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夜の書簡《I》

黒坂吃→宮島春

 きみは想像したことあるかい? 神について書くには悪魔の力を借りねばならないらしい。埴谷雄高『死霊』にそんな記述があるんだ。ぼくはこれを読んでゾッとした。心と頭は光と影のように交わらない。思考にはいつも悪魔が潜んでいる。ドイツの神秘学者たちが言うように、心の中には神がいる。では、信仰というものは一体何だろう? こう考えている時点で、ぼくは悪魔に操られていることになるらしい。考えても分からないことがある。チェスタトンは箍がはめられた頭よりも、罅が入った頭の方が健康的だとか言っていたけど、では精神安定剤を飲んで必死に現実にしがみ付いている精神病者よりも、覚せい剤を用いて頭の罅から新鮮な快楽をたらふく吸い込んでいるジャンキーの方が健康的だということになるのか? ぼくは少し悲観的になっている。鬱期に入っているのかもしれない。いきなりこんな手紙を送りつけて申し訳ないけど、きみならどう考えるか気になるんだ。ぼくは麻薬をやらないけど、睡眠薬は大好きだ。確かに、昼間にマイスリーを飲むと一気に気分が晴れて、それを飲んでいない時よりも明るく他人と関わることができる。でも、それは本当のぼくではないでしょう? 考えてはダメだ、考えてはダメだ…。

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