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【怖い話】すすり泣く女の声

JR中央本線の名古屋駅発、多治見駅行き。
名古屋の高層ビル群や春日井の住宅地を過ぎると、電車は庄内川に沿って谷あいの薄暗い区間を走っていく。

途中に駅があるが、もちろん無人駅である。
定光寺駅と古虎渓駅。
トンネルとトンネルに挟まれ、崖に這いつくばるように存在しているプラットホームを利用する乗降客は、1日300人程度。

定光寺の廃ホテル

結構乗降客が多いように見えるが、近所に民家はほぼ無く、旧中央線のトンネル遺構や廃墟、廃ホテルを見物に来る人の割合もそこそこ多いのかもしれない。

左上が定光寺駅のホーム

もちろん興味本位の心霊スポット見物である。
霊感ゼロ&びびりな私には無縁なアクティビティである。


大学3年生の夏休み、郷里を離れて静岡県で一人暮らしをしていた私は、春休みぶりに実家に帰る途中であった。

19時過ぎ、新幹線を名古屋駅で降り、普通であれば改札口を出て名鉄に乗り換えるのであるが、金欠学生が久々に新幹線なんぞに乗ったものだから、間違えてJR在来線の乗り換え口に出てしまった。

切符を改札で回収されてしまい、どうしたものかと考えていると、母から「多治見駅なら迎えに行ってあげてもよい」とLINEがあったのでお言葉に甘えることにした。

春日井、神領、高蔵寺を通り過ぎる頃には辺りは真っ暗になっていた。
名古屋駅から乗っていた乗客は、高蔵寺駅までに大抵降り、車内は吊り革につかまって立っているのが2人ほどまでに減っている。

定光寺駅に停車、乗り降りする人なんているのだろうかと、思っていたが、以外にも3、4人降りる人がいた。
仕事帰りの時間帯、駅の外に数台の車がヘッドライトをつけて停まっている。家族を迎えにきた車だろうか。

定光寺駅を後にした列車は、トンネルを抜け真っ暗闇の庄内川沿いを走ること数分で古虎渓駅に停車した。

この駅では流石に降りる客は居ないんだなと、謎に安堵する。

「ピンポン…ピンポン… (パタタッ)」

ドアが閉まる瞬間、ピンポンの音にかき消されるように、パタパタっと一瞬駆け足のような音がした気がするが、誰も乗り込んできた様子はない。

古虎渓駅を発車すると、またすぐに長いトンネルに入る。
しばらくすると、トンネル内に響く車輪の轟音に混ざり一定の間隔で、何やら別の音が聞こえてきた。

………すん…すん……っく……

………すん…ぐす……すん……っ…

………っ……すん………

女の人がぐすぐすとすすり泣く声が、車内のどこからか聞こえる。

乗客は男の人が数人いたくらいかと思いこんでいたが、向かいのロングシートにOL風のお姉さんがいた。

………すん……すん…

最初はそのお姉さんが泣いているのだと思っていた。きっと彼氏にフラれたのだろう。そっとハンカチでも差し出そうかと柄でもない思考が頭をよぎり、ふとお姉さんの方を見る。

……すん…っ…すん…っ…

お姉さんはスマホを見ているが、別に泣いてなどいない。

………すん…っ…

ンンッ!

頭の禿げたおじさんのわざとらしい咳払いが聞こえる。おじさんにも、すすり泣きの声が聞こえるようだ。

すると私の視線に気がついたのか、はたまたおじさんの咳払いに驚いたのか、お姉さんが顔を上げてキョトンした表情でこちらを見ている。

………すん………っすん…

お姉さんと目が一瞬あってしまい、気まずくなった私はポケットから出したスマホに目を落とす。

多治見の街明かりが車両を包み始めたあたりで、すすり泣きの声はパタっと止んだ。

多治見駅に間も無く到着するアナウンスが流れたため、立ち上がり荷棚からスーツケースを足元に下ろし、再び座席に座る。

やはり、さっきのすすり泣く声は気のせいだったのだろうか?

多治見駅に到着し、車両に残っていた乗客が次々ホームに降りていく。自分も降りなければ。

ホームに降り、ふと今まで自分が乗っていた車両を振り返ると、お姉さんがまだ座っている。

OL風のお姉さんは、青ざめた表情で唇をふるわせながら一点を見つめていた……

お姉さんが見つめていたのは、ちょうど私が座っていた座席の上方、さっきまで私の頭があった車窓の真上あたりであった…

おわり

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