日本酒の地域性 ~各地の「地酒」、実際のところ違いはあるの?~
こんにちは!日本酒のきき酒師の漫才師「にほんしゅ」の北井です!
日本酒を飲むときには「この日本酒はどこの県のお酒かな?」ということが気になる方も多いかと思います。
「四国にも九州にも美味い地酒がたくさんあるんだよ!」と言えるぐらい全国の日本酒をよく知っているような日本酒愛好家さんを除けば、日本酒産地でまず浮かぶのは「新潟や秋田かなぁ」という方が多いのも現実ですね。
新潟のお酒というだけで「スッキリ辛口で美味しそう!」と想像されるわけですが、新潟地酒といってももちろん全てがスッキリ辛口なわけではなく、甘いお酒も濃い味わいのお酒もあるので「新潟地酒は淡麗辛口!」と安易に一括りにするのは憚られます。
とはいえ日本酒は「地酒」という言い方もある通り「地域性」とは切っても切れないものですよね。
実際のところはどうなのか?
今回は、地酒の伝え手として全国津々浦々の酒蔵さんを巡ってきた私なりの「現代の地酒の地域性に対する考察・展望」を、酒蔵さんや酒販店さんの声を交えつつ書いていきたいと思います。
技術交流や嗜好の変化で日本酒の地域性は薄れた?
「日本酒には地域性があるか?」これは日本酒関係者にとって大きく、そして難しい問いです。「もちろんありますよ!」とも言えるし、「薄れてますね」とも言えるテーマです。
九州の醤油には特徴があって、その味を口にしたときに「あぁ、甘い!九州の醤油だなぁ!馬刺し食べたい!」などと九州に思いを馳せられるように、日本酒も飲んだ瞬間「あぁ!これは東北の酒だー!」などと地域性を感じられるといいなと思いますが、現代の日本酒の地域性とはいかなるものか。
「ある」「ない」の両面から考えてみます。
日本酒に「地域性がある」と言える理由
まずは「仕込み水の違い」ですね。日本酒は仕込み水をたっぷり使うお酒で、ミネラルが少ない軟水だと口当たりがやわらかく、ミネラルの多い硬水だと口当たりやボディがしっかりとした味わいになりやすいです。代表的なのが「灘の男酒」「伏見の女酒」ですね。
兵庫県の西宮市と神戸市にまたがる灘のエリアのお水は、硬水寄りでしっかりした骨格の味わいのお酒になります。京都市の伏見のエリアのお酒は灘と比べると軟水寄りで、やわらかな口当たりで甘味を感じさせます。もちろん製法や酵母菌の違いなどで様々な香り・味わいになりますが、やはり水の違いというのは一定の地域性を示すものでしょう。
その他にも軟水寄りの水が多い地域といえば、広島県の東広島市の西条や、静岡県・新潟県などがあります。
よくお邪魔する静岡の酒蔵さんは富士山の伏流水(軟水)でお酒を仕込まれるために非常にやわらかい口当たりになりますし、「富士山の雪解け水・伏流水で仕込まれている!」とイメージするだけでさらに美味しく感じます。
もう一つは「地域の食べ物との相性の良さ」ですね。昔から日本酒の世界で言われている格言的なものに「酒蔵の社長の家の食卓に並ぶものとその蔵のお酒がよく合う」という言葉があります。
新鮮な魚介類に恵まれる港町の酒蔵さんのお酒は、生の魚介類にも合うように、後味がスパッ!と切れるさっぱり系のお酒が多く、発酵食品や塩辛く濃い味の保存食がよく食べられてきた山間部のお酒は濃いめのものが多いというのはよく聞くお話ですし、まだその傾向というのは一定程度残っていると思います。
海なし県の長野の諏訪の酒蔵さんのおっしゃっていた「うちの日本酒はお寿司より野沢菜の漬物が合うんですよ」という言葉も納得です。
そうした地元の食や調味料と切っても切り離せないのが地酒ですが、現代はどこにいても全国の食べ物が手に入りますし、食の地域性自体もある程度薄れたのも事実ですからそのあたりも地酒の味わいに影響してくるでしょう。
その他、近年の動きとして、使う酒米を仕込み水と同じ水系の水で作られたものだけに絞ることで味わいに統一感を持たせ、「水も米も地元産」という感じの地域性を打ち出す酒蔵さんも増えています。
日本酒に「地域性がなくなってきた」と言える理由
「地域性がなくなってきた」と言える理由もいくつかご紹介します。
日本酒というお酒の特性のそもそもの話になりますが、同じ醸造酒の仲間としてよく比較されるワインと比べてみます。
仕込み水なしでブドウ果汁だけで造られるワインは、ブドウ品種や地域の気候・風土の違いなどが大きく味に影響しますし、その分地域性を打ち出しやすいですが、日本酒は仕込み水もたっぷり使いますし、穀物のお米の品種の違いは決定的な味わいの違いにはつながりにくいのです。
酵母菌のチョイスや米麹の作り方など製法の部分で味わいの違いを出す面が強いのが日本酒なんですね。
「昭和の時代と比べて消費量が落ちた現代の日本酒事情」も要因の一つかと思います。
とある東北の酒蔵さんがこうおっしゃっていました。「蔵の周辺が観光地でもない地方の小さな酒蔵は、色々な日本酒のコンテストで賞を取れるぐらい酒質を向上させて酒屋さんや飲み手に注目してもらうしか今は浮上のきっかけがないんです。」と。
日本酒自体の消費減と地元の人口減などがかけ合わさることで、コンテストで受賞を果たして都市圏や海外でも評価され、注文が入るようにすることが非常に大切になっているのですね。
あと、少々皮肉にも思えるのですが「近年の日本酒の素晴らしい技術・酒質の向上」も地域性の薄さに繋がっていると言えるでしょう。
酒蔵さんにとっても飲み手にとっても技術向上はとても良いことだと思いますが、一昔前では考えられないほど酒蔵さん同士での技術の情報共有なども進んだことにより、ものすごく高レベルでの酒質競争が進み、ある程度の画一化を招いたとも言えるでしょう。味わいは洗練され、レベルは間違いなく上がっているだけに悩ましく難しい話ですね!
酒蔵さんからすると「洗練された酒質と、地域性をしっかりと打ち出すこと」の両立を目指さなければいけない。そんな大変な時代なのかもしれません。
地酒は「ケンミンshow」的に楽しもう!伝えよう!
造り手の酒蔵さんや、私のような伝え手からすると本来「地酒の地域性」というのは飲んでみたくなるプレゼンに繋がる大きな要素ですから「地域性」はやっぱり大切です!
伝え方としては人気番組「秘密のケンミンshow」に倣いたいところです。
県民性の違いのおかしさや愛しさ、その土地で親しまれている意外な食べ物や名所などの紹介は見ていてとても楽しいですし、そこに行ってみたくなるものです。この番組で地元が紹介されたら嬉しいやら恥ずかしいやらでムズムズする!なんて方もいらっしゃると思います。
これだけ様々な情報がインターネットでキャッチしやすくなってもやはり「地域」や「地元」というものは誰しも意識をしてしまうものです。そこに日本酒を織り交ぜてプレゼンしたいですし楽しんでいただきたいですね!
多くの方にとって日本酒は「ここに来たからここの地酒を飲んでみたい!」や「お父さんと久しぶりにお寿司屋さんに行くからちょっといい日本酒飲みたいな!」などシチュエーション・イメージが優先で飲むものじゃないかなと思います。
だからこそ各地域の名物料理や調味料と合わせてどんどんプレゼンして「そこに行きたい!そこで地酒を飲みたい!」と思ってもらいたいものです。
地酒の地域性をどう伝えるか?を考えてきた私の持論は「超完璧なペアリングの条件が整っていなくとも、イメージで美味しそうに感じさせることはできる!」です。
日本酒は他の酒類に対してそもそも様々な食べ物や味付けに対応できる能力がとても高いお酒ですから色々と相性がいい理由をつけてオススメすることができるのです。
例えば観光都市の大阪にも美味しい地酒がありますが、その酒質は甘味や旨味がわりとしっかりめでコクがあるお酒が多いなと感じています。その特徴から大阪の名物料理と照らし合わせてオススメするセリフを作ります。
「大阪の地酒は旨味甘味しっかりめで濃いめの料理にもバッチリ合うから、串カツとかたこ焼き・お好み焼きにも相性がええねん!しかもソースって果物とか野菜を煮込んだものやからちょっとフルーティで甘味のある吟醸系のお酒も意外と合うんやで!大阪行ったら大阪名物と大阪地酒楽しんでこいよー!!」
、、、という風に相性がいい理由も交えつつオススメすると良いイメージが湧くんじゃないでしょうか?
大阪地酒でなくとも大阪の名物料理に合うお酒はもちろんありますし、ビールやサワーなども合うと思いますが、こういった県単位の地酒と名物料理をペアリングさせるようなオススメの仕方はぜひ読者の皆さんにもしていただきたいと思います。みんなで増やそう、地酒ファン!
まとめ
いかがでしたでしょうか?「日本酒の地域ごとの特性」というのははっきりとした答えが無い部分もあるからこそ、深掘りしたくなる魅力があるテーマだと思います。
しかし、イメージやシチュエーションでより楽しめるお酒が日本酒ですから各地に思いを馳せてより美味しく飲んでいきましょう!
地域の名物料理と地酒のペアリングコンテストなんかができて盛り上がっていって、全国のお酒好きの方が注目するようになるといいなぁ、なんてことを思いつつ、今夜も地酒を飲みたいと思います。
今夜も日本酒で乾杯!
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ライター紹介🍶
北井一彰
『日本酒のきき酒師の漫才師「にほんしゅ」』として、相方のあさやんとともに全国のお酒にまつわるイベントでの日本酒漫才披露や司会、セミナー講師、各種メディア出演、コラム執筆などの活動を続ける。
【食卓には日本酒。話題には漫才師にほんしゅ。】を目標に、日々進化し続ける日本酒に追いつけるように奮闘中。
official website:http://nihonshu-sakemanzai.com/
Twitter:@nihonshukitai
Instagram:@kazuaki_kitai