埴科きき

アイルランドが大好きなシンガーソングライター。歌うものは自作曲、Irish、映画音楽。…

埴科きき

アイルランドが大好きなシンガーソングライター。歌うものは自作曲、Irish、映画音楽。風を探す旅人。木や雲などの自然、動物、本、縄文時代、美味しいもの大好き。車も旅も。宇宙と地球暦も。

最近の記事

ピンヒールの気合い

雨の秋葉原駅。階段の目の前を、若い女の子が、今どき珍しい黒のピンヒールをはいて上っていく。 おお~。 わたしは感心する。この天候にこの靴だ。 長靴をはいて走りたいわたしとは大違い。「女」にかける気合いが感動もの。思わず、がんばれよ!とエールを送りたくなる。 中性のわたしでも、やはりいつか、女性らしく装おってみたいという願望はある。 しかし髪型は、十和子風たてロールではない。フェイ・ダナウェイのアップだ。 憧れの装いは、ローラ・アシュレイやリバティプリント、オー

    • お隣さん

      お隣の奥さん。嫁いですぐに、しゅうと・しゅうとめを看とり、その後は、地道に、しかし農作物や草花で遊びながら、しっかりと家庭を守っていた。 おっちょこちょいで忘れっぽく、学校関係でも村関係でも抜けてばかりのわたしを、ミワチャンミワチャンと言って、いつも気にかけてくれた。 数年前にご主人を癌で亡くしたあとは、就職してきちんと働いている二人の息子さんたちと、彼らの文句を言いながらも楽しくやっている様子だった。 そのS子さんが、今日の午後亡くなった。 あまりに急で、うそでしょ

      • 思い出宝箱

        過酷な暑さを、日にさらされた夏の緑が耐える。 逃げ場もなく熱風にあおられ、緑が揺れる。 容赦ない陽射しの中に、緑が取り残されている。 ・・というところまで書いて保存したままになっていた。もうずいぶん前だ。書いたことすら忘れていた。 なんだかんだするうちにも公転は着実に進んでいる。 とある夏の日、南米ホピ族の二人が朝の関東平野に向かって周辺諸霊を鎮魂する儀式に少しだけ立ち合わせてもらった。 笛と歌による、シンプルで原始的な祈り。 偶然かもしれないが、その日は

        • 今宵星降る里で

          今宵星の降る里で、小さな奇跡が起こる。 あの子が眠り、この子も眠り、夢があちらこちらでふわふわ舞う今、はるか彼方の国から、贈り物が届いた。 届けるのはサンタクロース。彼を乗せ、闇の向こうからすべるようにやってくるのは、四頭だてのトナカイのソリ。 シャンシャン、シャンシャン・・ 耳を澄ませば、きっときこえるはず。 信じてさえいれば、奇跡は起こる。疑いという心の形に、奇跡は入り込めない。 サンタクロースは今あの子に、夢を描く力を落とした。あの子には、誤解にも曇ら

        ピンヒールの気合い

          届かない声〜声は届く

          空の底にぐるり朱を撒いて それが上空の藍と   少しずつ溶け合っててゆくのを 静かに見守る金星 この世のあらゆる光を象徴するように 清と濁とを従え ただぽつねんと 孤高の輝きを放つ 語りたいことは何だ 忘れたいものは何だ やがて 澱んだ朱の帯と藍の天幕は消え 漆黒が空を支配するのが掟 その凱歌があがるまでの僅かな間に 金星は全天の星を呼び 自らはそのさざめきに いつしか姿を隠す 空を切る星の声は 誰の耳にも届くこ

          届かない声〜声は届く

          唐津〜風物語〜

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          唐津〜風物語〜

          海の眠り

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          ヘッセと老いた友人を思う

          昨日は、思いがけず仕事が休みになった。そこでわたしは、ずっと気になっていた「ヘルマン・ヘッセ展」に出かけた。ちょうど、近くに住む息子のところに用事もあったし。 昨日を逃せば、もう行けなかったかもしれない。とてもラッキーだった。 この展覧会は、「日本におけるドイツ年」の一環として企画されたものである。 わたしは、霧ヶ峰の山小屋で、詩「霧の中」を読んで以来ヘッセの大ファン。そして、小説家としてよりも、詩人・随筆家としてのヘッセに親しんできた。 そんな、大好きなヘッセの、生

          ヘッセと老いた友人を思う

          静かな夜に

          我が家は暗い。 朝は自然光。部屋が奥まっているため、暗い。だがそのほの明るさ加減を、わたしは嫌いではない。それに、一歩外に出ればいやというほど明るいのだから、なんの問題もない。 夜のキッチンは、全体照明不在の中、天井の埋め込み灯、調理台上の2灯、そして可変アームのテーブルライトで明かりをとっている。プラス時々キャンドル。 わたしは蛍光灯の光がどうも好きではなく、特に食卓にそれは避けたい。 白熱灯の(色の)光なら、料理をおいしそうに見せてくれるし、気持ちも和む。

          静かな夜に

          春の日

          覚えているかい? あの一面の菜の花畑を。 温かくなり始めたやわらかい空気の中を、踊るように歩いた春の日。 辺りに漂っていたのは、ほかのどこにもない匂いだった。 甘い匂いでもなく、芳醇な香りでもなく、 青い匂いでもなく、爽やかな香りでもない。 それはまぎれもなく菜の花の黄色の匂い。 つかまえようとすれば遠のき、忘れているとふいにやってくる。 菜の花は思い。 菜の花は追憶。 菜の花は君。 白い空の下に広がる黄の野に立つ。 瞳を閉じたわたしの耳に、 こちらへこちらへと、い

          あの人の歌

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          JAFのプロフェッショナル魂

          比較的早い時間に帰路に就けてよかったと思ったが、連日の超睡眠不足のツケはやってくる。 常磐道入った頃にはかなり辛くなり、サービスエリアでバタンキュー状態だった。 目覚めてびっくり外はどしゃ降り。 やっべ~と思いつつエンジンキーを回したが、セルモーターすらクスンとも言わない。 ハッ 案の定、ヘッドライトをつけっぱなしだった! 今頃ライトを切っても遅い。悲しいかな、お手上げである。 冷静に考えた結果、わたしはJAFに電話をした。 深夜0時過ぎ、同じような車が5台いるので

          JAFのプロフェッショナル魂

          森の歌

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          音と言葉のある空間

          ギャラリーTohgoに久しぶりに音楽が満ちました。 「おりおり」のお二人が、録音録画を兼ねたプライベートLiveをなさったのです。 松の木の梁も、星崎雪乃さんの法螺貝の灯りも、嬉しそうでした。 誰より嬉しかったのは、私かもしれません。 「初夏」が好きだというギタリスト大宮麻比古さんの、空間を包み込むような自由で広がりのある音に乗って、totoさんが縦横無尽に言葉を繰り、唯一無二の世界を構築していきます。 カエルの声も子供たちの声も、お二人の音楽世界ではアクセントとして難

          音と言葉のある空間

          鈍色になるまで

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          鈍色になるまで

          白熱灯の下で

          風の中を泳ぐ毎日に 時折凪がやってくる あたたかな白熱灯の下で 久しぶりの笑顔が集う 70を過ぎた一人暮らしのあなたの 質素な野菜料理はあまりにも美味しく 旅立つあなたがたの驚きは あまりにもまぶしく すみの席からながめる食卓の風景は やさしくて せつなくて 思い出すだに涙がこみあげる わたしはここ 隣を気遣う夕暮れの電車の中 刻んだ記憶の扉を開ければ 心はそこを自由に行き来し しかし決して言葉をはさめない幸福の場所を ただ

          白熱灯の下で