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0920|バイクとクルマとわたし

夕方までの仕事がおわって、ひと息。ちょっとおしゃべりとクールダウンしたくなって、久しぶりに顔なじみの喫茶店へ。おしゃれなお店で山の眺めがよい場所。カウンターに座ってお店のスタッフと話す。

閉店時間間際になって「10分だけでもいいです」って入店してきたバイクツーリング風のカップル。律儀に手短にコーヒー飲んで立ち去ろうとするふたりにお店のオーナー夫妻が声かけたのがはじまりで、昔、中型バイクに乗っていたわたしも横から話に加わらせてもらう。彼女はわたしより背は小柄、とても大型バイクに乗っているなんて思えなかったから。

それぞれ東海地方と九州からの遠距離?なふたり。九州の彼女はフェリーを使ってのツーリングで愛車はBMWのGS、1200cc、かっこよすぎる。秋風の心地よい季節、風を切ってバイクで飛ばすのはさぞかし気持ちいいだろうな。最後に店前に出て、彼のニンジャと彼女のGSを見せてもらって、みんなで見送った。


20代の頃、ご縁があって手伝いをしていて少し憧れていた、ひとまわり年上の女性のアーティストさんがあるとき「若い頃、バイク・オフ車乗ってた、へっぽこだったけど」と昔話をした。小柄でスタイルもよくて、かわいくておしゃれで、そして知的で。完全にサブカル系とおもったらバイク〜!?ってギャップも萌えた。それから少しして、彼女とは別の、憧れていて気になっていたひとがバイクに乗りはじめた話をきいた。学生時代、親が払ってくれて自動車免許を取りに行ったときは「みんなに合わせられない、わたしなんかが公共のルールにのっとって公道を走っていいわけがない」と教習所自主中退したくせに、オートバイの免許を取るためには自腹で教習所に通い始めた。


「え〜、きくちゃんバイク乗ってたの?カブじゃないの?え、マジで中型?絶対やめた方がいいよ」と喫茶店のオーナー。「中型〜250cc! けどバイク起こせなくて中型取らせてもらなかった。先に小型取ってから、中型に限定解除した〜(笑)もう15年以上乗ってない」「絶対、乗らない方がいいでしょ〜(笑)」


やっとのことで中免を取って、気に入ったバイクを買い、こわごわ近所で乗るようになった。冬のある日、待ち合わせで街中に行く途中、交差点手前で接触事故を起こした。6:4で車線変更ミス…

ちょうどその少し前に勤めていた会社でのデザイン関係の職を辞めることになった。次に何しよう、デザインやつくることに関わり続けたいけど経験も自信も足りないから、そうはっきりと決めきれない。明確な方向性がないゆえに気が乗らず、見えないゴールに向けてほそぼそと就職活動を続けていたある日、古本屋で棚に並ぶ本の背を眺めていたら「広告の仕事!」って降ってきた。正直全然知らないけど、逆に全然知らないから「コーコク・ギョーカイ」って自分みたいなのにもっとも向かない、合わない世界だと学生時代から信じ込んでた。だから「広告!」って直感には驚きと恐れしかなかった。学生時代の編集ゼミの先生になぜか「え、編集ゼミ選んだの?君は広告ゼミでしょ?」って言われたことも思い出して、次第にどうやら広告だって思うようになってきた。その一方で「編集」への興味もまだまだあった。


「広告やるなら、何の広告つくろう?」まず出てきたのはバイク…そしたら以前の職場で少し一緒した先輩がバイク関係の制作物をつくっていた。先輩に会って話きくのと前後してバイク業界だと市場が狭いよね、と気づき、じゃあ、バイクとクルマ!

自分の中でありえなかった超メジャー商品「クルマ」をターゲットに入れて「クルマの広告つくりたい」と自分の力量も顧みずに言いはじめて行動し始めたら、なぜかモノゴトが動きはじめた。併せて、中免だけではクルマの仕事はできない、とクルマの免許も取りに行った。

意識しはじめたら、クルマの広告作りが課題の無料ワークショップに行き当った。試しに登録に行った人材紹介会社では、クルマ業界希望ときくと元大手広告代理店役員OBが無料でアドバイスにのってくれた。「クルマの広告と一口に言っても範囲が広いからね。あなたのアイディアは面白いから、駅貼りポスターみたいな広告だけでなくて販促とかなにかしらできるとおもう」。


で、具体的にそういう仕事って、どこにあるんだろう。できるなら広告代理店を通さないところ。自分の理想と、現実の力量とのギャップを感じて、求人広告を見ても「この求人には自分は値しない」と最初から行動できないときもあった。あるいは、知人の紹介で話をききに行った、ある総合的なデザイン系女社長のところで「え?ほんとはクルマの仕事したいって?じゃあ、なんでうちに話ききにくるの?だけどクルマはお金も大きく動くからその分、大変だよ。まぁ、がんばって」と呆れ半分に励ましていただいたこともあった。

動いてみて、見えかけたかのようにみえた希望の光は、気づくとおぼろげになった。もうそろそろあきらめて、流行りのカフェや飲食店で忙しく働くのもいいな、と思いはじめた頃、これは!とおもう小さな制作会社の広告に目がとまった。

結果的にはそこではバイクとクルマをつくるメーカーと直接取引きして、販促に関わる編集制作物を自分たちでつくっている小さな広告制作会社だった。ギョーカイのニッチのニッチ、裏通りのビルにわたしの条件にずばりフィットする職場があったのだ。

やっと決まった、思い描いた通りの仕事は女社長が言った通りに「大変」な仕事で結局は長くは続けられなかった。当時のわたしはバイクはなんとなく好きだったけど、クルマはそこまで好きにならなかった。エンジンだなんだの機械的な仕組みは到底理解できなかったし、興味も持てなかった。ただ、クライアント企業の創業者が四輪にかけた熱意は、今でもふと運転中に思い出して共感して涙が出てくる。クルマは、ひとが自分自身で自発的に動く自由・行動・世界を広げてくれる、と。

バイクとクルマとわたし。風を切ってバイクで走る疾走感を思い出して、そんな風にタイトルを決め、思いつくままに書いた。今日のライダーカップルと出会ったことからの気づきは、あのときの感覚や流れを思い出すこと。

つまり「好きなこと」、「なんとなく」や「直感」を大事にして動く。方向性を決めて動いた方がシンクロが起きやすい。動いた先が八方塞りだったら、手放したときにやってくるものもある、ということ。もし進んだ道が違うと感じたら、また違う道を選べばいい。行き先を決めたら自分のことを信じて目の前の道を運転する、それだけなのだから。

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