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電車の化粧
電車の中で化粧しているネーチャンを周囲のヒトが不快げに見つめ、最後に「こんなヒト、派遣しません」というナレーションが入る人材派遣会社のCMがありましたね。知らない?それを世間一般では「ジェネレーションギャップ」と呼ぶんですよ(笑顔)。
ワタシは快・不快ではなく「電車で化粧するのは恥ずかしくないのかなぁ」と単純に疑問に思うクチだが、先日見たものにはちょっと驚いてしまいました。
ちょっとした用事で1時間ほど電車に乗ったその日。正月のヒャッホイも落ち着いた平日の昼下がり、電車の中はポツポツと座ってる人がいる程度でした。暖房が心地よくてウトウトしそうになった頃、ふと、斜め向かいに座ったオネーチャンが、カバンをごそごそあさったと思うと、化粧を始めたのが目に入った。
割とおとなしい顔をした、まじめそうなオネーチャンだったので、そうくるとは思わずちょっと驚いた。
オネーチャンは、鏡を左手に持って眼前10センチくらいにかざし、小器用に化粧をしていく。
揺れる電車の中でリキッドのアイラインを描く勇気は、ワタシには絶対にない。しかし、彼女は見事にラインを引き、キリリとした目になったのであった。
ブラボー。
まじめでおとなしそうな女の子が、結構な美人になりました。
まあ上手…なんて感心してい見ていたのだが、なぜか彼女の手がとまらない。
小さいポーチから、出てくる出てくる。3種類くらいマスカラが出てきて、2種類くらいアイラインを引く道具があって、5種類くらいのパウダーがあり、ビューラーまで出てきた。
さすがのワタシも、ビューラーを電車の中で使うのは反対です。だってビューラー使ってるときのカオって変じゃん。
しかし、一切の躊躇なくビューラーでぐりんとまつげを上げた彼女、大量の化粧品をどんどんどんどん目に塗っていく。
まあ、目の化粧がうまくいったかどうかでその日の気分が違う人もいるらしいから、気合が入るのは判るのだが…。
10分経っても、20分経っても、彼女のアイメイクは終わらない。
すっきりシャープになった目許は、どんどん塗り重ねられてまつげがダマダマのパンダ目になり始めていた。
というか、ワタシも斜め前から相当ブシツケに見つめているのであるが、一向に気づく気配はない。ただいま、10センチ四方の手鏡が彼女の全世界なのである。
おや。
30分ほど経った頃、ようやく彼女の手が止まった。
かと思ったらスマホを確認し、ぽちぽち何かをうってスマホをバッグ投げ捨てると、再びアイメイク。
…もうよしなよ。アンタの目、それ以上の化粧に耐えられる目力はないよ。
そういってやりたいキモチが伝わったのか、ようやくアイメイク終了だ。
次はアイブロウである。眉毛のできのヨシアシも1日の運勢を決めるらしいから、さぞかし気合が入るのであろう。
…と思いきや、アイブロウはササッと1分で終了。
バリッバリに黒く縁取られた目に、申し訳程度に色づいた眉毛が完全に負けてるよ★
あとは口紅を塗って、髪の毛軽く撫でて、しまいにゃじゃらじゃらと光りモノまで身につけ始めた。あのバッグには四次元ポケットでもつながっているのではなかろうか。
滞りなく身支度が完了したらしく、締めくくりは「もうすぐ着くよ〜」とカレシにうっふんな電話をして、いきなりすまし顔である。
ここに至ってようやくボーゼンと見つめていた私に気づいたらしく、キッと睨まれた。
所用時間40分の大作から慌てて目をそらすワタシ。
電車に乗ってきたときの、あの初々しい彼女はもうこの世にはいないんだよ…そんな悲しみが心を支配する、そんな冬の電車内であった。