消費税は誰のための税なのか?誤解される逆進性について
日本において、消費税は極めて評判が悪い税である。消費税は貧しい人ほど痛税感が強く、試しに上げようとするならば政権を転覆させるほどの大反対が巻き起こる。所得が多いほど負担が大きい税との対比として、消費税は逆進性の税——庶民にとって大敵の税と認識されており、コロナ禍において多くの人が生活が苦しむ中、ただちに「消費税を下げるべきだ!」という主張をよく耳にする。
けれども、これは本当に正しいのだろうか?
消費税の逆進性は、例えば次のように説明される。月の支出が20万円の世帯があるとしよう。消費税が10%から20%に上がったとすると、消費税の負担は2万円から4万円へ、都合2万円増えることになる。ただでさえ生活が苦しく切り詰めて生活しているという状態で、追加で月2万円近く支出を抑えなければならない! かたや月の支出が50万円の世帯の場合、生活必需品に支払うお金の"割合"は月20万円の世帯より低い。増税されたとしても多少ぜいたく品を我慢するだけで済み、痛税感が少ない。
このように所得が低い世帯ほど、「支出における生活必需品が占める金額の割合が高い」からこそ、少しの税金の変動が生活に与える影響が大きく、庶民に苦痛を強いる税と思われている。
ただしここで話は終わらずに、もう一歩議論を深めてみよう。最低限の必需品の支出に対し消費税を還付できたとしたらどう変わるだろうか?
憲法には生存権、必要最低限の生活の保障が記載されている。その必要最低限の生活を送るためにかかる費用が一人当たり月10万円かかるとして、これに相当する消費税をあらかじめ給付することにする。消費税が10%であれば一人当たり1万円だ。
夫婦で(税抜き)月20万円の支出をしている場合、月2万円が先に給付される。購入時に支払う消費税は2万円(=20万円×10%)であり、差し引きの負担は0円になる。消費20万円に対して負担が0円であるから、実質消費税率は0%だ。一方で、夫婦で月50万円の支出をしている場合、月2万円が給付され、支払う消費税は5万円であるから、差し引きの負担は3万円になる。消費50万円に対して負担が3万円であるから、実質消費税率は6%だ。このように設計すると、月々の支出が大きい世帯ほど、累進的に消費税率は上がっていく(次図)。
必要最低限の生活をする分には消費税はかからず、最低限以上の消費に対してのみ、狙い撃ちして課税することができる!
同様に消費税率を20%として、給付額を一人当たり2万円(=10万円×20%)に引き上げたとする。そうすることで、同様にお金持ちにだけ税率を上げて課税をすることができる。
こうして考えると、消費税に給付を備えた制度は、「弱者のための税」へと変身する。消費税は適切に設計しさえすれば、実はかなり優れた税なのだ。
ここで最初の問いに戻ろう。コロナ禍において、「消費税は上げるべき、下げるべきなのか」。
本来税は、富の再分配の機能——担税力のある裕福な人からお金を回収し、貧しい人のために使う、という大事な役割がある。コロナ禍によって、給料が下がった、あるいは職を失ってしまって生活に苦しむ家庭が増えてしまっているのならば、富の再分配機能の強化、裕福な人からなるべく多くの税を集めて貧しい人に配る、ということをしなければならない。そのためには、消費税率を上げると同時に最低限の支出に相当する消費税分を給付することで、「富裕層だけの税率を上げる」ということが合理的な選択になる。
なお、消費税は、誰も逃れられない税という側面も持つ。所得税であれば、租税回避などの抜け道がある一方で、消費税は回避策がほとんどない。タックスヘイブンで所得税を減らした企業、見かけ上赤字決算にして税負担を免れている企業に対しても消費税は課税することができる。ごまかしにくい、という意味で相当強力で公平な税である。
残念ながら現行の税制は、お金持ちほど優遇されており、お金持ちの税負担は驚くほど少ない。例えば株式譲渡益への課税はわずか10~20%に過ぎない。ある意味で消費税は、富裕層への課税の最後の砦なのだ。
また消費税は担税力に合わせて課税できる。所得税は、所得が高い人にのみ高額の税金が課せられる。けれども消費税の場合、「所得はないが多くの資産を持つ人」に対しても応分の税負担を課すことができるのだ。日本で所得がない観光客からも集めることができる。
このように消費税は使い道によっては、かなり有効な税である。それにも関わらず、あまりにその有用性が認識されていない。
仮に消費税をゼロにしてしまったならば、あらゆる世帯の税負担が軽くなり、生活が助かるように思えてしまう。けれども、最も得をするのはお金持ちだろう。不足した税収は他の税で補わず、赤字国債で賄うことも可能だが、赤字国債は将来世代への税の先送りであって、道義的に許されるものでなく、その運用は相当に慎重にならなければならない。(国債の問題についてはぜひNo.8|国債という名の病 - 後編も見てほしい。)
以上のことから、よく使われる「消費税を上げるべきか、下げるべきか?」というアンケートは、かなり酷い問いであることが分かる。「給付なし」であれば、それは貧しい人を追いつめる税であり、「給付あり」であれば、貧しい人のための税になり、システムの設計次第で効果が180°変わってしまうからだ。
消費税を上げると、売り上げが下がって景気が低迷するという反論もあるだろう。けれど、低所得の世帯は給付額も増税分引き上げられるので、増税前と同程度支出することができる。一方で富裕層を中心に消費マインドが抑制されて支出が減ってしまうものの、最終的には売り上げが減って所得税が減る分以上に消費税を回収することができる。(注釈:一時的に消費を減らしても、"消費税を下げない限り"いつかは結局消費税を支払わなければならない。であるならば、消費税増税によって消費を後回しすることは合理的な判断ではなく、その需要抑制効果は限定的である。しかし上げすぎは当然良くはない。)特にコロナ禍においては、消費税減税による過剰な消費への誘導は、感染者拡大の原因にもなってしまう。
消費税は、それだけでは良し悪しがつけられない。むしろ低所得者のための税になり得るにも関わらず、散々にやり玉に挙げられる税である。私たちは政治家の言葉を上辺だけで判断してはいけない。
(付録)益税について
日本においては、売り上げが一定額以下の事業主は、消費税を納付する義務がない。消費税相当額が丸々儲けになるという意味で、税負担をしている企業と比べて相当に不平等な仕組みになっている。消費税が高いほど、この不平等は拡大するため、益税が発生しないシステムが欠かせない。
(付録)軽減税率について
軽減税率はシステムの煩雑さ故に相当な社会的コストがかかるため、不適切な税と考える。また食品を対象にしても、100g〇千円の高級食品に対しても税率が軽減され、公平性の観点からも相当疑わしい。
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note:kiki(持続不可能な社会への警鐘者)