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自転車旅行中に地元民からもらったもの

大学生のころ、サイクリング部という部活に入っていた。

普段は、日帰りや1泊で帰って来られる範囲を、夏休みや春休みといった長期休暇は、北海道や九州などを、日焼けで真っ黒になりながら、グループで走りまわっていた。

こんな自転車に乗っていた

鍋やテントその他もろもろを自転車に積んで走っている集団は目立つのだろう、旅先でたくさんの人から声をかけてもらった。

「どこから来たのか?」を聞かれることが一番多く、「静岡から来ました!」と答えると大抵の人は「すごいねぇ、若いねぇ、頑張ってねぇ」と言ってくれる。

実際には電車やフェリーを使っているので、静岡から全部自力で走ってきているわけではないのだが、「へぇ!静岡から!遠いところからすごいねぇ」と言われると、「3日前に電車で〇〇駅まで来ました」とは言い出しにくかった。

そんな感じで「すごいねぇ!」と言ってくれる地元のオジサンたちの中には、いろいろなものをくれる人もいた。

そんな地元の方々からいただいたものの中で、印象に残っているものについて書きたいと思う。

◇菓子パン

もらった場所:茨城県水戸市水戸駅前

静岡駅からムーンライトながら(夜行列車)に乗り、上野で常磐線に乗り換え水戸駅で降りていた。大洗港から北海道行きのフェリーに乗るためである。

水戸駅の北口で自転車を組み立てていると、早速地元のオバサンから声をかけられた。

まだ1秒たりとも自転車に乗っていないのに。

まだこれから旅に出るところなんです!と言いだせず、オバサンはわざわざローソン水戸駅北口店で菓子パンを人数分買ってきてくれた。

菓子パンはフェリーの中で夜食として食べた。

◇水道水

もらった場所:富山県朝日町

8月上旬、新潟県糸魚川市から親不知海岸というトンネルの連続で大型トラックびゅんびゅんの難所を抜け、滑川方面へ向かっていた。

信号待ちで止まっていると、民家の庭で作業をしていたオジサンに声をかけられた。

自転車には2ℓのスポーツドリンクを差して走っているのであるが、みなカラになりかけていた。

水道水でよかったらいくらでも汲んでいけ!とオジサンが言うのでお言葉に甘えてペットボトルに汲ませてもらった。

富山県の水道水は、黒部立山連峰の雪解け水なので、真夏でも温度が低く、とりわけ美味しいとオジサンが絶賛していたのをよく覚えている。

いただいた水道水は、実際に冷や冷やでかなり美味しかった。

◇スイカ

もらった場所:北海道十勝郡浦幌町

広尾町から釧路方面へ向かっていた。その日は浦幌町の道の駅で野宿の予定であったが、思ったより早めに浦幌町に着いてしまった。

市街地(といっても田舎町)を走っていると、ガソリンスタンドを再利用して地元の特産品を販売している店があったので、午後のおやつとして、とうきび(とうもろこし)を買って食べることにした。

サイクリング部には、道の駅などでソフトクリームを買うとき、複数人でじゃんけんをして負けた1人(値段が高くなりそうなときは2人)が全額おごるという悪しき風習があった。

このときは、「とうきびじゃんけん」をしたのだが、たしか負けたような気がする。

悔しさを堪えて、とうきびに無心にかじりついていると、既に食べ終わった後輩Mくんがいなくなっていた。

辺りを探すと、彼は店の人に農産物の積み下ろしを手伝わされていた。

残りの班員も手伝いを買って出ようとしたが、1人でちょうどよかったらしい。彼のみ15分ほど労働力を提供し、対価としてバレーボールくらいの大きさのスイカを1玉もらった。

荷物になるので心底嫌がっていたが、スイカはもらった本人の荷台に括り付けられることになった。

ちょうどスイカをもらった彼の実家が釧路にあり、2日後の目的地だったため、彼の家に到着後、三角形に切って食べた。

彼はそのまま実家に留まることを決め、その後の旅程についてくることはなかった。

◇牡蠣

もらった?場所:熊本県天草市天草町

3月上旬の熊本。いくら九州といえど、まだ肌寒く河川敷や道の駅でのテント泊の連続はキツいため、キャンプ場のバンガローに泊まる日を設けた。

夕食はキャンプ場の管理人さんが、BBQセットを用意してくれる予定であったが、雨が降り出していたため、気を利かせて室内で食べれるしゃぶしゃぶセットに変更してもらえていた。

野菜や豚肉、地元で獲れたイノシシ肉のほかに、サービスとして小鉢に入った牡蠣のむき身まで用意してあった。

鍋の下のお皿

この牡蠣が、班を壊滅状態に追い込むことになる。

久々に屋内で快適に寝れる上に、ご馳走を見てテンションのあがった班員は、牡蠣を充分に加熱することなく、お肉の要領で口に運んでしまったのである。

翌日の夜、寝る前に1人で熱燗をし、薄着で寝た先輩から見事に先行して体調を崩した。

ノロウイルスの潜伏期間は約12時間〜24時間である。

天草の島内の小さな診療所に、顔面蒼白状態の先輩を連れて行き、その間、まだ発症してない班員は定食屋でエビフライを食べていた。

風邪だろうと診断された先輩の体調が心配なので、自転車で走る日程を1日短縮して、三角駅から熊本駅までは電車を使うことにした。

熊本駅に到着後、健康ランドに泊まることにしたが、その日の夜、残りの班員がトイレと休憩室を行ったり来たりし始めた。

昼間はあんなに元気にエビフライを食べていたのに。

熊本駅前

幸いにも健康ランドの目の前に大きめの病院があったので、体調不良者を翌日朝から受診させることにした。

私ともう1人元気なメンバーがいた。2人とも牡蠣が苦手で食べていなかったのである。

体調不良者が薬をもらって帰ってきたが、欲張って1番多く牡蠣を食べていた先輩は、「入院一歩手前って医者に言われた!」「明日まで絶食だって!」とヘラヘラしながら帰ってきた。

絶食と言われたのが辛かったのであろう、医者にゼリーやプリン程度なら食べてもいいか聞き、ゼリーだったらいいよと許可をもらったらしい。
早速ローソンでゼリーを買って食べていた。

その後、熊本から博多までは、サイクリング部全体の合宿として班構成を変えて走る予定であったが、体調不良者は先に新幹線で帰ることになった。

帰ることになったメンバーには申し訳なかったが、牡蠣が苦手でよかったと思った。


他にも、餅ときな粉など、思い出せばいろいろなものをいただいた。(正直いらなかった)

社会人になってロードバイクで四国を回ってるときなども、みかんを貰ったりした。

荷物を積んで1か月近く自転車で野宿をしながら走ることは、おそらくもう無いだろう。

今度は自分が何かをあげる番だと思っている。

道の駅などで、自転車に荷物をくくりつけて旅をしている大学生がいたら、自販機のスポーツドリンクくらいは奢ってあげようかな。

おわり

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