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成瀬は天下を取りにいく

{読書の小窓}爽やか青春小説
😊ありがとう西武大津店❤️
成瀬あかり・・中2 その友達同じマンションに住む。島崎みゆき・・・中2
デパートは思い出の場所


西武大津店が、44年の歴史を閉じ、閉店することとなった。ローカル局びわテレビは、このデパートの前で「ぐるりんワイド」の番組で大津店閉店の感想を来店客に聞いている。
成瀬は、夏の思い出づくりとしてこのテレビに毎日映ることを思いつく。番組は17時55分に始まる。8月4日、ライオンズのユニホームに背番号1をつけて大津店の前に立っている中学生が映る。一週間後、成瀬からユニホームをもらった島崎が、成瀬と大津店前に立った。マスクに「ありがとう西武大津店」と書かれていた。
来店の婦人から”いつも見てるよ”と、また、部活の仲間が見に行くよとやってきた。女児から二人を描いた絵を持ってきた。
8月31日、閉店の日、成瀬からおばーちゃんが死んで「ぐるりんワイド」には行けない。学校も休むと島崎に言ってきた。島崎は一人で大津店の定位置に立った。ライオンズのタオルをくれる”一ヶ月ご苦労さん”と女性。”写真一緒にとって”中年の男。


「ぐるりんワイド」が始まった途端、成瀬がやてきた。「おばーちゃんの通夜が明日になり間に合った」島崎もホットした。撮影クルーが2階、3階へと移動、成瀬と島崎が後に続き、その後を子どもたちが続く。
6階のテラスで店長が閉店の挨拶とレポーターとのやりとりで幕がとじられた。成瀬の中二の夏は西武大津店に捧げられた。
成瀬の目標は、200歳まで生きること。大津にデパートをたてること。
<膳所から来ました>
Mー1グランプリに挑戦
成瀬が、Mー1グランプリに出ようと島崎を誘った。島崎は、ボケ役で渋々承知し申込書に母親の承諾印をもらう。
二人でネタつくりが始まった。初めに”膳所から来ましたゼゼからでーす”で始まった。”私は200歳まで生きる予定です”1回戦は、2分、ボケガ弱くオチまでいかない。
次に”西武大津店が閉店しました””私が大津に新しいデパートを建てまーす””エスカレターやエレベーターのない28階建てで一番上が食品売り場でーす”
文化祭でやってみた。途中でボケとツッコミが逆転するというアクシデントで終わった。Mー1グランプリまで毎日練習を続けた。


本番、梅田駅を下りて明治生命ビル。受付でエントリー代2,000円払う。
コロナのため無観客、スタッフがチラホラ。噛まずにやり遂げたが、結果は落選、来年も出ると成瀬は強気である。
(Mー1グランプリ・・・漫才頂上決戦~日本の若手漫才師を決める大会。2001年から始まり途中5年休み2015年復活、毎年12月、一等賞金1千万円
初代一等賞中川家・・吉本興業と朝日放送テレビ主催)


<階段は走らない>
50歳間近の中年男の同窓会
地元の弁護士・・・吉嶺マサル  同級生サラリーマン・・・稲枝敬太
敬太は、大阪の勤め先からの新快速の中で「西武大津店営業終了」とTwitterを開いてビックリ。来年8月末で営業終了、44年の歴史に幕をとじる。幼なじみのマサルからLINEにメッセ-ジが入っていた。
三日後、二人は大津店で待ち合わせた。皆で屋上につながる大階段を競争して走って店長に怒られたよと懐かしがるマサル。屋上までの通路は鉄柵で封じられていた。レストラン街でお茶でもしようと。すると二人の前に同級生男二人、しかも女性の同級生も二人とばったり。「西武大津店が閉店と聞いて居ても立っても居られなくて来ちゃった」
マサルの提案で彼の事務所で飲もうと意気投合した。マサルの音頭で”乾杯!”話が盛り上がったところでマサルが卒アルを取り出して懐かしさが倍増した。ところで”タクローはどうしたかな?”グループの中心人物だった拓郎は、小学六年生の冬休み突然消えた。マサルは、タクローとの間でゲームの順番でもめて気まずい思いをしたままそれがしこりとなったいた。卒業後30年が過ぎていた。
全員から同窓会をしようとマサルに皆の視線が集まった。マサルは、学級委員をやっていたし地元で仕事をしていることで幹事に適任となった。
計画した同窓会は、コロナのためその年は中止となった。
翌年、ライン登録グループ、Facebook,Twitter等行方不明の同窓生に呼びかけた。八月になり西武大津店の閉店まであと20日とカウントダウンの電光掲示板、その隣に西武ライオンズのユニホームの「ライオンズ女子」が映っていた。次に敬太が、ホームページを作って小学時代の同窓会にメッセージの募集をすることにした。その日の晩には、10件入った。その後どんどんと増えていった。大津店閉店1週間前、タクローから”8月31日19時、西武大津店屋上で”と届いた。


8月31日西武大津店最終営業日、「ぐるりんワイド」に「ライオンズ女子」が映っていた。
屋上への階段は、7階で鉄柵で仕切られていたが、今日は、外されて屋上へのドアーを開けて出ることが出来た。”マサル!”とタクローの呼び声、マサルと敬太は、声の方向へ走った。3人は抱き合って変わってないなーと肩を叩いた。
ホタルの光が流れて閉店を告げている。マサルが歌い出すと周りの人たちも歌い出し合唱となった。マサルは、西武大津店のお陰でタクローにも会えたよと敬太のホームページを褒めた。
+<線がつながる>
東大を目指す大貫と須田、成瀬は?


成瀬あかりは、滋賀県立膳所高校に入学。坊主頭の成瀬は、体育館での入学式に新入生代表として挨拶をした。成瀬は、髪の毛が一ヶ月1㎝伸びると聞きそれを検証するために坊主にした。大津市立きらめき中学からは成瀬の他男子生徒1人と大貫かえでの3人であった。島崎みゆきは他の高校に入った。大貫は、成瀬のちょっと変わってるところが嫌でいつも避けていた。ホームルームの自己紹介でも成瀬は、出身中学と住まいを言うとけん玉を出して大皿、中皿、小皿とふりけんを成功させ玉を消す手品まで披露。クラスメイトの拍手喝采を受けた。


いつの間にか、教室の中は小さいグループが出来、線が生えて蜘蛛の巣のようにつながってグループ化され、序列が固まる。
大貫は、放課後、前の席の大黒悠子と部活動を見て回ることにした。英語、写真、文芸班と見て回ったが決め手が見つからない。”カルタ班はどう?”悠子が言い出した。膳所校は、毎年、全国大会へ出場している名門校である。
2階の和室を覗くと坊主頭の女子高生が対戦相手と向かい合って札を取っていた。成瀬は、取るのが早かった。先輩に褒められていた。”おー大貫と大黒じゃないか”と成瀬。成瀬さんカルタ班入るの?うん。そのつもりで百人一首覚えてきた。やはりただ変わってると言うわけではなかった。


大貫は、今後の学校生活を考えて東大目指すと家族に伝えた。父は賛成、母は不安、妹は、テレビの東大王目指せと反応バラバラ。
7月は、学校行事の湖風祭がある。チャンスは、先輩やクラス内でカップルが誕生する。大貫は、自分には関係ないと高見の見物を決め込んでいたはずが、同じクラスの須田くんが一緒に帰ろうと誘われた。”大貫さん東大目指してるんだ。”と。”なんで知ってるの?”カバンから「東大英語Ⅰ」が覗いてた。”一緒に勉強するうちに8月のオープンキャンパスを見学しようと意見が一致し、新幹線、ホテルとどんどん話が進んだ。京都で待ち合わせて新幹線で東京へ。


オープンキャンパスの日、東大の構内を歩いて食事場所に向かうと前に同じセーラー服を着た成瀬がいた。須田が、成瀬と声をかけた。食事に行くけど一緒に行く?と誘う。
大貫は、食事が終わって午後の講義は、一人で廻るからと須田と別れた。成瀬も大貫も特に聞きたい講義がなかった。成瀬が、一緒に池袋へ行こうと地下鉄の階段を下り始めた。池袋には、大津店の5倍ほどの巨大だデパート西武池袋本店があった。将来、大津にデパートを建てようと思っている。と野望を素直に成瀬がつぶやいた。
(滋賀県立膳所高校:文部科学省が指定する「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されている。先進的な科学技術、理科・数学教育を通じて生徒の科学的脳力や科学的思考力等を培うことで、将来社会を牽引する科学技術人材を育成するための組織である。
偏差値:理数 76 普通 72
かるた班:近江神宮は、天智天皇を祭神し「かるたの聖地」と呼ばれ毎年高校選手権大会が行なわれる。
膳所高校は、地元強豪校と目され全国制覇を目指して日々練習に励んでいる。)

琵琶湖


<レッツゴウーミシガン>
成瀬に思いを寄せる男が現われる。
かるた選手権大会団対戦に広島錦木高校の西浦と中橋が参加した。西浦は、元柔道選手、身長186㎝体重100キロの大男である。柔道でものにならなかったのでカルタに変更しての参加である。競技結果は、1回戦で負けた。
中橋が、かるたの聖地、前を歩く大津市膳所校のTシャツの集団に声をかけた。すると札の変わった取り方をする成瀬あかりが”大津へようこそ”と答えた。西浦も自己紹介すると成瀬が”琵琶湖を案内するよ”明後日10時に大津港で会おうと約束をした。

観光船


西浦と中橋は、琵琶湖観光船ミシガンへの乗り場大津港で、成瀬を待った。水色のワンピースを着てやってきた。4階のデッキで湖風に吹かれて西浦と成瀬が椅子に座った。中橋は、写真を撮ると言ってどこかに消えた。
かるたのことや成瀬が200歳まで生きるとか話してる内に西浦は、成瀬が好きになったと告白、すると成瀬はこの短い時間で私のどこに惹かれたのか?と聞き返した。”だれにも似てないから”と咄嗟に西浦の口から出た。中橋が、写真を撮り終えて帰ってきたので3人は、3階のステージで音楽やライブを見た。90分の航行を終えて大津港にミシガンは戻った。中橋は用事があると2人と別れた。そして2人は、昼飯に近江牛を食った。散歩してると目の前の男が堤防に座って物思いにふけっているように見えた。成瀬が、”あの人飛び込むんじゃないか?止めて!”と、すると西浦は走り出して男の腕を摑んだ。何するんだ。と男。成瀬が、”飛び込んじゃだめ!”と強く言った。
男は、”飛び込まねーよ”と成瀬につっかってきた。”何者だ?”膳所高校、成瀬あかりです”と言う。”貴殿は200歳まで生きるかもしれない。ここで死んではもったいない。””なに!”へりくついやっがって”。と男。そこへ警官2人飛んできて事情を聞かれた後、解放された。
成瀬は、西浦が頼もしかった、心強かった。しかし、”西浦の気持ちには応えられない。自分のことで忙しい。恋愛は、人生の後半にまわそうと思う。
他人ごとと思っていたが好きといわれるのは不思議な気持ちだ。”
西浦は、それを聞いて成瀬がますます好きになった。2人は、連絡先を聞いて別れた。成瀬さんにお礼の手紙書こうと西浦は、京都行きの電車で考えていた。

夏祭り


<ときめき江州音頭>
島崎が東京へ引っ越す
成瀬は、京大目指して受験勉強中である。どうしても座りっぱなしとなるため1時間ごとに筋トレ、目の体操、歯磨きと200歳までの体力をつける。
夏祭りが8月第2土曜日にときめき小学校運動場で行なわれる。準備の実行委員会に島崎もやってきた。委員長のマサルから2人は、夏祭りの総合司会にスカウトとされた。条件として水色の膳所カラーユニホームを作ってもらうことにした。例年通り、プログラムは子どもダンス、自由発表、抽選会そして江州音頭となった。
帰りにびっくりドンキーに寄った。成瀬がミニソフトの白玉を口に入れたとき”東京に引っ越すことになった”と急に島崎が言い出した。父親の会社の支社がなくなって東京に転勤となったからとのことであった。島崎とは同じマンションで生まれたときからの友達だった。翌朝から成瀬の行動は全てが停止したようになった。受験勉強が手につかない。公園でブランコをこいでいるところを大貫が通りかかった。事情を話すとプラージュで髪の毛切ったらと言う。理容師にメジャーを借りて測ってみると1ヶ月1㎝伸びるはずが、それより長く30㎝あった。気のせいか問題集が解けるようになった。

受験勉強


島崎に見せると不満そうに”卒業式まで伸ばすんじゃなかったの?””成瀬ってそういうところあるよな。すぐ途中でやめてしまう”成瀬には心当たりがあり家に帰ってベットに寝転がって天井を見上げていた。
成瀬は、気晴らしに夏祭りの江州音頭の練習に参加した。マサルが江州音頭のいわれを解説したあと30分ほど練習をした。皆にアイスが配られた。受験勉強があるので「ぜぜから」は解散する。それに、実は相方の島崎とは気まずい関係になっちゃってと言うと”すぐ仲直りした方がいい。俺は30年も友達と気まずい別れ方をしてずっと気にしてたのだが、西武の閉店で再会出来て垂れ込めていた暗雲が晴れたよ。”島崎に会って仲直りしたら”の忠告。
成瀬は、島崎に会うと何のこととケロッとしている。この前がっかりさせちゃって。と言うとヌッキーのいうとおりにしたからイラついて。と島崎。
二人は、今年は、Mー1にも出ないから夏祭りでやろうと”ゼゼから世界へ!ゼゼから”でーす。マサルに出演を頼んだ。
夏祭りが始まった。総合司会のゼゼから姉妹の挨拶に次いで委員長のマサルの挨拶。ときめき小のダンスクラブの踊りからプログラムは進み絵画コンクールの表彰式、自由発表、抽選会そして「ゼゼから」の漫才は拍手喝采。
締めくくりは全員で江州音頭で幕が下ろされた。
(江州音頭は、商い音頭とも言われ近江商人の影響を受けている。滋賀県周辺都市の盆踊りとして定着している。)



中学2年生から高校1年生の思春期に入ったばかりの女の子の心理状況は年寄りには想像出来ない。女の子を育てたこともないから勿論困難である。
成瀬のように一途にものを思い突き進む勇気(無鉄砲さ)はないように思う。この年ごろでは、やってみなければ解らないと言う考えや発想にも自信がもてない。親離れも十分に出来ていないため意外に真面目で臆病だと思う。
反面、自立心が旺盛となり、親や社会に反抗心を抱き攻撃的になったり、内向的になる。親とは余り口を利かないとか父親を忌避して顔も合せない例が多々ある。家族間のいざこざとか友人関係のいがみ合い等により傷ついていく部分も多い。不良に走ったり、いじめに遭ったりと芽生えていた純真さに釘をさす魔物が、周囲に潜んでいる。
この小説は、このような事例はなく極めて健康的に快活に青春を謳歌していると思われる。友人同士の気まずさや意見の相違を様々な策を講じて解決していく。
「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈著
第21回本屋大賞受賞ほか

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