たーちゃんと陶芸 2
祖母はマンションの8階で陶芸をしていることを当たり前のように話す。そして私もそれが普通の光景となっていた。
部屋には電動ろくろや焼く前の器が並べられ、棚に乗りきらないほどの器、倉庫には粘土と釉薬がたくさん眠っている。
家のチャイムが鳴ると、重そうな顔をして粘土を持ってきてくれる宅急便屋さんが立っているのは日常茶飯事だ。
「みんながマンションで陶芸やってるのを面白いって言ってくれてるんよ」「そんな大したことやないよ、そんなね」
第2回 マンションで陶芸しよるんよ
骨董品見てたのがきっかけかね
たーちゃんって末っ子だから兄姉の家にちょくちょく行ってたのね。そんで、どの家庭も骨董品が好きなのね。行くといろいろ教えてくれたりとかするじゃない。
誰々さんの作品があーだとかこーだとか。それでよく骨董屋さんに連れてってもらってたのね。そしたら、「これがいいね」とか興味が湧くじゃない、目が肥えてきてね。
でも、これ欲しいなと思ってもすごく高価なものだから眺めるしかできなくて…それで「あ、自分で作ればいいんや」と思って…器が好きだし。それで子育てが終わったあと、「陶芸はじめよ」って思ったの。
始めたのはいいんだけど
まずは陶芸教室行って教えてもらわないと始まらないから、呉市の陶芸教室を見て回って、通い始めたんよね。
行ったんだけど、「あ、あの人の横に座ってください〜」って言われて、座ったら粘土の塊があって、そこに座ったらそれっきりほったらかしなのね。先生は向こうのほうですごい書き物をしてて。
え、どうしたらいいのかしら…って、先生も向こうにおって呼ぶって言ってもね…って。隣の人にこれどうしたらいいですかねって言ったの。そしたら隣の人が、「先生!ちょっと来てから教えたらんね!」って言ってくれたのね。
一番最初はコーヒーカップ作ったのかな。厚みとか全然わかんなくて。適当に作って、乾燥させて。先生は見てもいいとか悪いとか言わなくてね。
見よう見まねで一人で、こんなもんかって。それも楽しかったね。先生も見て学べって感じで。だから本を買ったりとか動画見たりしてね。ずっとやってたらそれなりにできるようになっちゃったから、わからない人に教えちゃったりしてたのね(笑)。
そしたら、なんか面白くなくなっちゃったの。ここにいても教えてもらうこともないし、わざわざ来る必要ないかって。
福岡に引っ越してからも週一で陶芸を続けてた。家族が「陶芸続けてよ〜」って言ってくれて、あっちこっち回って探したよね。それで、陶芸教室やめてから窯を買ってもらって、今でも続けてるの。
若いと元気が出るよね
若い人と一緒に居ることが多くて、40代とか50代くらいの友達が沢山おるんよね。あんまり年いってる人とおるの好きじゃないんよ。
なんかね、人のグチ聞くの嫌いやけん。言っても仕方ないやんね。やけん若い子の方が話もそんな深刻な話しないで済むやない?
若い子たちと接すると元気が出るもんね。
人ができることはできんことなかろうよ
陶芸を始めた頃は骨董品のようなデザインも好きだったんやけど、時代によって使う人のニーズって変わってくるし、年代によっても変わってくるじゃない?
だから自分はこういうものがいいって言って、自分の信念だけで作ってくんじゃなくて挑戦せんと進歩せんやん? なんにしても。
だからこういうの作るとどうかなって、いろんなことを自分なりに挑戦してるし、そっちの方が楽しいのよ。失敗も多いけどね。
それで人からね、「こんなの作って」って言われたりするのよね。そんなもん作るのか!?って思ったりするけど、人ができるものはできんことなかろうよって思ったりするから(笑)。
いろんな人に受け入れられるようにいろんなパターンを作って、それでダメなら修正すればいいしって思って。
陶芸って土をこねるじゃない? それって子供の時の土遊びに似てて、あれって気持ちいいよね。そういう感覚。だから陶芸って土をこねるのが心休まるというか心が穏やかになるよね。
ベランダに窯があるんやけど
窯がマンションにあるのが異様みたいなんやけど、一軒家じゃないからしょうがなくて。この窯も有田焼の窯を作る人にお願いして作ってもらったのね。だからこれ既製品じゃないのよ。マンションに入るようにね。
だからわからない時はそこに電話して教えてもらったり、修理は有田焼から来てもらってるのよ。まだ大きいのが欲しかったんやけどマンションでするにはこれが最大サイズやったんよ。
今だから勉強したいことが沢山あるんよ
そんでさ、大学に行っておけばよかったなぁって思って。昔、東京の大学に行くって話あったんだけど… 大学に興味がなかったのと、あまり勉強好きじゃなかったんかね(笑)。
でも今は、勉強したいって思う。
日本語とかすごく追求したいこともあるし、海外のことも、世界の歴史も知りたいし、陶芸も基本から習えばより一層上手くなるかなって思うけど…まあそこまでしなくても好きなの作れるからいいんじゃないって感じかな(笑)。
うちの兄妹ってすごく勉学が強いし、みんな頭が良かったからね。たーちゃんが1番末っ子だから、なんとなく勉強はまあいっかって感覚で。でも今になって色々学びたいのはあるね。いろんなことを知るってことはすごく大切だもんね。人間を成長させてくれるもんね。
自分の生まれた日本を知ることってすごく大切だし、知ることによってなんかすごく気持ちが豊かになると思う。
高校生の時ははこなすだけで学校の教科書見て、はいはいって感じでね。みんなそんなもんだけどね。そんで、みんなこの歳になってまた勉強したいって思う人も多いんじゃないかな。
大学行ってみたいけどね、最近はもう忙しいのよ。夜になったら疲れて寝てます。
最近では器を売ったりしてるからね。やっぱり買ってくれるひとがいるって嬉しいね。
またぼちぼち頑張りますわ。
(おしまい)
ありがとうございます。 列島ききがきノートの取材エリアは北海道から沖縄まで。聞きたい、伝えたい、残したいコトバはたくさんあります。各地での取材にかかる交通費、宿泊費などに使わせて頂きます。そして、またその足跡をnoteで書いていければ。