Series コンペの勝ち方 Prologue:残念なコンペ参加者
こんにちは。
突然ですが、私は今までに700回以上の競合コンペに参加してきました。
生涯勝率は75%を超えます。
私は元々コピーライターですから、参加するコンペはグラフィックデザインやWeb制作などの提案コンペです。
大きなものだと1億円程度、小さなものだと100万円程度のコンペに参加してきました。
今では、コンペ勝率を上げたい会社などのコンサルや講演などをしています。
これから、「どうやってコンペに勝てばいいのか?」をシリーズで掲載していこうと思います。
まずはプロローグとして、つい最近あった事を書きます。
弊社は、この年末に事務所を移転します。
そのため、新事務所の内装デザインについて、3社を集めてコンペを開くことになりました。
つい先日、そのうちの1社の提案を受けて感じたことを書きます。
コンペの概要、つまりはオリエンシート的なものは抜粋すると下記です。
1:新事務所のオープンスペースのデザイン案と見積もりを依頼
2:予算は600万円(何と何を含める、何と何は含めない)
3:必要要素の提示(こういう風に考えているとサムネールを提示)
通常のコンペと異なり、かなり細かく要望を出していました。
で、A社の提案を先日受けました。
A社の営業担当と、その上司の2名で提案に来られました。
開口一番担当者が言います。
「ご要望に添えるかどうかはわかりませんが、かなり気合を入れて提案を作ってきました」
提示されたオープンスペースの3Dパースを提示します。
私「・・・」
細かく見る必要がありません。
なぜなら、3の要素を外しまくっているからです。
例えば、カウンターデスクを入れたいという要望を出していたのに、それがありません。
人工芝を敷いて社員がリラックスできるスペースをという要望も、反映されていません。
私「・・・」
沈黙する私を見て、営業担当はまずいと思ったのでしょう、補足を加えます。
営業担当「かなり細くご要望を伺っていたのですが、うちのデザイナーもかなり気合を入れていて、ちょっと暴走してしまった感じです」
何のフォローにもなっていません。
参考までにのつもりで私は尋ねます。
私「で、お見積りは幾らですか?」
営業担当者「はい。かなり気合を入れて作る予定ですので、こちらになります」
見積額は1,000万円でした。
その瞬間、私は思いました。
”時間を無駄にしたなぁ・・・”
この会社をAとしましょう。その他2社合わせて合計3社に、それぞれ2回に渡って要件を伝えるオリエンや質疑応答を実施しました。
Aに対してここまで掛けた時間は2時間以上です。
3社を合わせれば6時間以上をこのコンペに掛けました。
そして、Aにもこう伝えました。
”予算は600万円が上限です”と。
暫しの沈黙のあと、私はAの営業担当に伝えました。
私「この予算では実現は不可能ですので、ここまでにしましょうか」
すると慌てて営業担当の上司が口を開きました。
上司「ご予算は伺ってますので、この提案からできることできないことを取捨選択していくことで、こちらの予算になります」
そう言ってもう一枚の見積書を提示します。
750万円。
私「何度もお伝えしていますが、600万円が上限です。これでは実現不可能ですので、もう結構です」
おそらく私も少し苛立っていたでしょう。
上司「わかりました。社に戻ってもう一度案を練り直してきます!」
私「そうですか、とにかく予算は600万円以上は出ません。あとこちらの要望が反映されていない場合、その案を選択することもありません」
上司「わかりました!次はもっといい案をご提示させていただきます!」
こういって、営業担当と上司は帰っていきました。
世の中で行われているコンペの大半はこんなものでしょう。
Aという会社の提案が、このコンペに勝利することはないと断言できます。
正しくは、Aという会社が私の心を打つ提案をすることはない、です。
何が問題だったのでしょうか?
多すぎて指摘するのも面倒くさいくらいです。
まず予算。
●だいたいいくら位、という提示ではなく、600万円以内と明言しました。
●同程度の評価の案が出た場合、より予算が低い方を選ぶ、とも明言しました。
この条件をいとも容易く無視してきたA。
おそらく、予算1,000万円を提示した場合、1,300万前後の提案をしてくるのでしょう。
”相手の予算提示”よりも”自社の売上を上げる”ことを優先する営業が主導を握る会社にありがちなスタンスです。
私は600万円を超える予算はない、と明言しました。
これもひとつの要件です。
この要件を無視してきたわけですから、この段階でコンペの敗北は決定です。
例えば、予算は大体600万ですと提示した場合、もしかすると実は予算上限800万円かもしれません。
Aの問題は相手が提示した予算を「正確に把握し、守る」ことを怠ったことです。
仮に大体600万円の予算を提示された場合、上限がいくらかを確認することは重要です。
それすらも怠り、というか明言しているにも関わらず、より多くの売上を欲したAという会社を、信用できるはずがありません。
次に要件。
●オリエンの時、サムネールまで描いてどこに何が必要でと提示した。
●色合い等についても、方向性を提示した。
これら提示の約半分を取り入れることなくデザインを作成してきたA。
デザインによほど自信があったのでしょうか?
普通に考えて、コンペ時に顧客がぐうの音もでないほど素晴らしいアイデアを提示できることはほとんど有りえません。
何を持って自信満々に要望を無視してきたのか、甚だ疑問です。
もちろん、提案されたデザインは”普通レベル”でした。
少なくとも予算と要件、この2点を大きく踏み外したAは、このコンペに勝利することはないでしょう。
最悪でも、先日の提案の最後に、泣きのワンチャンスを頼み込んだのであれば、その場で疑問点を完全になるまでこちらに確認するべきでした。
しかし、提案に来たのは営業担当とその上司の二人です。
何を聞けばよいのかもわからないのでしょう。
おそらく自社に戻ってから、プランナーやデザイナーにこう指示を出すのでしょう。
「予算は600万円がマスト!できるだけ600万に近づけるように。でも越えないように!」
「向こうの要望はすべて反映するように!そのままでもいいくらい!」
これでコンペにアイデアを出さなければならないプランナーやデザイナーは悲惨です。
ほとんどの会社が、Aほどではないにしろ、似たような状況でコンペに参加し、敗北します。
こうした場合、ほとんどの会社はコンペに負けた理由をこう言って相談してきます。
「うちの会社は提案力がないんですよ」
こうした会社は実際に出向いて分析してみると、提案力がないのではない。
「情報収集力」の欠如。
そして情報に対する「対応力」の欠如。
この2点でコンペに負けるのだ。
これは半分以上が営業の責任だと言える。
どうしてコンペに勝てないのかを考えることは、
そのままどうやったらコンペに勝つのかを考えることだ。
次回から、順を追って「コンペの勝ち方」を解説していきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?