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#4 本気で社会を変えるにはーたった一つの発見で滅びに近づくことがある人間社会の脆弱性

人が作る社会は、それが高度であるがゆえに驚くほど脆く、十分に注意を払わなければたった一つの発見で滅びに近づくことがあります。それを、仮想話を元にしたいと思います。

ある国には、膨大な化石水が地下深くに眠っていました化石水とは、『地層が堆積したときに封じ込められ、数万年以上にわたって大気との水循環から切り離された水。』であり、要するに一度使えばなくなってしまうを指します。

その国は、降雨からの水だけが頼りでした。食料を増産しようにも限りがあり、ある一定以上人口が膨らむとどうしても飢餓が起きてしまう状態です。やむなく人口は厳しく管理され、なるべく飢えることがないように配慮されました。

そんなある時、地下深いところから大量の水(化石水)を汲み上げる手段が発明されました。それによって無制限に水が利用できるようになり、食料生産に制限はなくなりました。もう飢餓を恐れ、人口を厳しく管理する必要がなくなったのです!

タダ同然の化石水を用いて食料の大量生産が行われました。食料の増加とともに、人口は増え、国は豊かになりました。人口がいくら増えたとしても、水は無尽蔵にあります。人口に合わせて食料生産は急拡大し、水の消費量はさらに増えました。

ところがしばらく経って、人口が大きく膨らんだ時、地下水の水位が下がっていることに気づきました。地下の水は決して無限にはなく、近い将来なくなることが分かったのです。

さて、このような危機に陥ってしまった時、あなたならどうしますか?

もう人々は飢えることを知りません。豊かな食糧、快適な生活に慣れ、それが当たり前と疑いません。少しでも化石水の利用を制限し、食料生産を落とそうものなら暴動が起きるかもしれません。増え続ける人口を支えるためにはもっと水が必要です。国を挙げて新しい化石水の探索を続けます。化石水を見つけ掘り起こす人は、私達こそが社会を支えていると誇りをもって働いています。

化石水はその性質上有限の資源でした。最初こそ新たな埋蔵場所を見つけることが容易であるものの、次第に困難になっていきます。そして最後は掘りつくされてなくなる運命にあります。

この話の最も恐ろしいことは、化石水を見つけた時点で、もう元には戻れない強力な力学が働くことです。飢餓への恐怖がある以上、見つけたからには掘り出そうとします。中にはたくさん食べたいから食料をもっと生産したいという欲求を持つ者もいるでしょう。食料がいくらでも増産できるのならば、人口を制限しようとする不自由な政策は不要だとして強く反対されます。長い年月を経て、多くの人は化石水はいくらでも汲み上げられる存在と信じ始めます。あまりに巨大で人の認知能力を超えていますし、そもそもどのくらいあるのか気にしないかもしれません。自分が生きている間あれば良いと考える人もいます。自分の親の世代より絶対豊かな生活を送るんだと対抗心を燃やしているかもしれません。上記のように、不自由を強いてまで何かを強制することは、もはや容易なことではありません。反対しようならもう批判を浴びます。そして水がなくなるその瞬間まで、問題を先送られるべくして先送られるのです。

この話は、実際に起きていることをベースに書いています。化石水に依存をした農業を行っている国はあり、化石水の枯渇が懸念されています。化石水ではないですが、無秩序な水利用によって、世界4位だったアラル海は消滅しようとしています。21世紀は水の世紀と呼ばれ、国家間で水を争うだろうという予測もあります。

現実世界では、なるべく化石水に頼らないように様々な対策が打たれています。例えば逆浸透膜を用いて海水から淡水を生成する技術、より少ない水で農業を行う技術、少ない水で成長する植物の開発、さらには植物工場などの開発があります。必ずしも悲観的になり過ぎることはないですが、安価な水を無尽蔵に使えていた時代が終わりを告げた時、十分に備えていなければ、その反動が急激に襲ってきます。これは水だけの話にとどまりません。化石燃料やリン鉱物、レアメタルなど、様々な有限の資源に共通する問題です。

このように、社会をシステムとして俯瞰的にとらえることで、まだ目には見えないリスクをあぶりだし、何が原因だったのか、根本的にどうすれば対策が打てるのかを洗い出すことができるのです。そして、人が作る社会システムの弱点を知ると、その文明の高度さゆえに、非常にあっけないほど脆弱であることが分かります。

(#5へ続きます)


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