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楽器を育てるということ

ハープで演奏活動とレッスンをしています、KIKIです。

私はこれまで、ピアノ、ギター、フルート(銀管及び木管)、アイリッシュハープを弾いて参りました。現在弾いているのはハープだけですが、手放したものも含めて、本当にたくさんの楽器と仲良くさせていただきました。

今回はハープを例に、「楽器は育てる楽しみがある」ということについて、書いてみたいと思います。

楽器としてのハープの特徴

まずハープやギターなどの弦楽器の場合、音を出すには、例えばピアノのように 
指→ハンマー→弦という経路ではなく、
指→弦へと直結しています。

そのため指先がささくれていたりすると、ガサガサした悲しい音になるという、結構シビアな面があります。でも、自分の指がそのまま音を作り出しているという自負があり、音のディテイルに拘る楽しさを味わえる楽器だと思います。

そしてハープの場合は、音が共鳴するサウンドボックスが、ちょうど足から肩の位置まであって、身体の広範囲に響いてきますので、レスポンスが奏者にとても伝わりやすい楽器であります。

自分の調子が悪い、あるいは楽器の調子が悪い、などは非常にわかりやすいです。その逆も然り、良い音で心地よく響いていると、気分が良く前向きになれます。

ハープをお迎えした日から始まること

私がこれまでに購入したハープは通算8台ほど、大、中、小とサイズも様々です。
そのうちの何台かは現物を見ることなく(日本では見ることができない機種のため)、ネット情報を頼りに個人輸入した楽器もありました。

また、何回も楽器屋さんに出向いて行って、現物をできる限り触らせて頂いた後に「えいやっ」と思い切って買った楽器もあります。いずれも長い間吟味して購入を決心しますので、いよいよ届いた日のワクワク感は、今でも一台一台覚えております。

そしてお迎えした日から始まるのが、ひたすら楽器と向かい合う時間です。様子を伺いながら、できるだけ時間をかけて相手の声(音)を聞く日々になります。それは若干「人付き合い」に似ているところがあります。

すぐに仲良くなれる楽器、なかなか素性のわからない楽器、でも一旦わかったら、なんとも味のある楽器だった・・・など個性は様々です。少しずつプロフィールが見えて来て、楽しさが増す頃となります。

弾き込むことで現れる楽器のキャラクター

そうした楽器の性格を知るためには、長期に渡ってよく弾き込む必要があることは言うまでもありません。

ここでせっかちになってしまいますと、悲しいことに、行き先がオークションサイトになってしまう場合がありますので、是非じっくりお付き合いすることをお勧めします。

実際一台一台手掛けていくと、楽器はそんなにすぐにキャラクターを見せてくれるわけではないことがよくわかります。

少なくとも一年を通して弾いて、木の素材が日本の四季に馴染んでいくことをサポートしながら、理想の音を探って行くのが、弾く人の役割になります。この点はハープに限らず、全ての楽器に通じることではないかと思います。

これまでに最も印象深く残っている楽器は、個人輸入したうちの一つで、ケルティックなサウンドが欲しくて手に入れたハープです。

ところが、届いた最初の頃はまるで想像した音がしなくて、これは選択を失敗してしまったのだろうか、と不安を拭えなかった楽器でした。
それでも根気良く丁寧に弾き込んでいくうちに、徐々に音が変わってきて、半年、一年と経過するごとに願った以上の音になっていきました。

素材はメープルでしたが、音の変化と共に白木の色が飴色になって、響きも増していくのがよくわかりました。今思い返しても、それは本当に育て甲斐のある楽器でした。

革製品が使っていくうちに馴染んでいくように、愛着を持って楽器を弾くことによって、音も柔らかくなって、奏者と共に成長してくれるのではないかと思います。

その反面、弾かずに放置してしまうと、本来あるべき姿から外れて、木が反って変形したり、取り返しがつかなくなってしまうので要注意です。

「木」から「楽器」へ

私のブログに以前書いたこと(現在は非公開記事)なのですが、アメリカの、あるハープ製作者の方と話していた時に、新品のハープについて伺った印象的なお話がありました。彼曰く、

「ハープは楽器になる前は単なる『木』だったので、手に入れたらすぐ『あなたはもう木ではなくて立派な楽器なんだ』と教えてあげないといけない。それは奏者の役目であり責任でもあります。」

ハープが楽器になれるか、木のままでいるかは、奏者によって決まる、ということを言っておられるのでした。
まず目覚めさせること、それから成長させる必要があるということでした。

その時以来、私は楽器に対してさらに愛着を持つと共に、襟を正して向かい合うような気持ちになりました。

楽器と自分、互いに良いところを引き出し合う

では具体的にどのように育てて行ったら良いのかと言いますと、もちろん奏法や技術、或いは楽器のポテンシャルの如何はありますが、弾き手のマインドとして、

この楽器の「伸びしろ」を引き出せるのは自分だけ、という気持ちで弾き込んでいくと、それに対するレスポンスを得られるのではないかと思います。

バッハを弾きたくて買ったハープは、元々低音が魅力的でしたが、どんどん深く荘厳な音になって、心にズーンと響くのでした。
今はお譲りしてしまいましたが、新しいオーナーさんご自身から、弾くごとに癒されていると伺っています。

また、近い距離で少人数のコンサートのために買った小型のハープは、最初は高音域が響かなかったのですが、段々とキラキラした音になっていって、いつしかクリスマスには持って来いの楽器になりました。

長く弾いている楽器でも、隠れた長所はまだまだあるかも知れないので、いつも好奇心を持って弾くようにしています。

そして「楽器を育てる」究極的な目的は「その人だけの音」が出せるようになる、ということではないかと思います。

誰が弾いても同じ音がするのではなく、今度はこちら(奏者)の個性を引き出してもらえるように相互で作用し合えたら、もう立派なパートナーになっていることでしょう。そのためには、もっともっと仲良くする必要がありそうです。

ハープに限らずいろいろな楽器を弾いている皆様に、是非相手(楽器)を知ってさらに仲良くできますように、一緒に成長できる良いパートナーとなりますように、楽器とのストーリーを作って頂けたらと思っています。


今演奏のメインは、軽量化を目的にしたカーボンファイバーと木のハイブリッドのハープです。
これも一年間弾き込んだら柔らかい音になって来ました。
(画像: 拙ブログ『Harp by KIKI 』より)

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