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【研究】日本とフランスのキャンバスの比率

以前、日本のキャンバスの比率が号によって異なることについて記事を書きました。

ここではF規格とP規格の100号までの縦横比を出して、それを正方形に近い順に並べた表を作りました。
それがこれです。

日本のキャンバスの比率早見表(作成:菊池遼)

この表を作って、比率にバラツキがあるのは知っていたがまさかここまでだったとは…という気持ちになりました。

と思ったところで、上の記事でも触れた「日本のキャンバスの比率のバラツキは、フランスからキャンバスの規格を輸入する際に、数値を尺貫法に変換することによる端数処理で生じた」という俗説が、「本当か?」という気持ちになってきました。流石に端数処理で生じるバラツキには見えないからです。

みたいなことを考えていた時に、アーティスト友達の半田颯哉さんが「そもそもフランスの規格における比率もバラバラ」ということを表を作って教えてくれました。

私も自分で調べて(論文ではなく単なるnote記事用なので「ネットで軽く+chatGPT」くらいしか使ってないので正確なのかは定かでないです)、確かにフランスの規格における比率もバラバラっぽいことを確認しました。

ということは、これが正しかったとすると、日本でまことしやかに語られる「端数処理説」は間違いということになります。端数処理以前にそもそも参考にしたフランスの規格の比率がバラバラだからです。

ということで、例の如く(?)自分もフランスの規格の比率を調べて縦横比を出し、それを並び替えて表にしてみました(参考に日本の規格の比率も隣に付しました)。
それがこれです(今度はM規格も入ってます)。

日本とフランスのキャンバスの比率早見表(作成:菊池遼)

日本のF規格、P規格、M規格を縦横比順に並べた時に最も正方形に近いのはF10号の1.165、最も長方形に近いのはM100号の2.140で、フランスの場合、正方形に近いのはF10号の1.196、最も長方形に近いのはM1号の1.833となりました。

縦横比でいうと、日本の方が最も正方形に近いものと最も長方形に近いものの差が大きいですが、F規格、P規格、M規格の混在具合はフランスの方がごちゃごちゃといった結果になりました。

さて、こうなってくると、そもそも何でフランスのキャンバスの規格はこんなに縦横比がバラバラなのかという点が気になってきます。それについて軽く調べてみたら、こんな論文のこんな記述を見つけました(これまた軽く調べただけで特に検証とかしていないので正確なのかは定かでないです)。

フランスの標準キャンバス形式の歴史に関する最初のオリジナルかつ体系的な研究は、アンシア・キャレンによって行われました。1980年の博士論文の中で、キャレンはこれらの形式が調和のとれた比率に従っていなかったことを示しました。彼女の詳細な図や計算の結果は、これらの標準キャンバス形式が実際には美的要因ではなく、固定された織機のサイズによって生産された生地の幅の最適な利用といった経済的要因の結果であることを明らかにしています。この研究は後にパスカル・ラブルーシュ、アン・ホイニグスワルド、他の研究者によっても取り上げられました。(機械翻訳)

"Standard canvas and stretcher sizes satisfying golden and
silver ratios as well as optimal use of material"
Nguyen Dinh Dang
https://ar5iv.labs.arxiv.org/html/1508.00718v2

この記述が正しかったとすれば、フランスのキャンバスの比率は、美的な理由からではなく、実利的な理由、つまり織機のサイズや、それによって生産できる幅の布を最適に使用するために定められたことになります。

これは個人的にかなり衝撃でした。まさか実利的な理由から定められた企画だったなんて…。なんというか、上部構造は下部構造に規定されてイデオロギー化したというような、新マルクス主義的な構造をありありと示されたように感じました。

とりあえず以前の記事を書いてから調べたことは書き切ったのでこの記事はここで終わりにしますが、このトピックについてまた新しいことが分かったり、ちゃんとした根拠を見つけられたら(今回は雑に調べただけなので)、また別で記事としてまとめたいなと思いました。

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