見出し画像

釜石で銭湯の常連になったら、母親がもう一人増えた話

【関係人口コラム】 vol.4

こんにちは!
きっかけ食堂東京メンバーの柏木彩織(の自己紹介はこちらから)です。

「私が東北と関わり続ける理由」がテーマのこのコラム。
何を書こうかと悩みましたが、私の好きな人の話を書こうと思います。
私が年に何度も同じ地域に通う理由の一つです。
少し長くなりますがどうぞお付き合いください。
(タイトルがタイトルですが決して複雑な話ではございません。笑)

=================================

「しっかりあったまりなさいよ」

大学2年生の春休み、岩手県釜石市にて1ヶ月間インターンをしていた頃、
毎日欠かさずかけられていた言葉はこれだ。
1ヶ月半の滞在でできた私の行きつけはカフェでもコワーキングスペースでもなく、銭湯だった。


インターン初日のお風呂会議

画像7


はじまりは滞在先のリノベーションハウスのお風呂だけが、リノベーションされていなかったことからだった。
一緒に住む、もう二人の女子たちとお風呂会議が始まった。

私たちの選択肢は3つ

1. ハウスのお風呂に寒さに耐えて入る
2. 駅前のホテルにある展望露天風呂付浴場にいく(徒歩15分、17:30まで)
3. 近くの年季の入った銭湯に行く(徒歩5分、20:00まで)


1番は正直なしだった。
ハウスを貸してくれるオーナーさんからも「入れるもんじゃないよ」と言われ、外でお風呂に入ることを勧められていたからだった。(実際は寒さに耐えれば普通に使えることがのちに判明。)

2番は魅力的な選択肢。
17:30最終受付が鬼門なだけで、就業後ダッシュで向かえばギリ間に合うし、徒歩15分なんて余裕。毎日釜石が見渡せる露天風呂に入れるなんて「サイコーじゃん、これ一択でしょ」と思っていた。
しかし、ここは岩手県でしかも2月。
「釜石は沿岸部だから雪は降らないよー」
と言われていたのに、私たちが到着した日はなぜか雪が降っていて、ハウスの水道は凍って水が出なかった(翌日水道屋さんを呼んだ。)
こんな季節に風呂上がり、15分も外を歩こうものなら、湯船で温まったことは家に着く頃にはなかったことになる。


3番は、

今だから言えるが、建物の外観からして不安だった。年季はだいぶ入っているし、煙は上がっているけれど、よそものが入りづらい店ランキングin釜石を開催したら上位3位にランクインしそうなくらい入りづらい雰囲気だった。しかし、われわれに残された選択肢はこれしかない。


「………とりあえず一回行ってみよう。…」


こうしてお風呂会議は幕を閉じた。


「とりあえず一回行ってみよう。」

画像4


“とりあえず行ってみた“ 結果はタイトルにある通り、だ。

銭湯は「鶴の湯」という名前だった。
番台のおかあさんはとてもあったかくて、優しくて素敵な人だった。
脱衣所で全裸になってからタオルを忘れたことに気がついた私は、「タオル忘れちゃった…」ともごもごつぶやきながら、そうっと番台さんをみた。
我ながらアホだし、図々しい。
彼女はケラケラ笑いながら「これ使いなさい」とタオルを渡してくれた。
素っ裸で感謝した。

45度もあるお風呂は熱すぎて指先を入れるだけでビリビリした。常連らしきおばあちゃんが「水を入れて入るのよ」と丁寧に入り方を教えてくれた。
そのおばあちゃんは水を全くに入れずに入っていたけれど。笑
別のおばあちゃんは背中を流しにきてくれた。方言がきつくてほとんど何話しているかわからなかった。

銭湯に入ってから出るまでの小一時間。
銭湯初心者のわたしにとって、
それはすごく新鮮で、
なんだか照れ臭さくて、
それでいてすごく心が満たされた。

帰り道、わたしたちはここに毎日来ようと話していた。
鶴の湯のお湯は上述した通り45度と激アツなのだが、家に戻って夜ご飯食べて、寝るまで手足が冷えなくて最強だった。

私たちは寝る時まで
「まだ足先あったかいんだけど!」
「私なんて末端冷え性なのに、ほんとすごい!」
「しかも銭湯のおかあさんいい人だった〜」
と鶴の湯の余韻に浸っていた。

駅前の綺麗な展望露天風呂のことはすっかり頭から消え去り、初日にして小さな地域の銭湯の虜になっていた。



元気になる魔法のお風呂、私もありがとうを返したい

画像4


嬉しいことがあった日も、悲しいことがあった日も、鶴の湯に行って番台にいるおかあさんとお話をした。
どんな時でも変わらずに迎え入れてくれて、「しっかりあったまりなさい」とお風呂に入る私を見守っていてくれる。お風呂から上がるとモヤモヤと考えていた頭も自然とスッキリしていて、元気になっていた。

お風呂に入るだけで、毎日こんなに元気をもらっている。
「鶴の湯に何か恩返しがしたい」といつしか考えるようになった。

インターン先で作っている、街の紹介ポストカードの中に鶴の湯を入れたいと番台のおかあさんに取材交渉した。
「いいけど、恥ずかしいから私の写真はちょっと、、、」
そう言って撮影NGを出すおかあさんに「どうしてもお願い!」とわがままを言って、私が一緒に写ることを条件に許可をいただいた。


そうして作られたポストカードがこちら。

スクリーンショット 2019-03-12 16.12.01

スクリーンショット 2019-03-12 16.12.04

書かれている内容が英語なのは、昨年9月に開催されたラグビーワールドカップで来ると想定されていた外国人観光客をターゲットに制作したから。

完成したカードをみた、鶴の湯のおかあさんは「恥ずかしいけど、すごいねえ。嬉しいねえ。」と私たちがお風呂に入っている間もずっとそれを手にとって眺めていてくれた。

次の日、鶴の湯に行くとポストカードは銭湯の一番目立つところに飾ってあった。

「常連さんたちが、コレをみてよく写ってるねっていってくれるのよ。お客さんみんな英語は読めないけど、じいっとこれをみてくれててね」嬉しそうにそう話してくれるお母さんの顔を見て、


「お節介だったらどうしよう。」
わたしの心の中にあった小さなわだかまりをその言葉が溶かしてくれた。



インターン生活はあっという間に過ぎ、
釜石滞在最後の日を迎えた。

画像5


いつもどおり、引き戸を開け
いつもどおり、「こんにちは」「はい、いらっしゃい」のやりとりがある。
お客さんは私しかいなかった。
お互い日常を装うんだけど、どこかぎこちなくて変な感じがする。
普段と何も変わらない鶴の湯で、いつもと違うことは1つだけ。


一ヶ月半、毎日通ってた鶴の湯に明日から行かなくなること。



「しっかりあったまりなさいよ」その言葉もいつも通りだった。

最初は熱くて熱くて入れなかった湯船も、今ではその熱さが気持ちいい。
のぼせそうになりながらも、その日はお風呂場から出るのが名残惜しくて、上がっても、やっぱりもう一度入るのを繰り返す。

いつものように「あっちぃー」って言いながらお風呂からあがると、
普段はそれを笑いながら見てるだけなのに突然、
「私たちは逃げも隠れもしないから、無理しないでまた戻っておいで」
と声をかけてくれた。

お互いになんとなく触れないようにしてた事実に向き合った時、

我慢していた寂しさが溢れて、泣いた。
素っ裸のまま泣いた。
水滴なんだか涙なんだか、なにがなんだかわからなくなった。

湿っぽいのも嫌で、なんとか”最後”を考えないように気持ちを切り替えて
ドライヤーしながらいつも通りの雑談をする。
その日は千葉にいる息子の話と、震災直後は花粉もすごかったけど空気が悪かったって話。ちなみに後者の話はこれで10回目くらい(笑)

行かなきゃいけない時間がきて、
番台のおかあさんのいる鶴の湯が私の居場所だったこと、
「しっかりあったまりなさいよ」っていつも声掛けてくれることがすごく嬉しかったこと、
出会えてよかったってこと、
ぼろぼろ泣きながら全部伝えた。おかあさんも泣いてた。

「わたしには3人息子で娘がいないから、娘ができたようでうれしかった」
「ここを第二のふるさとだと思いなさい」

その言葉たちが、追い討ちをかけるかのように私を泣かせてくる。

無理やり涙を止めて、
笑顔で「それじゃあまた、いってきます。」と言って扉の方に向かう。
カーテンに隠れておかあさんの顔がみえなくなった。

やっぱりさみしくて、戻って顔をみる。
ちゃんと目を合わせて「ありがとうございました」って言ってみた。
引き戸を引いて、鶴の湯を出た。出るときに言った言葉は「じゃーね」。


「『またね』って言えばよかった。」


そんな小さな後悔をしながら、銭湯の外でぐすぐすとまた泣いた。


=================================

おわりに。

画像6

夏に4ヶ月ぶりに再開した時の一枚。
嬉しくて二人して泣いたあとです。笑


過去にきっかけnoteできっかけ食堂に関わる理由は書かせていただいていたので、今回は超個人的な話を、好き勝手に書きました。

あえて食と関係のない銭湯の話をきっかけ食堂のnoteに書いたのは、
私が1番の魅力だと思っている東北の「人」の魅力を伝えたかったから。
だからこそ、私が東北の人の魅力を知るきっかけになった一つでもある、
銭湯の話を書きました。

いつもは食材の美味しさや、生産ストーリーを伝えている私たちですが、その食材を選んだり紹介するときに一番惹かれるのはやっぱり
「生産者さんの想いや人柄」です。

これからももっともっと素敵な東北人を発信していきます。

そして、

私が東北と関わり続ける理由
それは、会いたい人守りたい場所があるから。
東北のおかあさんに会いに行くために、
第二のふるさとに帰るために
これからも私は東北と関わり続けます。


【関係人口コラムとは】

きっかけ食堂に関わる東北好きの皆さんに、東北と関わり続ける理由についてお聞きします。

コラムを通じて、多くの人が都市から東北、地域に関わることの「楽しさ」や「関わりしろ」を知るきっかけになれればと思います。是非、ご覧ください。

関係人口とは?
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々をさします。
(総務省関係人口ポータルサイトより引用)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?