
白熱灯の下で
風の中を泳ぐ毎日に 時折凪がやってくる
あたたかな白熱灯の下で
久しぶりの笑顔が集う
70を過ぎた一人暮らしのあなたの
質素な野菜料理はあまりにも美味しく
旅立つあなたがたの驚きは
あまりにもまぶしく
すみの席からながめる食卓の風景は
やさしくて
せつなくて
思い出すだに涙がこみあげる
わたしはここ
隣を気遣う夕暮れの電車の中
刻んだ記憶の扉を開ければ
心はそこを自由に行き来し
しかし決して言葉をはさめない幸福の場所を
ただ 宝物に触れるような思いで
一人見つめている
こうして他愛のない
しかしかけがえのない
静かな時を 一晩過ごせるのであれば
あとの時間はすべて
おまけのようにも思えてくるのだ
今年
飛び発てなかった白鳩が 茶色くうずくまる枝に寄せて
投げ掛けた歌は聞こえただろうか
現実は少しずつ夢を飲み込み
駅に降りたって
ゆらゆらとすれ違う影を踏むたび
いつもの通りを歩く自分に戻っていく
あの白熱灯が
どうぞいつまでもあの場所で
あたたかく
やさしく
灯りますように