FILE1. 妖怪「ナンデワタシダケ」♀
これはフィクションです。
私が20年のビジネスライフの中で出会ったモンスターな人々を書き残していく。
言うまでもなく、これはフィクションだ。
そういうことにしておいてほしい。
記念すべき1つめの個体は妖怪「ナンデワタシダケ」♀だ。
この個体と出会ったのは今から14年前。
ナンデワタシダケが250,000歳(下界の25歳相当?)の時だ。
ナンデワタシダケは下界で大学に通い、大手生命保険に就職したらしい。
堅実な妖怪だった。
が、営業ノルマに嫌気が差し、速攻で退職したらしい。
14年前なのに現代っ子を彷彿とさせるフットワークの軽さがウリの妖怪だ。
その後、ナンデワタシダケは後に私が入社する会社に転職した。
私が入社する半年ほど前のことだ。
その部署には事務係のおばさま以外に女子がおらず、
入社してすぐにアイドル化したらしい。
男性社会に若い女性が入ると、よほどデザインに問題が無い限りアイドルになれるという典型で、正直美人などとは言えないと私は思った。
ナンデワタシダケは、入社すぐに天狗になった。
普通なら天狗化=嫌われるだろうが、女子ひとりということと、部署内の部長などのキーパーソンの前では必殺「ワタシナンテ・・・」という自らを卑下する技で自分の立場を確固たるものにしていた。
そんなナンデワタシダケだが、天敵ができた。
そんな環境だからこそ、ナンデワタシダケを拒絶する男性社員(A)もいたのだ。
ある昼下がり、オフィスには私とナンデワタシダケと、そのAの3人だけが居た。
そこに顧客からの電話が鳴った。
Aは3人で最も先輩であり、さらに制作部門の社員であったため、電話に出ようとしない。
私は取引先と電話をしていた。
普通に考えて、後輩であるナンデワタシダケが電話に出るべきである。
しかし、ナンデワタシダケは電話に出なかった。。。
電話を取り、これ見よがしに大声で話すA。
「今●●は外出中なので、改めさせます!」
電話を切るA。
一瞬の静寂。
窓の外には春の風景が広がり、薄めの雲が少し駆け足で流れていた。
「なんでテメーが電話に出ねぇんだよ!」
突然怒鳴るA。
びっくりする私。
ナンデワタシダケは、即座にオフィスを飛び出して行った。
なんの返答もすることなく・・・。
「あいつは部長たちに媚びへつらって調子にのってるから、これぐらい言わんといかん!」
Aは私にそう言って笑っていた・・・。
”こりゃ面倒くさいことになるな”
私は、散り始めた桜を見下ろしながらそう思った。
2日後、私は部長に会議室に呼び出された。
あの日、オフィスで何があったのかの確認とナンデワタシダケをどうも思うかについてのヒアリングだった。
私は見たままを報告した。
確かにナンデワタシダケは、日頃から電話にでようとしない。
業務書類のミスなどが多く、問題行動も多い。
ただ今後直していけばいいだけだろうと言った。
部長はキレた。
「お前なんかがあいつの苦労がわかるわけないだろ!」
知りたくもないですw
「だいたいAの物言いが悪い!ナンデワタシダケもAの言い方が悪いと怒っている!」
うわぁ・・・、言っちゃったよこの人。
「お前もあいつの味方をしろ!すでに部署内の●●と●●と●●はあいつの味方だ!」
「あの日の晩にナンデワタシダケが泣きながら相談してきたから、みんなで慰めた!」
「Aはナンデワタシダケにああいう言い方をする!」
私はとんでもない部署に配属されたなぁと思いながら、ぼんやりと聞いていた。
当然ナンデワタシダケはその後も電話に出ることはなかった。
翌年、新入社員が配属されるとナンデワタシダケが新入社員にこう言っているのを聞いた。
「電話なんて、制作とか暇な人間が出るべきだから、君たちは出なくていい」
その瞬間、ナンデワタシダケは私の中のモンスターリストに掲載された。
それから5年の時が流れた。
5年の間に私も出世していた。
当然ナンデワタシダケよりも年齢も役職も上だ。
なのにこの5年、私は丸でナンデワタシダケの専属ディレクターのようにこき使われた。
しかし私は耐えた。
何度かナンデワタシダケを諌めたことがある。
しかし、その直後に部長や本部長などのお偉いさんから私に電話が掛かってきて、こう言われたからだ。
「お前はナンデワタシにだけ、なんで注意するんだ!あいつは”ナンデワタシダケ・・・”って泣きながら電話してきたぞ!」
はいー、すみませーん。
これが5年間続いたため、耐えるしかなかった。
この会社にいるのもあと少しだな・・・。
そう思い始めていた。
ナンデワタシダケは、自分の上司である課長と不倫していた。
これがバレれば、部長や本部長の寵愛はなくなってしまうことが分かっているから、絶対にバレないようにしていたつもりだろう。
しかし、分かりやすかった。
夜の街で手を繋いで歩いていたり、愛人である課長の家のすぐ近くで一人暮らしを始めたりした。
その一人暮らしの際には、部長本部長に掛け合って、本来適用外の住宅手当まで特別待遇で適用させた。
かなりわかりやすい不倫であったが、誰も部長にも本部長にも報告しなかった。
どうせ言ったところで何も変わらないし、ナンデワタシダケの報復も怖かったからだ。
最早部署の女王様になっていたナンデワタシダケ・・・。
ある時、私は同時進行で5件のコンペを抱えていた。
月曜から金曜まで毎日プレゼンの予定が組まれていた。
その金曜の案件の営業担当がナンデワタシダケだった。
月曜火曜水曜と、提案を仕上げ、プレゼンをし、仮眠を取り、提案を仕上げ、プレゼンをし、仮眠を取る。
1日2時間程度の睡眠だったが、こなせる予定であった。
水曜の夕方、ナンデワタシダケから電話が掛かってきた。
とても嫌な予感がしながら出た。
「ナンデワタシの案件だけ真面目にやらないんですか!!」
いきなり怒鳴り散らすナンデワタシダケ。
「いや、今週はすべて詰まっていて、君のは金曜だから、明日木曜にすべて仕上げるつもりだよ」
努めて冷静に返した。
「違う!!!アンタはいつもワタシの案件だけ手を抜いてんだよ!」
すげーこというな、コイツ・・・。
お前、ここ5年間、私の提案で勝ちまくってきたのに・・・。
「そんなことないよ。予定どおり順番にきちんとやってるよ」
死んだ魚の目をしながら私は伝えた。
「この件は本部長に報告しますからね!いっつもナンデワタシダケ!!」
と言って、ナンデワタシダケは電話を切った。
10分後、本部長から電話が掛かってきた。
「ちゃんとやってやってくれよ!」
あー、こいつらはもうダメだなと確信した私は、その半年後に辞表を提出した。
その後のナンデワタシダケ情報。
●コンペで勝ってくれる人が居なくなり、営業成績が急降下
●部長本部長に泣きつき、期の途中でまさかの営業マップ変更(売上数字ごと)という荒業で予算達成
●事業部初の女部長になり、女性部下から”ああなりたいNo.1”になる
●寵愛していた部長、本部長が左遷、不祥事を起こし降格となる
●部長になったはいいがパワハラの連続で女性部下から”ああはなりたくないNo.1”の称号を得る
●今年39歳、独身街道まっしぐら
●社内では腫れ物としての地位を確立
●不倫相手とはくっついたり離れたりを繰り返している
これが、ナンデワタシダケの生体である。
もしあなたがナンデワタシダケ型の妖怪に出会った場合、
取れる手段は以下だ。
A:とにかく関わらない!二人にならない、飲みなどもってのほか、声など絶対掛けない!
B:徹底的に甘やかしモンスターサイドの人間として、ダークサイドに落ちる
以上。
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