暴走男たちの顛末
春淡い空に満開の桜が咲きほこる。
日差しは暖かで、午後の陽気は――ひたすらに眠気を誘う。
欠伸を噛み殺しながらいつもの巡回から派出所へ戻ると、同僚の芳田(ヨシダ)が何やらソワソワしていた。
狭い派出所の中、芳田と向き合った俺は首を傾げる。
「……どうした? トイレなら早く行って来い」
「違いますよ! 財前さん、さっき本庁のスゴイ人がきました」
「本庁?」
俺は顔をしかめて語尾を上げた。
本庁には知り合いはいるにはいるが、こんな都心から外れた寂れた交番にやってくる物好きはいない。
「誰だ、そいつは?」
「本庁、組対5課の神南(カンナミ)さんとか」
訊くなり、俺は脱力気味にため息をついた。
「来たのか、あのボサボサ」
「ボサボサ? ああ、髪の。お土産持ってきてくれたみたいですよ」
そう言って芳田が指差したデスクの上に、菓子折りらしい包みがひとつ。
「左遷《トバ》されたはずが、戻ったってことか。それにしても俺に土産とは――」
―――何考えてんだ、あのボサボサ。
「聞かせてくださいよ」
「は? 何が」
「神南さんと事件を解決したんですよね。自慢げに話してくれましたよ」
芳田は新しい悪戯を思いついた子供の顔で笑う。
ソワソワしていたのはそのせいか――。
神南が余計なことを吹き込んだお蔭で、俺は『事件を解決した話』をすることになった。
本当は話したくはない。
何よりいい思い出とは言い難いし、思い出すとムカっ腹が立つからだ。
だが、警邏明けの午後のこの時間帯はヒマで、眠気と戦いつつ日誌をつける以外ない。
だったら話でもする方がマシだった。
機嫌を損ねた芳田が入れる、炭酸の抜けたコーラ攻撃が嫌なのも理由のひとつだ。
俺は思い出しながら、話し始めた。
かれこれ2年ほど前になる。
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