FILE.02 絶倫妖怪「オレハマッスグ」♂
これはフィクションです。
私が20年のビジネスライフの中で出会ったモンスターな人々を書き残していく。
言うまでもなく、これはフィクションだ。
そういうことにしておいてほしい。
オレハマッスグに出会った時、私は28歳、ヤツは310,000歳(下界年齢31歳)だった。
会社の先輩である。
オレハマッスグは、部長と仲が悪かった。
理由は単純である。
両者ともに自称”モテキャラ”だったからだ。
オレハマッスグは既婚者だった。
同い年の嫁さんがいた。
もちろん部長にもいた。
ちなみに部長は38歳だ。
なのに、なぜ・・・。
部長やオレハマッスグ達は、合コンを頻繁に開催し、ボーナスが出れば風俗に団体で通った。
そしてお互いのアリバイづくりを協力しあっていた。
会社の飲み会になると、こいつらの口癖はいつも、
「この中で付き合うなら誰がいい?」
で、自分が選ばれないとわかりやすく拗ねていた。
オレハマッスグはいつも影で部長の文句を言っていた。
私も同調を求められ、面倒くさいので同調していた。
オレハマッスグは愚痴を垂れ流しながら、口癖のようにこう言った。
「オレハマッスグな人間やから、ああいうヤツは許されへんねん」
私は思った。
”こいつ、まっすぐの意味をしらない・・・”
後に判明したことだが、、オレハマッスグの記憶ではこうした会は、すべて私の悩み相談を受けていたことになっていたようだ。
3年の歳月が流れた。
ある年末、私のチームで人手が必要となり、派遣社員を2名雇うことになった。
どこの企業もかきこみ時で、人選するどころではなく、紹介された二名をそのまま採用した。
1人は25歳の男性。超がつくお調子者だ。
もう1人は女性。超がつく巨乳。
しかしブサイクだった。
後に判明するのだが、高校卒業後に地元でキャバクラ勤めをしており、男=貢がせるという方程式が完成しているブサイクだった。
巨乳が入社した後も、日々に大きな変化はなかった。
巨乳ネタで多少盛り上がることはあっても、男性陣の中で巨乳は地雷物件として認識されており、超がつくお調子者だけが冗談めかして口説いては焼き肉やらを奢らされていた。
ある時、大きな案件が納品され、その打ち上げを外注業者と開催した。
巨乳が入社して1年が過ぎたクリスマス・イブの前日だった。
その日、巨乳は真っ白なロングゴートで出社した。
明らかに普段の巨乳ではセレクトしないファッションだった。
某バー●リーというブランドのものだ。
巨乳は長年男に貢がせてきただけあって、最低でもル●・ヴィトンや●ルガリクラスからがブランドと認識していた。
その巨乳がバー●リー・・・。
しかも英国本国のものではなく、三陽●会の●ーバリー・・・。
怪しすぎた。
”男からの貢物か・・・”
そこにいた誰もが思った。
その白いコートに外注先の社長が誤ってテキーラをこぼす事件があった。
巨乳はブチ切れた。
「人からもらった大事な物なのに!!!クリーニング代を払え!!!」
この話は面白くないので割愛する。
こんな事件もあったが、日々は平和だった。
しかし、異変は気づかないところで起きていた。
私のチームは皆仲がよく、週末に釣りやスキー、BBQなどをよくやった。
しかし、そうした情報が社内にいつも漏れていた。
ある時、私に恋人ができた。
同僚だ。そしてその恋人は巨乳とも仲良くなった。
社内恋愛ということもあり、私も恋人も交際を伏せていた。
しかし、交際2週間後には漏れていた。
私は、恋人がうっかり口を滑らせたのだろうと思っていた。
さらに時は流れ、GWが来た。
私達は1泊2日の釣り旅行を企画し、みんなで出かけることになった。
その時、異変が起きた。
いつもこうしたイベントには一切参加しないオレハマッスグが参加すると言い出した。
そして巨乳が私に言ってきた。
「朝用事があるので、昼過ぎからオレハマッスグさんの車で合流します」
カンのイイヤツはここで気づいたはずだ。
しかし、私は絶望的に鈍感だったし、他のメンバーも巨乳には全く無関心だった。
昼から合流したオレハマッスグと巨乳は、夕方16時に帰っていった。
「ちょっと夜用事があって泊まられへんわ」
とオレハマッスグ。
「私も夜用事があって、オレハマッスグさんの車で送ってもらいます」
と巨乳。
その時、新入社員の女の子が言った。
「私も夜用事があるので乗せていってください!」
オレハマッスグは言った。
「無理やな!」
楽しい釣り旅行だった。
その年のクリスマス前に、私の恋人が言った。
「巨乳ちゃんに、恋人じゃないんだけど大事な人がいて、クリスマスに指輪を買ってくれるらしく、その下見に行ってくる」
巨乳はずっと彼氏がいないということになっていた。
しかしクリスマス明け、巨乳が新しい指輪をして出勤してくることはなかった。
ここまでが表で起きていたことだ。
実はこのクリスマスの3ヶ月前に事件は起きていた。
私の部下の男性社員が飲み会の後、終電の地下鉄に乗っていたところ、
巨乳を見かけたそうだ。
声を掛けようと歩を進めたところで衝撃の光景を目撃した。
背の低いおっさんが巨乳の腰を抱きながらいちゃついていたのだ。
この背の低いおっさんこそオレハマッスグだった。
男性社員は、その場を離れようとしたが巨乳と目があってしまった。
軽く会釈をして、次の駅で慌てて降りたそうだ。
翌日、男性社員はオレハマッスグに会議室に呼び出された。
「実は巨乳が入社したすぐから付き合ってるねん」
なぜか自慢げに言うオレハマッスグ。
”いや、あんた不倫ですやん!”
と男性社員は思った。
「この件を黙っておけば、お前にはいい立場を用意するから」
「絶対にあいつ(筆者)にばれんようにしろや」
という交渉をしてきたそうだ。
当時、私は出世競争でオレハマッスグと争っていたらしく、とにかく私のアラを探しては本部長に報告していた。
その自分が不倫スキャンダルが私にバレれば終わりだと思ったのだろう。
部下の男性社員は、この交渉を飲んだ。
立場を約束されたのが大きかったらしい。
私は成果主義の上役で、どんなに仲が良くても成果がでなければ査定は低かった・・・。
こうした裏交渉があり、部下の男性社員はスパイ兼巨乳の運転手兼アリバイづくり担当というマルチタスクをこなすにいたった。
当時、男性社員と巨乳は、土日に頻繁に取材が入る仕事を担当していた。
男性社員は朝巨乳を家まで迎えに行き、仕事が終わるとオレハマッスグが待つ場所まで巨乳を送り届けた。
会社は自家用車の利用は禁止なので、当然ガソリン代や交通費は自腹だ。
自分の出世のためによく頑張ったと思う。
そんな日々がさらに1年続いた。
私のチームの情報は見事に筒抜けになり、私の発言もすべて本部長にまで報告されていた。
そんな中でも、私は巨乳にもオレハマッスグにも全く興味がなかった。
気づくことすらなかった。
「ウチのチームの情報、ちょっと筒抜けすぎじゃない??」
などと男性社員に言ったりした。
すでにこの頃、私を部署から追い出す計画は着々と進行し、内々定まで出ていたようだ。
そんな私を見ていて罪の意識に苛まされた男性社員は、私と仲の良い別の部下に告白してしまった。
「オレハマッスグと巨乳は前から付き合っている・・・」
この情報を私が初めて耳にした時、すべての謎が解かれた。
●恋人との交際がすぐにバレた→恋人が仲の良い巨乳に言い、巨乳からオレハマッスグへ。
●釣り旅行→不倫なのでなかなか宿泊できない二人が会社行事にフル参加の名目で宿泊デートできる!でも実際に数時間だけ出席して事実を残す。
●白いロングコート→オレハマッスグは前職で三陽●会におり、退職後もバー●リーを安く買えると自慢していた。つまりは貢物。
●クリスマスの指輪の下見→恋人は不倫の事実を知らず、単に巨乳を親友だと思っており、私の発言等はすべてダダ漏れ。巨乳は指輪を実際に買ってもらっていたが、すでに男性社員にもバレた後で、厳戒態勢を敷いており、社内では身につけないルールになっていた。
細かく書き出せばキリがないほど、あれもこれもそういうことね!
とチームのみんなで納得した。
思えばオレハマッスグが巨乳と付き合いだしてから、オレハマッスグがこんな行動を取るようになった。
「お前の相談を週末の晩にでも聞いてやるわ」
「いえ、週末は家で過ごすので大丈夫ですw」
「いや、俺は週末よくドライブすんねん。やからついでにお前の家よるわ」
「はぁ、じゃもし時間が合えば・・・」
こんなやり取りはしたが、実際に来たことはなかった。
一度だけ土曜の22時過ぎに電話が掛かってきたことがある。
「今お前の家の近所やねんけど、出てこんか?」
「今忙しいのでw」
これ、アリバイ作りだったのかよ・・・。
オレハマッスグ、巨乳、私の家はお互いの距離が3km圏内のご近所さんだった。
いや、もともと巨乳は全然別の街に住んでいたのだが、不倫を初めてすぐにオレハマッスグの家の近所に引っ越したのだ。
オレハマッスグの妻は30半ばになって不妊に悩み、一生懸命治療していたと聞く。
この妖怪はそんな嫁にこう言って土曜日曜と巨乳の元に行っていた。
「あいつ(筆者)がまた部長と揉めてて、その悩みを聞きに行ってくるわ」
そんなお前のどこがマッスグやねん!と、突っ込みたかった。
不倫の事実が判明した時、私はコール&レスポンスの素早さで行動を開始した。
しかしまぁ、不倫は文化みたいな会社だったため、思うような効果は得られなかった。
まぁ、オレハマッスグの政治活動も自分の首を締めたのだが・・・。
●支社長、本部長に不倫の事実を報告し、このような相手の言い分だけを聞いて私を異動させるのかと問い詰める。
→「不倫はまぁプライベートなことだから関係ない」(いや社内不倫やん!てか、君たち二人共社内に愛人いるし、部下をホテルの部屋に連れ込もうとしたりしたもんねw)
→「お前の異動は社長の許可も出てる」(それも知ってるw でも、オレハマッスグは左遷を画策したけど、社長の鶴の一声で営業部の責任者として栄転だよねw まぁ、一旦異動するけどすぐ辞表すよw)
●巨乳の派遣契約を破棄する。
→オレハマッスグ一派からおかしい!と詰められるも、元々派遣切りを進めていたのになぜか巨乳だけ契約継続はオカシイでしょと言えば皆だまり、巨乳は翌月で契約終了に。
→しかし、私の移動後すぐに巨乳を再度派遣で雇おうと動くオレハマッスグ。しかし派遣会社の部長判断で巨乳は派遣会社自体を契約終了。
私は本社営業部に栄転後、1ヶ月で辞表を提出した。
社長や役員からは
「1年でさらに出世させる。オレハマッスグの処分はその時にすればいい」
と引き止められるも心動じず、最終出社日を迎えた。
実際、私が辞表を出すまでのオレハマッスグは生きた心地がしなかったらしい。
私の最終出社日になぜか全体会議があり、オレハマッスグは東京にいた。
私は会議にも出席しないので、すべての片付けを終え、社長に挨拶をして席に戻るとオレハマッスグがいた。
「これが人生最後やから話したるわ!」
勝ち誇った顔で私を会議室に拉致するオレハマッスグ。
会議室に入るなり、こう怒鳴りつけた。
「お前はマッスグな俺を裏切ったんやぞ!!」
「お前の悩みをいつも聞いてやったのに!!」
オレハマッスグの論理は人智を超越していた。
がなりたてる妖怪に私はこれだけ言って部屋を出た。
「奥さんをお大事に。もし子供が生まれたらきちんと精算しなさいね」
オレハマッスグはブサイクでもイケメンでもない自称イケメンの顔を憤怒モードにして真っ赤になった。
部屋を出かかった時に思い出した。
「あ、私が居なくなってよかったね、出世できるかも。でも出世するためには東京に異動しなきゃいけないんだけど、東京の社員もみんな不倫の事実知ってるよ」
オレハマッスグは椅子を蹴り上げていた。
これが私がこの妖怪を見た最後だ。
風のうわさによるとそれから二年後に、まさかの奥さんがご懐妊で不倫は精算したらしい。
奥さんは私のことを、旦那を裏切ったどうしようもない人間と思っているらしいが、裏切られたのはあなただよって、いつか機会があれば伝えたい。
その後オレハマッスグは、東京に異動した。
もちろん部下たちは誰も懐かなかった。
「オレハマッスグやから・・・」
と遠い目で語って見せても、巨乳以外は落ちることはなかったのだ。
わずか2年で東京生活を終え浪速の国に強制送還されたオレハマッスグ。
このまま地方の部長として埋もれていくのだろう。
人間は、悪いことをしてもそんなにバツを受けるわけではないということを教えてくれた妖怪だった。
周囲には嫌われたし、馬鹿にされているが、社会的には立場も年収もそこそこあるオレハマッスグは、それなりに幸せなのかもしれない。
不倫相手の巨乳がなかなかのブサイで性格も悪かったので、同情しているだけかもしれないが・・・。
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