軍人なので肝が据わっていること・どこでも瞬時に馴染む鬼コミュ力のせいで、メキシカンマフィアにも『タタ(じいちゃん)』と呼ばれ親しまれるようになってしまう。
武器や麻薬の密輸で手にした大金で、友人の店や孫娘の学費を払い、今まで失ってきた家族の信頼を取り戻すアールだったが…。というのが主なストーリーだ。
なんとこの映画、死人が殆どでなければ、不幸になる人物もいないのだ。
アールは周囲を振り回して奔放に生き、失った時間は取り戻せなかったが、再び家族に愛された。
何故だか彼を見ていると、「こんなに自由に生きて、大金で身内を喜ばせられるなら、どうせ老い先短いんだし掴まってもプラマイでプラスでは?」とさえ思えてしまう危険な映画だ。ラストシーンの刑務所でデイリリーを植えるアールの姿には、希望さえ抱いてしまう。
またこの映画、音楽にメッチャ凝っているのもポイントが高い。
麻薬を運ぶ車の中で、アールは毎回違う、若い頃に嗜んでいたフォークソングをかけて、陽気に歌っている。そのコミカルさがまた、題材とのアンバランスさと、アールのふざけた人柄に拍車をかけていて、とてもよい効果を発揮していた。
個人的にものすごくハッピーな映画だった。人生行き詰ったら犯罪に走るのもいいなとか思えてくる。メキシカンマフィアの描きかたも、「イメージで作ってないか?」というくらいコッテコテで、それもまた笑いを誘う。葬式に配慮するのも、そっち系ならではだね。
伝説のクソ男の愉快な生き方、ぜひこの映画で確かめてほしい。