「チワワちゃん」
大学一年生の冬、友達と新宿のレイトショーでこの映画を見た。時間になるまでファミレスかどこかで時間を潰して、寒さと眠気で少しだけぼんやりしながら映画館に向かった。確かゴジラだった気がする。人はまばらで、この映画に登場するような派手な見た目の人が多かった。
(今考えるとホストかメンズ地下アイドルの集団がいた気がする)
真夜中の新宿で爆音の華やかな音楽に包まれるのは心地良かった。美しい女の子や男の子が目まぐるしく踊り回るのも、極彩色の夢見るような映像にも、まだ世間慣れしきっていない19歳の私はすっかり虜になってしまった。
全部見終わって、友達と感想を言いながら新宿駅東口の地下、NEWDAYSのそばの階段に座って始発を待った。とても寒くて体はもう半分眠りにつきそうだったし、目もほとんど開かなかったけど、頭だけは冴えていた気がする。
大好きな映画なので、Netflixで見放題になってからは定期的に見ていた。でも、今日で配信終了ということで、初めてみたあの夜を思い出しながら感想を書く。
原作はついぞ読む機会がなくここまで来てしまったので、映画だけの感想。
まず最初に、チワワと呼ばれる少女が無惨に殺害されたニュースからこの映画はスタートする。これがまずセンセーショナルで魅力的。誰だって美少女が殺されたなんて悪魔的な誘惑には勝てないもんね。
これでチワワちゃんを殺した犯人や、事件について追っていくストーリーかと思いきや、その事件についてはほとんど触れられることがない。決してミステリーではないことに驚いてしまった。結局最後までその正体はわからないけど、それでもいい。
語り手のミキをはじめとした登場人物たちはチワワちゃんの友達、というかクラブ仲間?映画はほとんどが彼らの爆発的な青春の映像ばかりで、盗んだ600万を使って遊びまわるシーンなんか会話もほとんどなく、ひたすら映像が展開される。でもその映像があまりに眩しくてきらめいていて全然飽きないし何度でも見たくなる。
アーティスティックな映像が続くお洒落な映画苦手で(飽きちゃう)、普段は日本のクライムムービーしかほぼ見ないけど、これとアデルだけは特別だなあ。
私は陰キャなので彼らがすごく爆裂な非日常がこの地球のどこで繰り広げられているのか見当もつかないし、600万を持ったところでどこに支払えばあの遊びができるかわからない。特に、あの頃の私は彼らよりも年下だったから、架空の夢物語を見ている気分だった。小学生が中学校に憧れる、中学生が高校に憧れる、みたいな。
今の私は彼らよりも歳を重ねているので、別の意味で眩しく見える。美しすぎる刹那だと思う。未来のことを考えることもなく、でも確かに未来に向かって突き進んで生を謳歌している美しい人たちって魅力的すぎるでしょう。あの世界の概念になりたい。
この物語は彼らが過ごしたチワワについてしか語られなくて、チワワの過去も何も掘り下げられない。刹那をすごした仲間たちらしく、刹那しか誰も触れない。でもそれでいいんだよね。永遠になったら衰えつまらない人間になったところまで直視しなきゃいけない。若く美しい彼らはこの刹那で死ぬしそれを後悔しないしそれが若さの誇りだもの。その一瞬を切り取ってフィクションとして映像に残してくれてるの感謝しかない。
チワワ役の吉田詩織さん、とても可愛くて愛くるしくて溌剌としていて美少女にしか似合わないショートカットがよく似合って眩しかった。テレビジョンロマンスのシーンなんか一生忘れられない。天使のように悪魔のように微笑むってまさに彼女のためにある言葉だった。
チワワは天真爛漫に見せるけど、中身は意地悪な女の子だよね。ヨシダくんのことを好きなミキが居た堪れなくて早めに化粧を終えて出てってしまうところを追いかけるシーンとか、優しく見えるけどその実全く優しくなくて、でもあの笑顔と甘ったるい声で呼び掛けられたら許したくて憎たらしくてたまらなくなっちゃう。
チワワが小さな花に包まれて死にたいというシーン、美しい理想の死を夢見る少女的で幻想的なセリフだと思ったけど、あんな大輪の向日葵のような輝かしい女の子の死に方には相応しくないようにした。結局チワワは冷たい海に沈んで死んでしまったから夢は叶えられなかった。それが悲しいけど叶ってしまっていたらチワワは伝説として生きながらえてしまっただろうから、チワワを青春にするためにはそうやって死ぬことは決してできないだろうね。
最後の海のシーンもそう。そこがチワワが眠っていた場所であるからという理由以上に、青春の友達だった皆は、お墓参りに行く訳にはいかない。青春だけでいいからこそ彼らはあんなにも美しいんだから。
にしても、あの映画を見た日の私、最高に若くて痛くて可愛くて無敵だった気がしてきた。
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