よみうりランドで恥をかいた話
先日、未婚男性6人(全員30オーバー)でよみうりランドへ遊びに行ってきました。
なんだか「現代日本の縮図」みたいなメンバー構成で我ながらゾッとしますが、今回の話は私ひとりでいる時に起きたことなのでメンバー自体は関係ありません(でも思わず書いてしまいました)。
さてよみうりランドへ行く前日、「どういう行き方があるんじゃい」とルートを調べました。
電車だと主なルートは二つ。
小田急線「読売ランド前駅」か、京王線「京王よみうりランド駅」か。
どちらも当然よみうりランド行きのバスが出ています。ただ、「京王よみうりランド駅」にはもう一つの交通手段がありました。
それは「ゴンドラ」です。
なんだか煽情的かつ蠱惑的な文章でずいぶんと我々民衆を焚き付けてくるではありませんか。
空中散歩……。楽しいことの少なかった私の人生に、いかにも彩りの1ページを加えてくれそうではありませんか。
この瞬間、迷うことなく「わだばゴンドラで行ぐ!」とまったく縁もゆかりもない津軽弁で拳を強く握りしめたのです。
そして当日を迎えました。
大快晴。そして暑い。
昨日までコート必須の寒い日々だったのに、半袖でも全然いけてしまうくらいの初夏の陽気です。
私はニンマリとしました。これはまさに絶好のゴンドラ日和だと。
当日の段取りはよみうりランドでの現地集合で、京王よみうりランド駅に早めに着いた私には後からやって来る仲間たちを待つという選択肢もありました。
しかし仲間たちとワイワイ乗るのももちろん一興ですが、「空中散歩」の素晴らしい光景を独り占めしたいという人類古来のあさましい欲望に目がくらみ、ソロでゴンドラに乗り込むことにしました。
駅を出るとすぐにゴンドラ乗り場が見えてくるのですが、そこそこ長めの行列を成していました。彼らもきっと「ゴンドラ」「空中散歩」の蠱惑に魅了されたのでありましょう。小さき子供たちなんかは予想以上の暑さも相俟ってか泣き叫んだりしております。ただ、上空から矢継ぎ早にゴンドラは供給されるため、見た目より行列の消化は早そうでした。
私は目を閉じました。ゴンドラなんて乗るのはいつぶりのことでしょうか……。確かに何かの機会には乗ったのですが、その時の場所や、どんな感慨を抱いたとかはまったく思い出せませんでした。
そうこうする内にゴンドラに乗る順番が巡ってきました。
係員さんにチケットを渡し、万感の思いで搭乗。
勾配に沿ってゴンドラの高度がグングン上がっていき、地面に対して水平の移動になると私ひとりだけの「空中散歩」が幕を開けました。
左手の真横にはよみうりランド名物の人気コースター「バンデット」が、右手には遊園地のランドマークである大観覧車が見えました。他にも色とりどりの賑やかなアトラクションが目に鮮やかです。
確かになんとも素晴らしい眺めでした。
私は急激にテンションがブチ上がってしまい、ここはひとつ景気づけということで「ワーオ!!」と快哉の声を上げました。
「………?」
何故か、原因不明のしらーっとした空気が流れました。
まるで、私の他にも人がいるかのような……。
おかしい、そんな筈はないと念のため後ろを振り返ると、
一人の女性がこちらに背を向けて座っていました……。
要するにこういうことです。
私はすっかりゴンドラは個人もしくは1グループ専用の乗り物だと思っていたのですが、それはまったくの勘違いで、一つのゴンドラには二つの乗り込み口があり、私は前半の方に乗ったようです。
ゴンドラの中央には1列3人座れる席が2シートあり、中央のシートの背が区切りとなってそれぞれが背中合わせで座れるようになっています。基本的に「相乗り」が前提の乗り物なのでした。
女性は私の会心の「ワーオ!!」に対して無反応でした。こちらを見向きもしません。それどころか息を殺して気配を潜めています。
私も私の方で機転を利かせて「いや~すみません、てっきり私ひとりだけだと思っていましてですね、急に変な叫び声を上げてしまってどうも失礼いたしました、ハッハッハ……、いやぁ~失敬失敬! ……これも何かのご縁だと思いますので取り急ぎLINEでも交換しときます?」なんて声を掛けるなどのいかついコミュニケーション能力が私に備わっている筈がありません。そんな能力が無いこともあっての本日の「未婚男性」メンバーの一員なのですから。
あれだけ輝かしかった筈の空中散歩の光景は、今や灰色の風景となっていました(そういえば関係ないですけど、犬と猫の視界は青色と黄色の2色しか判別できないんですってね)。どんな色彩も私の網膜を震わせることはもうありません。口の中に広がる微かな苦味を噛みしめながら、「お願いだから早くこの空間が終わってくれ……」と地蔵のごとく押し黙りました。
こういう時、逃げ場の無いゴンドラはただひたすらに無情です。
背中合わせの無言の男女を乗せ、ゴンドラはゴンドラの役目をまっとうするのみです。
ゴンドラが目的地に到着すると、後ろも振り返らずにほうほうの体で脱け出しました。
傍から見ると「よみうりランドが楽しみすぎてダッシュで正面ゲートに向かう人」に映ったかもしれません。
よみうりランド正面入園口近くの木陰のベンチにヨロヨロと腰かけ、後続の仲間たちの到着を待ちながら、虚空に消えていった私の「ワーオ!!」の残響に思いを馳せました。
その後は無事に仲間たちと合流できたのですが、試合前の失点のショックが大きすぎて最初の方は記憶がありません。
ただ、マリオンクレープを食べたりいにしえのヒーローショーを見たり名物コースター・バンデットに乗ったりしている内に徐々に感情を取り戻していき、後半になってようやく「今日のよみうりランドを目一杯楽しむぞ」という気持が甦ってきました。仲間たちには感謝です。
私は元々遊園地好きの人間ではあるのですが、よみうりランドに行くのは今回が初めてでした。
としまえんはすでに消滅し、西武園ゆうえんちがああなってしまい、「もう私の好きだった古き良き遊園地は無いのかのぉ……」と縁側で老人じみた独り言を日長呟いていたものですが、なんてことはない、よみうりランドという形でここに現存していたのですね。
この日は週末ということもあり、大勢の人たちが思い思いにこの場を満喫していました。
私は暮れていく空を見上げながら「いつかもう一度行こう。その時は行きのゴンドラで二度と悲劇を繰り返さないようにしよう」という誓いを胸に刻みました。
帰りのゴンドラは6人で貸し切りでした。みんなでワイワイ言いながら見る夜景はとても美しく、楽しかったです。
行きもこうしていれば良かったんだよなぁとは思いつつ。
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