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レストランのお約束をドタキャンされたので、1人で行ってきた

これは「お前がはじめた物語」を「私の物語」に昇華させたお話です。
ドタキャンになってしまうのは仕方ないこともある。
それでも。
後始末しっかりしないと、こうやって話のネタにされるぞ☆


友達がいない

中目黒や恵比寿、渋谷あたりのお店を開拓したいなあと思ってきたのだけれど、仕事柄、どうしても麻布や六本木での会食が多くなりがちで、それが理由でタイミーを始めたと言うのもあるが(話が急すぎて説明いると思うけど、簡潔にまとめるとお店を内側から開拓するという、コミュ障ならではのお店探しの手法です)、それでも、やはりどうも1人では入りづらいお店というのも多い。

まずは一緒に行ける友達を探そうと、去年から少し頑張っていたわけだが、人付き合いの初手がそんなに得意ではなく、なかなか実現のステップに駒を進められていなかった。昨年冬に「このままではダメだ」と、何度かお食事誘っていただいた方に、3ヶ月越しにお返事するみたいな形でやっと約束をした。

一応お誘いいただいていた身ではあるものの、一緒にお店いくのであれば、ある程度の礼儀が必要だと思うのと、行きたいお店もあるし、私がやんわり約束やご好意を反故にしていたのものあったので、私が予約しておきますね、という流れです。

お店の紹介は後半詳しく書いてます


それぞれの仕事の都合も考えて20時予約。予約はテーブルチェックのみで、予約完了画面にはキャンセル料100%の表記だった。「キャンセル料かかるのでご都合悪くなったら早くご連絡ください!」くらいを、この時言ったらよかったのかもしれない。

事件

約束当日。
仕事が終わって19時にスマホ見たら連絡が来ていた。

もうこの時点で、今後この人(以下ドタキャン氏)とはご飯どころか、何の約束をすることもないな、と思い「了解です!」と送付。な〜〜んにも了解してないけどな。本当に体調不良なら朝に絶対予感しただろ!

分かり合えない相手に噛み付くのは時間がもったいないのである。そもそもタイムリミットまで30分足らず。時間がない。

そもそも・そもそも、行きたいお店に私の名義で予約を入れている状況。これから名義を育てようとしているのに、本件が原因で出禁にでもなったらどうする。

そもそも・そもそも・そも、1月や2月は飲食店の閑散期。それは、逆に考えてみると、皆、外食なんてしてる場合じゃないくらいに忙しい時期なのだ。
そんな時期に「あと15分後に渋谷来れませんか?」なんて聞いて、来てくれる友人がいたらこんな約束していないのである。

でも。そんなこと言ってる時間もない。やるしかない。ドタキャン氏から上記の、完全に当てにならなそうな返事を待たずして、数少ない食事を一緒にできる友人達に「今どこにいる?」と連絡を始めた。

しかしやはり、一緒にご飯に行ける友人がいないから、今回の約束をしたのである。その結果、

私が直前にドタキャンされた可哀想な人だということを、栃木にまで知らしめてしまう結果となった。

刻一刻と迫る時間。
流石に「どうして友人が少ない現実突きつけられながらドタキャンされた側の私が人探ししているんだろう」という気持ちが強くなる。普通これは行けなくなった側が色々と調整するもんじゃないんだろうか。私の惨状を遠方まで拡散している間に、ドタキャン氏が、自分でお店に電話してくれたりしてるんじゃないだろうか?と思いLINEを開いてみると、

傾聴モード発動してた。てかキャンセル料払う気もなさそうで何?

すでに渋谷にいた私。とにかくもう自分でどうにかするしかない、と、やりとりをスクリーンショットして「こんな経緯で行きたかったお店ドタキャンされまして、相手見つかる気配なく。多分このままキャンセル料も私持ちなる雰囲気。15分後に渋谷これる人いませんか?」と親しい友人限定公開に投稿して、大きなため息をついた。

既にほとんど諦めはついていて、直前でもあるし「お店に直接行って、謝って、2人分の金額を支払おう……」と思い、お店に向かった。

お店の紹介

ここで私がずっと行きたかったというお店の紹介をしておく。

ARINA VINO TRATTORIA(アリーナ ヴィーノ トラットリア)

神泉を象徴する裏渋通りは、仕事の関係でよく通る。コロナ禍を経てかなりのお店が入れ替わったが、残る理由があるお店はやはりしっかり残っている。そしてこのお店もまたきっと「残る理由があるお店」なのだった。店の裏渋通り側が掃き出し窓になっており、床側にはワインのコルクが敷き詰めてあって、遠目からでも、かなりインパクトがある。いつもお客さんがしっかりと入ってる印象で、おいしいワインやお料理が楽しめるんだろうなあ……と、通るたび、ずっと気になっていた。

コルクが敷き詰められた窓

お店の扉は木の扉、窓には前述の通りコルクが敷き詰めてあるので、外から店内の様子は伺い知れない。大きく深呼吸して木の扉を開ける。お店の名前に「トラットリア」とついているだけあって、アットホームな雰囲気の店内だった。カウンターとテーブルが2卓あり、満席でも20席に満たないくらいの、こじんまりとした店内。

コの字形のハイカウンターの中に厨房があって、コンロが正面は玄関と反対側を向いている。カウンターの奥で、オーナーが懸命にオーダーをこなしている背中が目に入り、すぐに横から女性の店員さんが優しく、でもトラットリアらしい元気さも添えて迎えてくださる。

ああ、このお店でごはんを食べたかったのになあ……と死んだ魚の目で予約名を伝えたのち、すぐに「すみません、今日2名で予約したんですけど、相手が体調不良になったみたいで……い、インフルエンザかも……?代わりの人今探してるんですが、見つかるまで少し時間かかりそうで……お店の外で待っていいですか……もし見つからなかったら、2人分お支払いするので、テイクアウトさせてもらえないでしょうか……すみません……」

自分の罪悪感を薄れさせるために咄嗟にインフルエンザを引っ張り出してしまった自分に失望。インフルエンザにすら申し訳ない気持ちになりながらしどろもどろお伝えすると、店員さんが丸い目をしながら「あらあら、そういう事情なら、全然キャンセルで大丈夫ですよ」と言ってくださって、少し拍子抜け。

飲食店、特にこのお店のように席数が少なく、かつ基本的に予約で埋まるお店というのは、当日の人数に合わせて仕入れと仕込みをするはずで、だからこそキャンセル料がかかるのである。お店を訪れる側は20時からの予約かも知れないけれど、美味しいお店ほど、前日よりもっと前から予約はスタートしているのだ。

ただ、ここのお店は立地柄、予約のみで運営しているわけでもないようで、二件目としての来店なども空きがあれば、対応しているみたいだった。ある程度キャンセル分を捌ける当てはあるのかもしれない。だからと言って直前キャンセルが許されるという話ではないが。

とにかく平謝りをしながら、狭い店内に一人立ってるのもほかのお客様にも迷惑だと思うので、一度お店の外に出る。1月の寒空の下、誰か行ける人から連絡が来ていないかスマホを見ると、ドタキャン氏からLINEが入っていた。

もう来んなよ!!お前こっちでインフルエンザってことになってんだよ!!!!!てか喉風邪ならご時世上余計に来んな!!!!

こういうのを見て、思ったことを言わない典型的日本人って怖いと思われるのだろうか。でも、本当に、価値観合わない人種とやり合うのが一番体力使う。とにかく、もう二度と約束しない。このnoteもし読んだら、二度と連絡してこないでほしい。あとシンプルに、どんな相手だとしても、キャンセル料より、信頼を失うほうが勿体無いと思うの。

そんな気持ちを、キラキラ飛び跳ねるうさまるのスタンプに託した。うさまるにはいつも無理難題ばかり突きつけて申し訳ない。

神泉の散歩

予約時間の20時からあと5分だけ待ってみたが「相手、なめとるな〜」みたいな連絡がポツポツきたくらいで、「自分、渋谷います!」なんて連絡はやはりなかった。項垂れつつ再度お店に入店し、頭を下げて、お店を後にした。予約分のテイクアウトも改めて申し出たが「また来てくだされば良いんです」と、オーナーもスタッフさんも、少し気の毒そうに私のことを見送ってくれて、申し訳なさが倍増。

店を出ると、ドッと疲れが出て、少し散歩してから帰ろう……と、裏渋通りから神泉駅の方へ下った。敢えて細い道をくねくねと通っていき、コロナ中にspotifyに名前を変えたO-EASTだとかWESTが立ち並ぶ文字通りの繁華街を抜けて、東急本店前あたりへ出る。行き交う人々は食事だのお酒だの何かを求めて歩いている雰囲気。夜の東京の、この雰囲気が嫌いじゃない。少しずつ緊張が緩むのを感じながら、一方で、H&M前あたりでさっきまで感じなかった怒りが込み上げてきた。

私が?なぜ?

すれ違う人達の高揚感に当てられて、この話をドタキャン「された」だけで終わらせるのが、私の中で納得いかなくなってしまった。

悪あがき

「すみません、先ほど店頭で予約キャンセルした者ですが、やっぱり、1人でもいけますか?」
「あっ…… いけますよ!」

H&M前はあまりに雑音が大きいので、松濤ストリートにまで戻り、そこから1本横道にまで戻ったところで先ほどのお店に電話をかけた。20時の店内の様子からするに、21時前にはカウンター1席くらいは空きそうだと思っていたので、閉店さえ早めなければ入れるだろうし、1人の来店でもそんなにご迷惑ではないだろうと計算してみての連絡だった。

私の緊張を怒りに変えた道をどんどん逆に戻り、最後には謎のワクワク感に包まれながら先ほどのお店に再び到着。なぜか、さっきとは違うお店に見えた。
扉を開けるのも、3度目ともなれば結構気楽に開けられた。すでに客は残り2組だけで、今度は一通りオーダーをこなし切ったオーナーが入口側を向いていて「あ、先程お電話いただいた……」と声をかけてくださり、店のカウンター席の一番奥に案内してもらった。

渋谷神泉。文字通りの繁華街。緊張と怒りと食欲を感じながら往復した道脇には、クラブやラブホテルが連なる。事件も起きる。時々人も死んでニュースになる。立地柄、色々な「ドラマ」を見てきているだろう。食を共にするということは価値観のすり合わせでもあり、酒というのは感情の幅を増幅させるので、喧嘩にもなりやすかったりもすると思う。私に今日起きた出来事なんて、とんでもなくちっぽけに映っているのかも知れない。特に何も聞かれず、私も事情は何も話さず、とりあえず泡から注文した。

時間も時間だったので、コースではなくてアラカルトにすることに。ワインを一杯飲んだあたりで、最後のカップルがお会計。私だけ残った。

こじんまりとした店内にカウンターに客は私が1人。お店の規模感からしても、私に声をかけないわけにはいかないだろう。お店の人も、特に聞くわけではないけれど、まあ来店までの一連の流れから、どう考えても説明がないと逆に気を遣うと思ったので「誘われて、ドタキャンされちゃいました。笑」とだけ話した。「でも、私が来たかったお店だったので諦められなくて。代わりの人、見つけられなくて、すみません。」と付け加えた。

自家製フォカッチャ

「インフルエンザ、流行ってますもんね」と、20時前、死んだ目をした私に丁寧に対応をしてくださった女性スタッフの方が、突き出しの自家製のフォカッチャを出してくださった。うわーん、ごめんなさい。

前菜5種盛り合わせ

店内を見渡すと、少し古びたイタリアの地図と、オーナーと思しき人がイタリアでイタリア人らしき人たちと撮った写真が飾られていた。なるほど、多くの物語があって、この地でトラットリアをやりたいと思って、ここにお店があるんだと予想し、アラカルトながらに「本日のおすすめ」で主菜抜きのミニコースをセルフで組んでみて、お酒はお任せしてみた。

からすみパスタ

スタッフさんがお酒の好みを聞いてくださったので、せっかくなのでイタリアのワインを飲んでみたいと伝えた。価格帯はグラスで750円程度から、2000円いかない程度。スタッフさんのお酒の紹介の仕方から、料理もお酒も、そしてこのお店のことも好きで働いているということが一瞬でわかる。

DELLE ROCCHE ミディアムボディ。柔らかな口当たり。重たすぎず豊かな果実味で飲みやすさ◎

お酒も飲みながら、ドタキャン氏がインフルエンザ疑いであることは忘れないようにしつつ「まあドタキャンも仕方ないけど、早めに連絡が欲しいですよね」なんて話をしていると、私のスマホの待ち受けが猫であることに気づいたスタッフさんの顔が急に明るさを増した。事情がありそうな私に少し遠慮がちだったスタッフさんとの距離感が猫を通してグッと縮まった気がして、家で私を待っているキジトラのテトに感謝。

ナポリタンとか冷やし中華と同じ系譜を辿る 「イタリアンプリン」
ノチェロ(トスキ)  イタリア伝統の製法でナッティかつ芳しい香りを余すことなく再現。プリンにかけると濃厚な風味がプラスされる。

スタッフさんはこのお店でお酒とサービスの修行をしているとのことで、せっかくなので、デザート後にも、おすすめのお酒を選んでもらった。普段コミュ障とばかりつるんで仕事をしたりしているので「接客が好き」という人と出会うとこんなにも違ったタイプの人がいるのか、と驚くことがある。そしてやはり一定数いて、本当にすごいと思う。

アピアナーエ (ディ・マーヨ・ノランテ) Apianae (Di Majo Norante) 甘口の白ワイン。ラベルに書いてあるタコのような人間はギリシャ神話に登場する「セイレーン」

オーナーは寡黙だったが、話は全部聞いているようだった。どこかのタイミングで、お店は2023年の11月でオープン10周年だと教えてくれた。

1人での来店は珍しくないか聞いてみると、実は結構いるようで、閉店間際にパスタだけ食べにくるお客さんもいる、と教えてくれた。この日は私の後には客は一人も来なくて「こういう日もあるんですよね」と言っていたが、次からは私が閉店間際に来店する一人客ラインナップに入りそうな気がした。この日は、流石に神様も私のことを可哀想だと思って、スタッフさんとオーナーさんを独り占めさせてくれたのかもしれない。

エピローグっぽいもの

シンプルに、1人でも来て良かったと思えるお店だった。もちろんデートにも、友人との食事にも良いと思う。

人に料理をふるまってお金をいただく、というお仕事を愛する人が、小さなお店を持ちたがる理由が最近よく解る気がする。自分が思う適切なものを、自分が思う適切に作り、適切にお出しして、美味しいと思ってもらいたい。別に万人に美味しいと思ってもらわなくても良い、というか、それが不可能なのは、毎日お客様の人数だけジャッジされている側が1番わかっているはずだ。そしてわかっているからこそ「このお店が好き」「ごちそうさま、美味しかった」の喜びを1番感じられるのが、この規模感なのだと思う。

「もう、今日あったことnoteにかいてやろうと思います!」と喚きながら会計を済ませて、お店を後にした。はっきりと宣言してきたのに、書くのに半年くらいかかってしまい、お店の人達も忘れてるかもしれない。

帰り道スマホを開くと、「15分後渋谷来れませんか」の投稿に「朝に連絡しろ!」「クズ!」「逆に仕事だったらキャンセルしていいと思ってんのか!」「そんな奴とご飯行くな!」と数少ない友人達から反応が来ていたので、 そのひとつずつに、丁寧にうさまるのスタンプを返していった。

#創作大賞2024 #エッセイ部門  





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