見出し画像

『ティール組織』をレゴシリアスプレイメソッドの文脈で読む(8)第2部第4章 全体性を取り戻すための努力/一般的な慣行

 このNoteのシリーズでは、『ティール組織』を読んでレゴシリアスプレイメソッドとの関連を考察していく。

 本章から、進化型組織になるための、2つ目の突破口の一つである「全体性」について扱われている。

 タイトルにもある「取り戻す」は、個人の全体性の現状へと焦点を当てることでより意味がはっきりとする表現である。つまり、通常の組織で働くときには「組織人格」をもち、自分の全てをさらけ出すことはしないことが衝動型・順応型・達成型・多元型パラダイムでは普通であるが、進化型では自分の全てを組織の中で自然と出すことが標準となる、ということである。

 そのためには、職場に安全であるあたたかい空間を作る必要がある、と著者は指摘する。その空間の基盤になるのは、組織の底流に流れる基本前提である。
 いち組織の例として出されているが、それは例えば以下のように表現される哲学である。

 1.人は皆、平等に尊い存在である。
 2.人は明確にそうでないと証明されない限り、本質的に善良だ。
 3.組織の問題にうまく対処する単一の方法はない。

フレデリック・ラルー『ティール組織』第2部第4章より

 これらの基本前提のうち、1は、他の人に対するあたたかい対応を、2は信頼関係のもとでのすばやい行動を、3は柔軟に事を運ぶための考え方を与えてくれるのである。これらを浸透させるために、その逆の行動を戒めるための「恥ずべき発言と行動」の例を作ったり、皆が楽しみながらも基本ルールに照らして自己を見直す「価値観の日」イベントなどを行ったりする。そのような文化が浸透してくれば、定例的なピア・コーチングなどでよりその傾向を強固にすることもできる。
 また、これらのことについて内省を深めるために常設の瞑想のための部屋を用意する組織もあるようだ。
 
 こうした価値観を、組織に強力に浸透させるために「物語ること(ストーリーテリング)」が有効だと著者も指摘する。
 物語ることの中で、話し手と聞き手の間で共有されるのは、人が悩み、弱い気持ちになることもあるという弱さの開示とともに、素晴らしい人に励まされ、一歩を踏み出すという勇気の大切さである。
 組織によって導入の仕方は異なるが、「賞賛ミーティング(マイクの前で感謝の言葉を述べる)」や感謝の手紙を書いて贈り物と共に渡すイベントなどが本書では紹介されている。

 問題の対処についていえば、対処の前の「問題の提起」が大事になる。問題はストレスがかかる。人々はそのストレスに負けて、そもそも問題はなかったのように振る舞うか、問題の本質を追求せずに妥協して誰かの解決策を支持してしまうのである。問題を明らかにして対応するためのトレーニングや手順については、前章(第3章)でも取り上げられている。

 自然破壊や人権に関わる労働慣習などは、より大きく複雑な問題である。組織がその問題に取り組むことで、その対応が大きかったり効果が見えにくかったりして、組織そのものを危うくするリスクも含むことがある。
 しかし著者はそれでもなお、「とことん誠実な気持ちで、なすべきだと感じたまま行動すれば、世界中から支持を得られる」という。そのような誠実で勇気ある行動が社会全体をまきこみ、結果として全体性を作り出すことへとつながっていくのだと著者は信じているようだ。

レゴシリアスプレイメソッドとの関連

 3つの基本前提について、「1.人は皆、平等に尊い存在である」は、レゴシリアスプレイメソッドの中核にある進め方の中に反映されている。一人一人のモデルについての話をしっかりと聞き、決してそれを否定しないからである。
 「2.人は明確にそうでないと証明されない限り、本質的に善良だ」についてはどうだろうか。メソッドの開発者であるロバート・ラスムセン氏が「Lego Serious play attracts good people」と言っていた事を思い出した。レゴシリアスプレイは善き人を引き寄せる。レゴシリアスプレイメソッドは、何か人に教え込んだり、騙したりするようなメソッドではなく、参加者の声を聞いて、そこから学ぶことを大事にする。参加者に悪意があると考えれば、話は聞けないため、この考え方も含まれているといえそうだ。
 「3.組織の問題にうまく対処する単一の方法はない」については、レゴシリアスプレイメソッドでは、参加者の誰もが何らかの答えを持っているが、どれが正しいかわからないという状態でワークが進む。多くの場合、「すべての答えが正しいように見える、より大きな理解の枠組み」へと収束する。そのため、ワークへの参加者の納得度は高くなる。単一の方法がない状態から、一つの理解の枠組みへと向かっていくということである。

 このように考えていくと、進化型組織に「全体性」をもたらすための、3つの基本前提を踏まえてレゴシリアスプレイメソッドは進んでいく。レゴシリアスプレイは進化型組織における思考や話し合いのあり方をそこに実現させるということができるだろう。
 全員が異なる考え方をもっており、それらは尊重されなければならない、ということは多元型組織の考え方でもある。多元型組織の前提からはじまって、進化型組織へと進んでいく体験をしているともいえるだろう。

いいなと思ったら応援しよう!