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お隣さん

お隣の奥さん。嫁いですぐに、しゅうと・しゅうとめを看とり、その後は、地道に、しかし農作物や草花で遊びながら、しっかりと家庭を守っていた。

おっちょこちょいで忘れっぽく、学校関係でも村関係でも抜けてばかりのわたしを、ミワチャンミワチャンと言って、いつも気にかけてくれた。

数年前にご主人を癌で亡くしたあとは、就職してきちんと働いている二人の息子さんたちと、彼らの文句を言いながらも楽しくやっている様子だった。

そのS子さんが、今日の午後亡くなった。

あまりに急で、うそでしょとしか言いようがない。
しかし、聞けばこのところずっと、臥せていたのだそうだ。
知らなかった。

最後に会ったのは、八戸の姉からの果物を届けた時だったかもしれない。
あの時は、東京と自宅を行ったり来たりしているわたしを、無理しないようにと、ずいぶん気遣ってくれた。

思えばいつもそうだったな。

持って行ったものを、早速お父さんに食べさせるからと、仏壇に供えた。
それも毎回のこと。庭の花を持って行っても、到来物のお福分けに行っても、とにかくまずはお父さんに、だった。
どれほどご主人を大事に思っていたことか。

わたしには時々、畑で育てた珍しい野菜、新鮮なハーブなどを届けてくれ、秋になると、きれいな紫色のキノコを大事そうに持ってきてくれたりもした。

いつか、森林インストラクターなる資格を取りたいと、夢も聞かせてくれた。
同じ森好きが、近くにいて本当にうれしかったのに。
たまにしか会わずとも、気心は知れており、いつ会っても安心な人だったのに。

いきなり死んでしまうなんて・・

あんまりだーーーーー!!!!!

死はいつも突然やってくる。
臥せていた人にも、死は突然だ。死ぬ瞬間に向かって秒読みを開始する人なんていない。
残された者は、心がカラアゲになり、次に涙をぬぐって淡々とことを進め、怒涛の日を送り、やがて家族の一人足りない部屋に端座する。

ご次男の誕生日が葬式となった。
わたしの息子と同い年のご長男が、今後の村付き合いを一手に引き受けることになる。

若いために、介護の仕事も最前線。忙しすぎる話は、S子さんからよく聞いていた。
早くいいお嫁さんが来るといいな。
S子さんも、たぶんそれを一番に望んでいる。
田舎には珍しいイケメンだ。その気になれば早いだろう。

その、未来の彼女が、今度はお隣さんだ。
S子さん安心して子。仲良くするよ。
そしてあの世で、お父さんと二人して大好きだったキノコ採りでもしてください。

お父さんがもうあの世に行っているのは、不幸中の幸いだ。

まだ信じられないが、S子さんのご冥福を心から祈る。

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