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撮影・レビューサイトへの投稿一切禁止 渋谷のとある純喫茶 守るべきもの

「写真撮影禁止」
そんなお店は、まあ食べることが好きなら一度くらいは出会ったことがあるかもしれない。写真撮影が禁止くらいはまだ良くて、注文の仕方だとか、お店での過ごし方だとか、色々事細かに指定されるお店もある。急に大声を出されたりするのはちょっとごめんだけれど、私は、なぜこのお店はそういうことになったのかを想像しながら、ルールにがんじがらめにされるのが好きだ。もちろん友人は付き合わせられないので、そういうお店には1人で行く。

渋谷駅のマークシティ側の出口を出た近くに、興味深く何度も通っている、がんじがらめになれるお店がある。店名は伏せておこうと思う。なぜなら「食べログ、Googlemap掲載禁止」がルールだからだ。

古びた木製の扉のドアノブにまず「当店はルールがあります、よく読んでからお入りください」的なメモが貼ってある。そのルールというのは、ガラス扉の向こうにあって、通りがかりで入ろうとした人はここで諦めてしまうのかもしれない。

ガラス扉の奥には、これまた古びた立て看板に、決して大きくて見やすいとは言えない字で、ルールがびっしりと書いてある。簡単にまとめると、支払いは現金のみ、写真撮影禁止、食べログ、Googlemap掲載禁止、席は1時間制、匂いのきつい葉巻は禁止。そして左を見ると消毒液が置いてあって「消毒をお願いします」と書いてある。

店内はいわゆる純喫茶が好きな人は好きな感じだと思う。決して明るくない照明、年期の入ったテーブルと椅子、壁に掛かっている大きく引き伸ばされた写真はコーヒー豆の写真。小さい面積ながらに、無駄なく席が配置されていて、20人くらいは入れると思う。

ルールの多いお店はスタッフさんが気難しいことも多いが、まあルールを守ってれば普通に楽しめると思っている。ここもそうだ。定期的に来てしまうこちらのお店でも、一度も嫌な思いをしたことはない。よく人畜無害そうだと言われるが、そのせいだろううか。入ってくるお客さんも、ルール承知の人と、何も知らずに入ってくる人がいて、店員さんは相手を見ながらあ都度対応を変えているようにも見える。特に店側が歓迎してないタイプだと「消毒お願いします」と冷たく店頭で言い放たれて、そもそもそこで引き返す人もチラホラ見かける。全ての人を歓迎するようなお店ではない。

とは言えども、平日の昼時に行くと満席だったりする。ランチをやっていて、オムライスだとかナポリタンだとか、わかりやすい喫茶店メニュー。スープは自分でよそうタイプ。近くには新旧問わず様々なビルがあるので、勝手を知っている人だったら通うだろう。

1人で来てる人が半分以上で、あとは2人組できてるのは多分出勤前のホスト、向かいの4人組のおじさんとおばさんは「借入額が・・・」とか「そもそも商売というのは・・・」みたいなお金の話をずっとしている。こういう空気感の中に、存在感を燻らす昼下がりが、とても好きだ。

とはいえども、この日は結構混み合っていて、スタッフさんが顔馴染みだと思われるお客さんの入店を「ごめんね、今日満席なんですよ」と言っていて、悪い気がしたので早めの退店を決めた。精算がいつもどこでやるかわからなくなるのだが、「こっちこっち」と笑って呼んでくれる。やっぱり、ルールさえ守ればいいお店だと思う。

あれだけルールがありながらも人があれだけ集まるお店も珍しい気がする。人がいすぎてルールを決めたのかもしれない。合理的に考えれば、場所を変えればとか、金額を上げればとか、会員制にすればとか、そもそも飲食向いてないんじゃないかとか、色々あると思う。でもそこに“譲れない何か”があるからルールをたくさん作って、その譲れない何かを守ってるんだろうなと思う。まだそれが何かなのかはわからない。


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