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mocopi から学ぶ戌神ころねの身体的没入感
■mocopiって何?
皆さんはmocopi(モコピ)をご存知でしょうか?
……という書き出しをした以上は、mocopiについて熟知した感じのことを書かなくちゃいけないのでちょこっと調べてみたのですが、なんだかどうも説明が難しい。
画一的な説明でいうと、mocopiとは「SONYが販売する小型・軽量のモバイルモーションキャプチャー」のことです。
「ユーザーは、6つの小型センサーを全身に装着し、専用スマホアプリを組み合わせることで、高精度かつリアルタイムでのモーションキャプチャーをすることができる」、そんなシロモノです。
自分のおぼろげな知識で言うと、VTuberは2Dモデルと3Dモデルの配信が主流ですが、3Dでやる場合は、今まではそれ専用のちゃんとしたスタジオじゃないと実施が無理でした。
最近だと、たとえばホロライブは自宅でも3Dモデルでの配信が出来る技術「おうち3D」を確立しており、その際の手段の一つとして有効に用いられているのが、このmocopiです。
今まで書いたことをぎゅっとまとめると、「mocopiを使うとVTuberはおうちで3Dモデルの配信ができる!」ということになります。
■戌神ころねのmocopi配信
先週の17日(土)早朝、ホロライブ所属の戌神ころねさんがmocopiを用いてNintendo Switch『リングフィット アドベンチャー』の実況配信を敢行しました。
ころさんとmocopiといえば、去年の宝鐘マリンさんとの「マリころ」オフコラボでもmocopiを使用していたのですが、そのときの挙動のハチャメチャ具合がなんせすさまじいものでしたので、今回はどうなることやらと不安半分、期待半分で配信を見守りました。
しかしそんな微かな不安は杞憂に過ぎなかったのか、おうち3Dでの配信はサクサクと順調に進みます。
mocopiにアップデート的なやつが存在するのかは不明ですが、なんかそういう技術的な進化があって、おうちでmocopiを使ってもアヴァンギャルドかつアナーキーな動きにならないように改善されたのかもしれません。
そしてゲーム本編が終わり、この日のころさんは「ホロライブサマー水着」の装いだったので、スクショタイムに移行することになりました。
しかし、希代のトリックスターである戌神ころねの配信において、このまま何事もなく終わるワケが無いのでした。
■笑いの基本
ところで、笑いの基本は「フリ・オチ」です。「緊張と緩和」とも呼ばれるやつですね。
前もってちゃんと丁寧にフッてフッて、ドンと一発でオトす。フリからオチの落差が大きいほど、笑いの量が増える仕組みです。
今回の事例でいうと、「ゲーム本編の実況配信は順調そのものだった」という点が“前フリ”に当たります。
私は戌神ころねさんを配信の天才だと思っているのですが、この「フリ・オチ」を作為ではなく、天然でやってのけてしまうのが配信者としてド級にすごいところです。
■無重力空間におけるセンシティブなブレイキン
さて、ゲーム終了後は一体どうなってしまったのか。
結論から言うと、mocopiが突如大暴走し、それはもうムチャクチャなことになりました。
言葉で形容するのは難しいですが、「暴風雨が吹き荒れる無重力空間での無秩序なブレインキングダンス」といった状態になりました。または「人力ゲッダン」と言えば伝わるでしょうか。
人間が到底できる筈もない動きでカラダがグニャグニャになりながらデジタル空間を縦横無尽に暴れ回るころさん。彼女はこのたびの無政府状態を「mocopiのどこかの部位が電池切れしているからか?」と推測していました。
そしてmocopiには男子中学生の思考をトレースしたAIでも搭載されているのでしょうか、動きがどことなくセンシティブな感じなのです。
大股開き or M字開脚のフォームで画面に向かって局部を見せつけるのが基本形で、その度にころさんは「イヤァァァァァァ!」と事件性の高い悲鳴を張り上げます。
現役のアイドルVTuberにかける言葉として最も似つかわしくない「あられもない」とか「痴態」とかの単語が全リスナーの脳裏を駆けめぐる、まさしく異常事態。「これこそがホロライブだよ!」と原点回帰(?)を喜ぶコメントも見かけましたが、それはそれで果たしてどうなのか。
当該シーンの切り抜きも多く制作されましたので、ホロライブを追っている人は目にされた方も多いと思います。
しかし、今回「mocopiと戌神ころね」についての記事を書こうと思ったのは、そのセンシティブダンス自体が主眼ではありません。その壊滅的でトリッキーな動きは、トラッキングがうまいこといっていないmocopiの手柄です。
それでは、今回のころさんの功績とは一体何でしょうか?
それは、「自らのカラダの状態に対してのビビッドな反応」です。
■戌神ころねの身体的没入性
前々からころさんの身体能力には定評があります。
ライブ本番での前方倒立回転・側転・側宙は今も語り草ですし、ホロライブのダンス担当大臣を任せていいほどのキレのあるステップとダンスは、彼女のフィジカル能力の高さを証明しています。
しかし、その手の分かりやすい大技ではなく、基本的な前提として、ころさんは自らの3Dモデルへの没入度が高い。
無粋を承知で書きますが、言ってみればどれだけアバターのころさんがM字開脚で空中を飛び回っていたとしても、「中の人」の方のころさんの実際の肉体はそういう状態ではないのです。それなのに、今まさに自らの肉体が巨大な洗濯機の中にぶち込まれたかのように毎回新鮮な反応を見せます。
私が彼女のファンだから、という贔屓目とかまったく関係なしに、アバターがムチャクチャになっている状態に対しての「ギャアアアアアアアアアア!!」には一切のタイムラグがありません。
みこち言うところの「あえんびえん(※阿鼻叫喚の意)」、七転八倒と同時にノータイムでもれなく悲鳴のリアクション。
「中の人」の意識と、デジタル空間のころさんの肉体が別々のものとして切り離されておらず、まさに一心同体、「本当にころさんは画面の中に存在しているんだ!」とリスナーを納得させる臨場感を生み出す効果となっています。
それを先ほど私は「自らのカラダの状態に対してのビビッドな反応」と言い表しましたが、その能力・表現に戌神ころねさんは秀でているのではないでしょうか。
自分のカラダ(アバター)を、本当に自分のことだと思い込む。
3Dモデル配信を実施するにあたっての基礎中の基礎かもしれませんが、これを徹底するのは口で言うほど簡単ではない気がします。身体的没入性とでも言いましょうか、ここは確実に頭一つ抜けているポイントだと思います。
その点が、先日のmocopi配信では「フルコンボだドン!」と太鼓の達人のどんちゃんが絶賛しそうなくらいにパーフェクトでした。
■類まれなるワードセンス
そしてフィジカル面だけではなく、ころさんは今年のスマッシュヒット「おでかけFANZA」を生み出したワードセンスの天才でもあります。
mocopiにカラダを弄ばれる最中の「(こんなの)ホロライブじゃない…」「ごめん、谷郷さんごめん…」はせつなさが爆発していて思わず朝からもらい泣きをしてしまいました。カバーCEO・谷郷さんを通称の「YAGOO(ヤゴー)」ではなく「たにごうさん」と正式に読んでいるあたりもポイント高いですね。
続いての「あなたたちが作った、この、技術の高い3Dが……(※ここでカラダねじれる)ウワァァァァァァァ!!」には、技術力の高さゆえにそれに翻弄される人類の悲哀のようなものがにじみ出ていて、質の高い一本の映画を鑑賞した気分になりました。
昔はいろいろゆるやかだったホロライブも最近はコンプラでガチガチになってきたという声も聞こえますが、何故かmocopiに関してだけは「治外法権」という単語がしっくりくるほどのガバガバ具合です。
動きよし・言葉よしを地で行く「文武両道」の究極系とも呼べるころさんのmocopi配信、未見の方はもう見るっきゃないでしょう!
それが、このたびの私の偽らざる実感でございます。
【参考】
メタバース総研
「SONYのメタバース向けモーションキャプチャーmocopiとは?」