FILE.03 モンスターライアー「24365」♂
これはフィクションです。
私が20年のビジネスライフの中で出会ったモンスターな人々を書き残していく。
言うまでもなく、これはフィクションだ。
そういうことにしておいてほしい。
3個体目の妖怪はモンスターライアー「24365」♂。
私が24365と出会ったのは、今から8年前。
24365は、290,000歳(下界年齢29歳)だった。
私は大手代理店から、ITベンチャーの役員として転職した。
そこの社長から入社時にこう言われた。
「君と同レベルの優秀な人間がいるから期待していい」
入社してすぐ、私は社内を探した。
優秀な人材とやらを見つけるべく。
しかし、いない。
社内は鬱病患者しかいないのかというほど、下を向いて暗い表情でキーボードをパチパチする人間しかいない。
たまに響くのは社長の怒声。
”ブラック・・・”
そうとしか思えなかった。
このオフィスのどこに優秀な社員がいるというのか・・・。
ある日、社長よりも年齢が上の社員が何かをやらかしたらしく、
オフィスにいつにも増して怒声が響く。
いつもと違うのは怒声に混じって、その社員を嘲笑するコメントがちょいちょい挟まれることだった。
「●●さんにはどうせできないレベルですよw」
「言ってもどうせできないので、私がやっておきますw」
"ひょっとして、こいつか!?"
ビンゴだった。
社長曰く優秀な社員というのが、この嫌味満開の24365だった。
24365は、ほとんどオフィスに姿を現さなかった。
営業職であるから当然らしい。
直行して昼過ぎにちょっと顔を出してすぐに出かけてノーリターン。
もしくは夢の直行直帰。
ほぼ毎日これだった。
全体会議などで、社長は社員全員を前にして言い放った。
「24365は毎日会社にも顔出せないほど頑張ってるんだよ!お前らあいつの爪の垢でも煎じて飲め!」
調子づいた24365は会議の場で言った。
「私はみなさんと違って、24時間365日働いてますからねw」
”阿呆だ・・・”
そう感じたが、何分私には関係のないセクションの話、放置しておいた。
それから2年が過ぎた。
社長の24365愛は増すばかり。
社員の24365嫌いも増すばかり。
24365の直行直帰やパワハラも増すばかり。
いい加減社員からの相談が私に集中してきたので、
少し調査することにした。
しかし如何せん社長の24365愛はそりゃ半端ない。
中途半端な調査で事を荒立てればこっちの身が危ない。
より確実にぐうの音も出ないほどの確証を持ちたかった。
まず24365の成績を調べた。
驚愕だった・・・。
こいつより数字を上げていない営業は見たことがなかった。
この2年間で24365が獲得した新規売上は、
なんと200万!!!1年あたり100万!!!!
入社後に人から引き継いだ売上を含めても1,200万!!!1年あたり600万!!!
24365の部下の売上予算は一人8,000万だった。
なのに24365は入社2年で部長になっていた。
そりゃ皆怒るよねw
24365の主張としては、
”部下の数字を作ってるので、自分の数字は必要ないんですよw”
だった。
が、24365の売上予算は年間1億だった。
対予算費6%・・・。
しかし、なぜか下半期になると、会社全体の売上数字だけが表示され24365がいくら稼いでいたのかは一般社員には見えなくなっていた。
早速部下たちにヒアリングしてみる。
「いや、同行なんてしてもらったことないです」
「引き合いがあって割り振られても、顧客が有名企業だと無理やり担当持っていかれます」
「売上決めた案件がなぜか24365担当に変わってました」
まじか!部下の顧客や数字を奪っても600万ってw
ちなみに24365の年収は600万以上。
大赤字の人材いや人災だった。
次に勤務状況についてヒアリングしてみる。
”彼は24時間365日働いていると言っているし、実際ほとんどオフィスに顔を出せないようだけど・・・?”
「あの人が直行しているはずの顧客から、その時間に何度も電話が掛かってきて、いつも何て伝えるべきか困ってます」
「外注先と16時とかから飲みに行ってます」
「スケジュールの行き先、ほとんど嘘ですよ」
え・・・。
そんなにハートがストロングなヤツ、いる??
数字も上げずに、サボりまくって、平然と24時間365時間働いてるって言えるようなブレイブ・ハート、ほんとにいる???
と、言うことでリアルなところを生体調査することになった。
調査手法は至って簡単。
毎朝、24365の自宅前で張り込むだけだ。
営業社員が交代で有休を取って、私(役員なので有休とか関係ない)と二人で張り込むことになった。
てか有休を消化するほど、部下たちは怒っているのか・・・。
しかし、この段階で私はまだ信じていなかった。
そりゃたまにはサボるヤツが沢山いることは分かってる。
2年以上に渡って毎日サボるヤツなんて、見たことないし、そんなわけ無いじゃん!
と思っていた。
初日の張り込み。
季節は冬だった。
吐く息は白く、缶コーヒーも数分でアイスコーヒーに変わる朝だった。
出社時間は9:30。
この日の24365の予定は、10:00に某役所に直行となっていた。
その役所は24365の自宅からは60分あれば着く。
念の為8:30からの張り込みだ。
ちなみにこの某役所とは現在、売上5,000万の案件を商談しておりほぼ決まるという話になっていた。
何も無いままに9:00になった。
さすがに出なければ間に合わない。
それでも動きはない。
そしてアポイントの10:00になった。
私は言った。
「いや、さすがにこの時間に動きがないって、もっと早くに出てるんですって」
部下は確証があるかのように言った。
「お昼頃まで待ってください!絶対に家にいますから!」
”いや、だからそんなヤツいないって!!”
と思っていた。
が、出てきたw
24365がマンションの玄関から出てきたw
時計を見る。
12:20www
嘘やん!そんなの嘘やん!!
「だから言ったでしょ!尾行しますよ!」
苦笑いを浮かべながら私は24365を尾行した。
マンションを出て数分歩き、24365は会社とは別方向に向きを変えた。
”まぁ多少はサボっても、今から外注先とでも打ち合わせかな”
などと甘いことを考えた私。
24365はそんな希望すらもフルスイングで叩き壊した。
はな●うどんに入店!!!!
ちょ・・・。直行と言ってサボって、出社前にまずうどん食べるの??
こいつぁ、とんでもないやつを見つけた、と思った。
はな●うどんにて20分ほど掛けて昼食を摂った24365。
やっとオフィスに着いたのは、13時をとうに過ぎていた。
オフィスに顔を出した24365に社長が嬉しそうに声を掛ける。
「今日の打ち合わせはどうたったの?」
「いやぁ2時間も話をして、いい感じでしたよ。●●の部分を詰めれば、もう確実に取れますね!」
「流石だね!24365君。なのに他の社員は話にならないな!なぁ、●●君(筆者)!」
見ていて可哀想になるほど盲目な社長。
そして立板に水の流れるがごとく嘘が出てくる24365。
私は笑いを堪えるのに必死だった。
24365はタイムスケジュールも完璧に捏造している。
10時から2時間打ち合わせをして、12時に先方を出れば、丁度今の時間帯にオフィスに着くのだ。
しかし、さらに凄いのがここからだった。
社長曰く。
「24365君!昼食行こう!」
!!!!!
まじか、社長!それは今言っちゃ駄目なやつだ!
24365はほんの20分前にはなま●うどんで、大盛りのうどんに天ぷらまでトッピングしてペロッと平らげたところだ。
そいつは酷ってもんだ!
私の腹筋が崩壊してしまう!
「行きましょうか・・・」
と言って社長に連行される24365。
BGMはドナドナ。
私も誘われたが、こんなところで絶対笑ってはいけない選手権をやる気はなかったので、固辞させていただいた。
その後、中途半端な証拠では足りないので、翌日以降も張り込んだ。
合計4日間の張り込みの成果がこれだ。
●2日目 朝9:00より新宿の企業への直行予定
11時過ぎにマンションを出る。
ファミリーマートに寄ってジャンプを40分掛けて丹念に立ち読み。
12時過ぎに出社。
●3日目 朝9:00より品川の企業へ直行予定
15時過ぎにマンションを出る。
そのまま地下鉄に乗る。
裏を取ったところ、外注先の部長と16時過ぎから翌朝まで飲み会。
●4日目 朝9:00より近隣県の役所へ直行直帰
昼間で張り込むが動きなく。
そりゃそうだ。朝まで飲んでたんだもの。
外注先の部長もその日は出社せず。
私はもう十分(飽きただけ)と途中でオフィスに戻るも、
執念深い部下がそのまま張り込んだところ、
18時過ぎに飲みに言ったそうな・・・。
4日間の張り込みで、写真も揃った。
行動記録もすべて取った。
あとはこれをどう使うか・・・。
ここで悩んだ。
さすがにこの状況は、懲戒レベル。
社長の性格を考えれば懲戒解雇まっしぐら。
単にサボっているなら懲戒や訓戒で済むだろう。
しかし24365の規定違反は多すぎる。
嘘の商談報告、嘘の売上報告、嘘の勤務状況等々・・・。
普通に懲戒解雇できる案件。
さすがにちょっと可哀想になった。
もう一人の役員と相談し、まずは本人の反省と行動を改めることを期待し、直接注意することにした。
社長にはまだ報告しないと決めた。
早速会議室に24365を呼び出した。
社長以外の役員など、屁とも思っていない24365は会議室に入るなり言い放った。
「この後すぐに商談あるんで、忙しいんですけど!」
”お前、その商談はすでに嘘って、顧客にも確認取ってるからw”
私の腹筋はすでに限界が近かった。
ここからは会話のみでお送りする。
私「まぁ、座って」
妖怪「何のようですか?」(ヤヤキレ)
私「君いつも24時間365時間働いているって言って、直行したり直帰したりが異常に多いけど、この件についてなにか言うことないの?」
一瞬でテンションが下がる妖怪「何のことですか?」
私「いや、会社になにか言うべきことがないの?」
勘違いする妖怪「業務を私に集中させ過ぎですよ。他の営業なんて数字も上げないし、働く意識が低すぎますね!」
私「他には?」(ピク着く腹筋)
調子づく妖怪「私に関して言えば、フレックスとかにしてくれないと!オフィスにいちいち出るなんて非効率ですね!」
いや、これ。こいつ、本当にココロの芯から腐ってるヤツやん!
もうまともに話すのも億劫になった私。
私「君、どこまで嘘吐くの?今週の月曜の朝、どこ行ってたの?」
怪訝そうな妖怪「あの大型プロジェクト提案の大詰めで役所行ってましたよ!」
私「行ってないよね!?」
少し青ざめる妖怪「行ってましたよ!」
私「嘘ばっかり吐くから昼ごはんを二回も食べる羽目になるんだよ。うどんの後に食わされたラーメンはキツかったでしょw」(オラつく腹筋)
蒼白になる妖怪「何言ってるんですか?」
ここでキレたもう1人の役員。
役員「何の証拠もなしに社長の太鼓持ちのお前を詰めるわけなかろうもん!!」
しゅんとなる妖怪「・・・」
※私はこの時、初めて●●もん!という言葉を聞いた。
私「まずは自分の言葉できっちり認めなさい」
妖怪「すみません。あの日は前日朝まで接待だったのでしんどくてアポイント飛ばしました」
私「前日日曜だよね。接待の訳ないよね」
妖怪「本当です!」
私「で、次の日は?」
なぜか勢いづく妖怪「ちゃんと9時からアポイント行きました!」
キレる役員「嘘ついて読んだジャンプは面白かったか!?」
黙る妖怪。再構築しかけていた私の腹筋はついに決壊。
私「君に関してはこの2年間の売上は1,200万しか上げてない。なのに毎月の報告では、ウンゼン万の案件がほぼ確定などの嘘の報告を繰り返したり、虚偽のスケジュールを組んでサボっていたり、就業規則違反が多すぎる。今すぐに社長に報告してもいいが、まずは自分で反省し、行動を正してください。以降、部下に対して24時間365日働いている等の嘘をついて恫喝したり小馬鹿にするのをやめなさい。みんな君より稼いでます」
ふてくされる妖怪「分かりました・・・」
というやり取りをおよそ30分だけした。
24365が生まれ変わることを信じて。
結果、少しだけ24365は変わりました。
直行をしなくなりました。
しかし、直帰のオンパレになりましたw
私ともう1人の役員はプレイヤーでもあるため、とても忙しく午後に会社にいることはほとんどありません。
なので24365は朝だけ出社し、役員二人が外出するとスケジュールに何も入れずに”●●に打ち合わせ行ってきます”と行ったっきり、直帰する毎日をしていたそうです。
そんな生活を1年続けた後、私と役員は事実を社長に伝えました。
この1年間で24365が稼いだ売上は250万でした。
なのに社長は言いました。
「あいつは確かに太鼓持ちだが、社長には太鼓持ちが必要なんだよ!あいつのことはお前らには関係ないだろう!」
ということで、放置しました。
だって、私ももう1人の役員も、社長の太鼓持ちなんてやる暇ないですからw
その後私はその会社を退任しました。
24365のその後については、もう1人の役員から酒の席で教えてもらいました。
私の退職後、私を批判したり小馬鹿にする発言を繰り返し、24時間365日で働いているとまた主張しだす。
社長に接待費の権限を寄越せとゴロにゃんし、月に30万以上を飲み食いするようになる。
売上はほぼゼロになる。
社員にパワハラを繰り返し、それが原因で辞める社員が出だす。
会社が赤字を繰り返しにっちもさっちも行かなくなる。
ここで社長が掌を返し、24365に退職勧告をする。
やれ不当解雇だと大騒ぎし、転職が決まるまでの三ヶ月間、無労働で給与をゲット。
無事にリモートワークサービスを推進する会社に転職。(天職とか言ってた模様)
リモートワークの会社で、糸の切れたタコのように直行直帰を繰り返した挙げ句、売上ほぼゼロで約半年で解雇される。
その後の消息は不明。
一度だけ、24365のSNSを見かけたことがある。
リモートワークの会社に平社員で入社する時だ。
SNSにはこう書いてあった。
「今までの会社で24時間365日体制で働いてきて、今の日本にはリモートワークが絶対必要と考え、この会社と一緒にやることになりました!」
なぜ人はSNSで嘘を吐くのか・・・。
この話の教訓は下記だ。
転職をすることを”一緒にやる”とか言うようなプライドバカは雇用しないほうがいい。
24365ももう40代が近い。
ビジネスで最も成熟させるべき30代を嘘とサボりで塗りつぶした彼は、
老害よりも有害だろう。
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