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自分で決めた

去年の夏休みから親子でカポエイラを習い始めた。
「カポエイラ 親子 体験」で検索し
通えるところで体験できるところを見つけた。
息子の機嫌をうかがって行けるタイミングを狙って申し込んだ。
体験当日もかなり気を使った。
夕方6時半からだから、それまでに軽くご飯も済ませたい。
逆算してスケジュールを組み立てた。
新しいことに不安を感じがちな息子には、始まる直前に言った。
「これからカポエイラの体験教室行くからね。嫌だったら見てていいからついてきてね」と言ったら、案の定嫌がった。「見てるだけでいいからね。」とかなり強引に連れて行った。

開始時間ギリギリになった。
2人分の水筒やタオルや内ばき等の入ったトートバックに、さらに暗く重い足取りの息子が体重をかけて右手に捕まっている。
そして公民館の重い扉を開けると、ニコニコとした背の高い若い男の人と綺麗な女の人。
明るく広いホールに子どもたち4、5人が楽しそうに走り回っていた。

「どうしてカポエイラやろうと思ったんですか?」ニコニコと声をかけてくれた背の高い男の人が先生だった。
「短大時代に友達がカポエイラをやっていて、私もやってみたいと思ったんですが、その時は勇気がなくてできなかったんです。子どもと一緒ならやってみたいと思って。それでまず体験したいと思って来ました。私がやってみたかったので、息子はよくわからないまま連れてこられた感じです。」と私は答えた。
「ぼくも学校から帰ったら母に連れて行かれたんです。行くまで怖くて嫌だったんですよ。」と先生。隣の女の人は先生のお母さんだった!若くてきれいな人だ。先生は大学を卒業したばかりで若いが、小学生の頃からお母さんと一緒にサークルを立ち上げ、中学生の頃にはカポエイラの指導者になることを決めていたそうだ。
楽しそうな雰囲気に息子は、一気に元気を取り戻した。「おれもママに連れてこられたし!」と言ってる。調子出てきてよかった。

レッスンは楽しくて、まず鬼ごっこをする。もうここで息子の心は掴まれていた。
側転やジャンプ、動物の動きなど、どれも楽しかった。
私は、久しぶりに体を動かして気持ちが良かった。息子も楽しそうだった。親子クラスの後に子どもクラスが始まる。
それにも息子は参加したいと言い、参加させてもらった。

また鬼ごっこからレッスンは始まった。
最後に先生を囲んで円になって、今日の感想を言う。
「今日からここに入ります。よろしくお願いします」と息子は言った。
保護者はホールの端っこで見ている。
息子の声は大きいのではっきりと聞こえた。

彼は、1人で決めた。それでいいのだ。
今日は体験だからゆっくり相談して決めようと思っていたら、即答していた。というか宣言していた。それでいいのだ。
私は嬉しかった。彼が自分で決めたことに感動していた。

子どもクラスが終わって、先生に入会をお願いした。レッスンが終わると子どもたちは技の練習をしつつもわいわいと楽しそうに遊んでいた。
一緒に遊んでいた息子が駆け寄ってきて、先生に「あの、すみません。みんなと同じ服を着たいんですけど」とお願いしている。みんなはカポエイラ教室のユニフォームを着ていた。すぐにユニフォームであるTシャツと白カウサのサイズを伝えてお願いした。

始めて10ヶ月、最初の帯のテストに合格した。夏にバチザードという昇段式で帯をもらえることになった。
彼がずっと欲しかった帯だ。嬉しそうだ。
レッスンに行くたび、「もう無理、疲れた、熱ある(ない)、足おれた(おれてない)、腰いたい成長痛だわ(それはそうかも)」と弱音を吐きながら頑張った。

私はというと初級大人クラスに変えて、続けている。全然体は動かないし、技も身に付いていない、楽器も、歌も覚えられない。ホーダの日(みんなで円になって一対一のゲームをする日)は本当に行きたくない。苦行でしかない。
できない自分を見られていると思うと恥ずかしい。元々運動が得意なタイプではないのに憧れと息子への意地で入ったカポエイラだ。
息子の手前、逃げ出すわけには行かない。

そんなことを延々考えていたけど、どうでもいい。
他人の目なんて何になる。私の人生は私のものだ。
そう思えるようになったのは、やっと最近のことで、今までどれだけ気にしてきたか。だから今までのクセが出てしまうけど、それらを振り払うようになった。
上手くなりたい。楽器が弾けるようになりたい。

入るきっかけになった短大の友達とは疎遠になってしまっていた。
色々あって卒業式に和解した、卒業後は離れてしまったけど「手紙を書くよ」と言ったのに書かなかった。
カポエイラを続けていたら、どこかで彼女に会える日が来るかもしれない。
一緒にカポエイラができるかもしれない。憧れた彼女と今度は、もっと素直に楽しく話ができるかもしれない。
楽しみだ。もう少し上手くなったら探して会いに行こう。


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