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チンチロに勝ったらAI FAXが完成した話
こんにちは。株式会社IVRyでエンジニアをしている菊川(@kikuivry)です。IVRyに入って1年が経ちました。この1年は主にAIインターネットFAXサービスの開発をしていて、先日、「IVRy AI FAX(β版)」としてリリースすることができました。この記事では、リリースに至るまでの奮闘を交えて新規プロダクト開発における大切なこと7選を書きます。
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この記事は 株式会社IVRy 白組 Advent Calendar 2024 の11日目の記事です。白組の前後の記事は以下です。
昨日:『対話型音声AI SaaS IVRyのインフラの歴史をSREの観点から眺める』by ab(@abnoumaru)さん
明日:『マネジメント志向が低い私がIVRyでPOにチャレンジした理由』by 西浪さん
IVRyでは職種関係なく白組、紅組に分かれてアドベントカレンダーを書いております。良ければ色々な記事を読んでみてください。
🎉 IVRy AI FAX(β版)をリリースしました
FAX(Facsimile)は、文書や画像を電話回線を介して送受信する通信技術です。「今更FAX?」と思うかも知れませんが、日本のビジネスコミュニケーションにおいて、FAXによる書類のやり取りは現在まで根強く残っており、以下のような課題があります。
リモートワーク時や外出先ではFAXの確認/送信ができない
受信したFAXの仕分け、受注システムへの手入力などが発生する
コストがかかる(通信代、用紙代、トナー代、機器メンテナンス費用)
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これらの課題を解決すべく、「IVRy AI FAX(β版)」をリリースしました。「IVRy AI FAX(β版)」は紙で送受信しているFAXを、パソコンやスマートフォンで送受信でき、内容の文字起こしも確認できるAIインターネットFAXサービスです。
📠 IVRyにおけるFAXのはじまり
IVRyにおけるFAXの検討は一体いつ始まったのか気になったので、Slackで検索してみたところ、なんと最初に言及があったのは、2020年8月21日でした。そんな頃から検討が始まってたんですね。
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私が入社したのは2023年の12月で、入社当時も「やりたいけど手を付けられていない案件」としてFAXが挙がっていました。私は以前の職場で新規事業の立ち上げを多くやっていたので、FAXの立ち上げは気になっていました。
👂️ 1. お客さまの声を聞きに行く
入社してほどなくして展示会に参加する機会があり、IVRyの商品説明をしていました。そこで以下のような声を聞くことができました。
「FAXがあったら乗り換えてIVRyを導入するのに」
「FAXを開発するかもしれないって聞いてたけどまだ?楽しみにしてるよ。」
また、弊社のセールスの方々からもお客さまのFAXに対するニーズを聞いていました。そこで、実際のFAXの使い方をお客さまにヒアリングする場にも同席させてもらい、既存の紙のFAXの課題を聞くことができました。
これらを踏まえて「これは既存の事業との相性も良いし、作れば売れるのでは」という実感を持つことができました。自分がこれから作ろうとしているものが世の中の役に立つのか、しっかりと売上に貢献できるのかの実感を持つことは、新規事業を始めるにあたって大切です。
✋️ 2. とにかく手を挙げる
IVRyではクォーター毎の振り返り時に、各自のWillを確認する狙いで「今後、触れてみたい技術要素、業務を背景とともに教えてください」という項目に回答することができます。この項目に毎回「FAXをやりたい」と理由とともに回答しました。
また、毎週のプランニングの際にFAXの技術検証ができないか隙あらば狙っていました。スタートアップにおいてメインの事業の成長は何より優先されるべきなので、なかなか優先度を上げることは難しいですが、とにかく手を挙げ続けることが大切です。こうして小さな技術検証からFAXの開発が始まりました。
🧗3. 壁打ちをする
新規プロダクトには考えることが次々と出てきます。
FAXの送受信はどうやって実現する?
文字起こしはどうやって実現する?
既存のIVRyに乗せる?乗せない?
乗せない場合、認証はどうする?
インフラは分ける?分けない?
障害が起きた時に遡及はできる?
請求はどうする?
etc…
これらについては根気強く検討を行い、意思決定を繰り返していく必要がありますが、中にはなかなか答えが出ないものもあります。IVRyにはIVRyを作ったエンジニア、前職でマイクロサービスを実践していたエンジニア、最新のAI技術に強いエンジニアなど歴戦のエンジニアが揃っているので、壁打ちをすることで難しい課題に対しても意思決定していくことができました。
🔭 4. 機能を絞る
開発当初はPdMと私の二人三脚状態で検討を進めていました。新規プロダクト開発で一番難しいのは初期のリリースでどこまで作り込むかという部分で、機能が多すぎると開発に時間はかかるし、少なすぎると仮説を検証できない課題があります。この部分に関しては、PdMがヒアリングを繰り返し、その結果を元に、開発工数との兼ね合いを考慮しながら意思決定をしました。ベータ版として出すこともここで決まりました。
エンジニアとしては運用がかさむと開発が滞るので、なるべくシステムとして作り込みたくなる気持ちが出てしまうのですが、時には「運用でカバー」をうまく使いながら機能を絞りました。ユーザーのセルフオンボーディングや請求関連のシステム化を削った一方で、最初から文字起こし機能が入っているあたりが絶妙なバランスです。PdMがヒアリングや調査をしっかりと実施してビジネス検討をしていることを知っていたので、納得感を持ってプロダクト開発に集中できました。
🎲 5. チンチロに勝つ
IVRyでは、Slackのカスタムレスポンスとして謎にチンチロが用意されていて、いつでもチンチロができるようになっています。チンチロは3個のサイコロを使って役で勝敗を決めるシンプルな遊びです。気付いた頃には、某旅団の「もめたらコインで、だろ?」と同じシステムで活用されていました。
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開発当初のFAXの開発はレビューだけしてもらいながら、フロントも含めて私が開発する形で動いていました。開発も中盤にさしかかってきた折、10月頭に間に合えば使っていただけるお客さまが現れたため、そのタイミングに間に合わせるためにバックエンドとフロントエンドの並列開発ができないか開発フォーメーションの模索をしておりました。そこでチンチロです。以下、奇跡の瞬間をご覧ください。
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こうしてmachinagaさんという強力な仲間が加わりました。
🤝 6. チームで相乗効果を生む
1人開発状態だったので、設計レビューに出したDesign Doc以外は自分の頭の中に実装がある状態でした。そのため、案件の概要をはじめ、とにかく今考えている設計をアウトプットして、チームで動けるようにmachinagaさんにインプットをしました。
そしてこの人、本当にすごいんです。フロントも自分が開発する想定だったので、I/Fの都合で重めの処理をフロントに寄せていたのですが、その実装も爆速でさらっと仕上げてきて(裏では大変だったと思います)、腰を抜かしました。
こうしてフロントエンドが爆速で出来上がっていくので、バックエンドも負けてられないとお尻に火がつきました。身近な壁打ち相手ができたのも大きかったです。スケジュールはかなりタイトでしたが、どんどん動くものができていくのが楽しくて、ハイな状態になっていました。
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一気に速度が出て、なんとか10月頭に間に合わせることができました。リリースの日に3人で一緒に飲んだビールは忘れられない味となりました。
🚀 7. リリースしてからが本番
これはよく言われることですが、プロダクト開発はリリースがゴールではなく、リリースしてからが本番です。特に新規プロダクトの場合、運用でカバーの部分が多かったり、想定していないことが起きたりしがちです。例に漏れずFAXも色々とありましたが、なんとか無事に乗り切っています。
万が一の時に遡及対応ができるようにしておく、冪等性を担保した作りにしておく、といった過去の新規プロダクトの開発、運用経験を活かした設計にしていたのも助けになりました。
ありがたいことに反響もしっかりあって、日々使っていただいているお客さまの数も増えてきております。ベータ版というプロダクトが生まれて間もない頃から使っていただいている方たちに、できるだけ長く、便利に使っていただけるようにしっかりとプロダクトを磨き込んでいきたいという想いで日々開発に励んでおります。
🪢 まとめ
以上、チンチロに勝ったらFAXが完成した話、もとい、IVRyでの新規プロダクト開発奮闘記でした。個人としても、AIをうまく社会実装してみたいという想いがあったので、今回部分的ではありますが、プロダクトに取り入れて活用する機会となって良かったです。優秀なエンジニア、優秀なPdM、優秀なセールスに囲まれて開発するのはとても楽しいしやりがいがあります。IVRyにいれば、まだまだ面白い機能やプロダクトが生まれていくと思います。もし興味があればカジュアル面談に応募してください。あ、応募するかはチンチロで決めますか。チンチロ。