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フロム・ダーキュリア

 ―――ああ、もう。

 こういう日に限って、こうも帰りが遅くなるなんて。

 ブツクサ文句を言いながら、見慣れた道を急ぎ足で進んでいく。

 街灯が少ない住宅街には、迫りくる闇が空を塗り替え、辺りにはそこここに漆黒の暗がりが凝っている。

 ふと、背筋に悪寒が走った。

 まるでそのタイミングに呼応するみたいに、メールの着信音が響く。

 ―――変だ。

 とっさにバッグの中の携帯電話を取り出し、まずまっさきにそう思った。

 この携帯電話は、途中電車を乗り換える際に、着信音をオフにしていたからだ。

 ならば、何故鳴った……?

 思いながらも、相手をロクに確かめることなく着信メールを開いた。

 瞬間、全身が総毛だった。

『――今、近くに来てるの。会いに行ってもいい?』

 無邪気な文面には、友人の1人が飲みにいかないかと誘うに似た気軽な雰囲気しかないが――実際は全然違う。

 何故なら――。

 背を這い上がってくる悪寒に耐えているとき、再びメールの着信音がして危うく悲鳴を上げそうになった。

 恐る恐る画面を確認すると――。

 ―――『メール着信 From:ダーキュリア』

 そんなはずない、とすぐさま全力で否定する。

 くるはずがない。

『ダーキュリア』からメールがくるはずがないのだ。

 ひどくざわついたのは自分の肌だけではなかった。

 いつしか辺りの闇が深くなり、木々が枝葉を揺らして不気味な音を奏でている――ザワザワと。

 すでに夜ですら汗ばむ季節だというのに、寒気が去らない。

 むしろひどくなっていく。

 いや、待て。

 これは性質の悪い冗談ではないのか?

 彼女と自分・共通の友人たちが、からかうために彼女のハンドル・ネームを使って……。

 じゃあ、どうして携帯電話を買い替えたその日にメールが?

 この携帯電話をショップに取りに行って、それでいつもより帰りが遅くなったことを思い出す。

 そうなのだ。やはり、メールなどくるはずがない。

 ―――まだ誰にもメールアドレスを知らせていないんだから。

 それでも光を放つ画面を見つめ、震える指でメールを開いてみた。

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