ジサマの遺品
秋空にウロコ雲がたなびく。
日が中天に差しかかり、この時期には少しだけ暖かい。
「……俺さ、実はスゴイものゲットしたんだよね」
昼時の屋上で、コーヘイがそんなことを言いだした。
例によって悪友4人で集まって昼飯を平らげ、さてこれから何をして昼休みをつぶそうかという頃合いだ。
「ねえ、スゴイものってなーに?」
早速とばかりに、好奇心の塊のカナメが食いついた。
「どうせ、ヘンテコなものでしょ?」
常に冷めた態度を崩さないユウキがすかさずツッコむ。
「ヘンテコっていうなよ。ホントにスゴイんだから!」
コーヘイが力説するさまに、俺はひとつ思い出していた。
「そういや、昨日……ジサマん家の蔵を片付ける手伝いがどうとか言ってたよな」
俺の言葉を受けて、
「おっ、さすがシュン君!」とコーヘイが嬉しそうに笑った。
「そうそう。ジサマの蔵の片付け中にさ、見つけちゃったんだよねぇ」
この時、コーヘイが見せた最高に鼻の下が伸びまくった顔を、シュンこと俺は少々げんなりしつつ見ていたのだが――。
『見つけちゃったもの』が気になったので、話の先を促すことにした。
コーヘイのジサマ――祖父は、昔から骨董蒐集の趣味があった。
ところが、このジサマのコレクションというのが少し変わっていて、
『イギリスの魔女特製・惚れ薬』だの、
『ルーマニアのドラキュラ公の灰』だの、
『エジプトのミイラ男の包帯』だのと、
実にヘンテコなシロモノばかりだ。
中にはマユツバすぎて『さすがにそれは』と思うものも少なくないため、周囲の人はおろか家族にすら理解されないまま、惜しくも先月肺炎で亡くなったらしい。
そんな、ジサマにしか理解不能なお宝が詰まった蔵の片づけにコーヘイが呼ばれた。
孫の中ではジサマに一番可愛がられていたことと、無駄にガタイがデカくて力持ちだからだろうと本人は言う。
話を戻して、ジサマの遺品整理のさなかに、コーヘイはスゴイものを見つけたのだ。
「スゴイんだぜぇ!」
コーヘイの眼がキラキラしている。
しかも頬まで染めて乙女なポーズは、似合わないからヤメろ。
「……だから、それはなんだよ?」
俺が訊き返すなり、待ってましたとばかりにコーヘイが足元に置いたリュックからそれを取り出した。
「じゃじゃーん!!」
コーヘイが頭上に掲げて胸を張る。
「うわ、ベタすぎ!」
「コーヘイ君、ソレ面白くないから。普通に出しなよ」
カナメとユウキに口々にツッコまれ、コーヘイは「いいだろ」と唇を尖らせる。
一方、俺はコーヘイが持つシロモノに眼が釘づけになっていた。
「……カメラ、か?」
箱形の黒い物体の正面には円筒形の金属筒があり、中には丸いレンズが覗く。
反対側には何故かスマホがくっついていて、こちらに向けられた液晶画面は真っ黒だった。
「……なにそれ?」
カナメがきょとんと見つめている。
「スマホ用の新型付属機器……にしちゃ変だよね?」
これまたユウキがしみじみと、コーヘイの手の中のシロモノを見下ろして言う。
「バカ。これはスゴイ機械なんだって! ジサマのメモによると名前は――『ザ・透明にしちゃうぞ☆カメラ』だ!」
「はあぁ?」
コーヘイの説明に、俺は盛大に語尾が上がってしまった。
―――ジサマのネーミングセンス、最悪だな……。
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