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女性向け恋愛ゲームにある、優しくて傷だらけの世界について

こんにちは。
乙女ゲームの世界が滅びそうな記事を書いてから、約3週間が経ちました。
おかげさまで、ゲームのカテゴリで1位になったり、まだ2つしか記事を上げていないにもかかわらず、noteとXのフォロワーが爆伸びしたりしております。みなさま、本当にありがとうございます。

中には「これで、コーヒーでも飲んでね」と優しくチップを置いていってくださる方や、コメントを残してくださる方もいて、noteってこんなにあったかいプラットフォームなんだな、と早くもとても居心地がよくなっています。

さて、マガジン1発目の記事からなぜこんなに期間が空いてしまったかというと、

「恋愛ゲームについて書くって大声で叫んではみたものの、私は恋愛ゲームの何が好きなんだろう」

という、とても大きな問題にぶつかってしまったからです。

色々、考えました。
「私を本格的にソーシャルの恋愛ゲーム」にハマらせるきっかけになった
特捜」について書こうかなとか、とはいえ個人的にすごかったと思うのは「新章大奥」だよな、とか。

たくさん、たくさん考えて、各タイトルの記事を上げるのはやめました。
たぶんそのうちやると思うけど、最初からレビューみたいにするのは違うかなと思って。

思い出のタイトルを、この3週間指折り数えながら、今日ふとお風呂で思ったのです。

「私、恋愛ゲームの中にある、優しくて傷だらけの世界が好きだったんだな」と。

特捜は、switchとSteamにもあるからぜひやってほしい。
画像クリックすると買いに行けます。


2012年から12年間。
私はずーっと恋愛ゲームのシナリオライターをしていた。
でも、どちらかというと10代も20代も恋愛からは距離の遠い場所にいたと思う。

中学を出た後、女子高・女子大と進学して周りに男性は少なかったし、女子高時代は何ならラブレターを貰う方だった。
大学に入ってからは文学にハマりすぎて、図書館にある古い本が恋人だったし、夜日本国語大辞典を開きながら東京タワーを見る生活こそ格別だと思っていた。

でも、恋なんてしないでも生きていける女が、ひょんなことから恋愛ゲームを生業とすることになり、さらにファンとしても沼にハマることになった。
「ほんとは恋がしたかったんじゃないの?」と言われたら、もしかしたらそうなのかもしれない。
でも、恋がしたかったというより……誰かの心に触れたかったのかもしれないと、私は今この記事を書きながらぼんやりと思っている。

恋愛ゲームの世界は、解像度が低い状態で見るとどうしても、「イケメンに告白されていい思いをするゲーム」になる。
もちろん、そういう側面もなくはないのだけれど、個人的にはもっと苦しい世界だ。
男性は、男性らしさやそれ以外の何かしらの問題に必ずと言っていいほど苦しんでいるし、それを乗り越えるために必死でもがいている。
身分、毒親、孤児もいれば、戦争の後遺症や、人からの裏切りを経験して何もかも信じられなくなっている人もいる。

現実の世界では、人の苦しみというのはなかなか目に見えないけれど、ゲームの中では相手の苦しみや葛藤が繊細な言葉で丁寧に語られている。

木の葉が擦れるよりもずっと小さな呼吸の音すら美しく描き、読み手は物語が進むにつれて、彼のまつ毛の長さや口角の緩やかなカーブも目に浮かぶようになる。歩き方の癖だって、キャラクターによって違っていて、それもそっと作中に描かれている。
気づけば読み手は、終盤には自然とキャラクターの癖を覚え、スマホの中にいたはずの彼らが、自分の横にいるかのようにリアルに感じられるようになる。本当にすごい、描写力の世界なのだ。


シナリオライターになって、おそらくいろんなキャラクターのシナリオを、200本以上は読んだ。冗談ではなく、ボルテージさんが恋カフェというアプリをやっていたころ、私は途中までほぼ全部のシナリオを買って読んでいた。(とにかく勉強したかったし面白かった)

おかげさまで、なんとかシナリオでご飯が食べられるようになり……この世界に引っ張り込んでくれた先達のシナリオライターさんたちとお会いする機会を得たり、一緒にモノづくりをする機会を得たりした。
この人たちが作っているようなものを、私も絶対に作りたい……という欲求がその当時の私の胸の中には強くあって、本当にがむしゃらに働いた結果、チャンスの女神の前髪をつかむことが出来たんだと思う。

私がシナリオを書いたゲームは、あいにくほとんどがサービス終了をしてしまい、今は読むことが出来ない。
私は社内で執筆をしているライターだったので、原稿も手元になく、自分が何を書いたのか……もう思い出すことが難しいものもいくつもある。

でも、Xには私が書いたシナリオの記憶を持つ人がたくさんいて、いまだに「あのお話のあのシーンが好きでした」と声をかけてくれたり、「千花さん!」とリプライを飛ばしてくれたりする。

たくさん泣いたり、笑ったりしたんですよ。という感想を貰うたびに、もう何を書いたか覚えていないシナリオが、確かにこの世界に存在して、きらきら光って、誰かを幸せにしていたんだと思うと、なんだかそれだけでたまらない気持ちになったりする。
この前も言った通り、もう女性向け乙女ゲーム(とくにノベル型)は虫の息だ。多分、このままだと本当にまずい。

でも……私はまだまだ、あの心の柔らかいところに触れるようなシナリオを作ったり、読んだりしたい。
そんな素敵なシナリオを作るライターさんたちにもっともっと世の中で有名になってもらって、何の心配もなく物作りをしてほしい。

このマガジンでできることは、もしかしたら少ないかもしれないけれど、
それでも……

「そこまで言うなら、女性向けの恋愛ゲーム、ちょっとだけ読んでみようかな」

そういうひとが、ひとりでもふたりでも、増えたら嬉しい。


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菊衣千花
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