そもそもの話-お試し地方移住-
2023年10月8日、私たちKiKiが運営する「KiKi北千住」の場所ができてから5周年を迎え、それにあたり、記念ZINEを制作しました。
タイトルは
「そもそもの話 -場づくり夫婦が歩んだ5年間-」
住居兼イベントスペースからはじまったKiKiが喫茶店になるまでや、そのきっかけ、子育てしながら夫婦で仕事をすることについて…などをずらずらっと書いた本です。
こちらの内容をnoteでは全文無料公開予定です。毎週水・日の夜に更新いたします。
お試し地方移住
2019年の3月から5月の約2ヶ月の間、東京を離れて、福岡から電車で約1時間の糸島市に滞在していた。島といっても離島ではなく陸地で、お洒落なお店や、ブルーハワイ色の海が広がり、観光地にもなっている。
そんな糸島の市内からは少し離れた集落に「食べ物、仕事、エネルギーを自分たちでつくる」をコンセプトにした「いとしまシェアハウス」がある。運営しているのは、新米猟師兼ライターの畠山ちはるさんと、料理人の志田浩一さん夫婦だ。
元々二人とは、都内で行われた「鶏を解体するワークショップ」に、私が参加したとき、講師として来てくれた時に出会った。
それからしばらく経ったある日、SNSで「大工インレジデンス」というプログラムの参加者をちはるさんが募集しているのを見つけた。KiKiが完成し、ヨーロッパ旅行から帰ってきて、会社を辞めていた私は、これから何をして生計を立てていこうか、悶々としている時だった。キングコングの西野さんの動画をみたり、ホリエモンの本を読んだり、「何者かにならないと」という焦りがあったのだ。
「大工インレジデンス」はシェアハウスの大工仕事を行う代わりに、食費と滞在費を無料にしてくれるというプログラムだ。
過去にも「ギブミーベジタブル」という、野菜が入場料のイベントを開催したり、ちはるさん夫婦が獲ったイノシシのお肉と引き換えに物々交換を行なったりするなど、お金ではない価値で暮らしをしているのも興味深かった。
東京で生まれ育ったわたしにとって、集落に滞在するのは地方移住体験のようなもの。2人暮らしをして間もなく、正太郎さんに背中を押してもらったこともあり、私だけ短期滞在することになった。
私は大工が本業というわけではない。大工として滞在するのは少し不安があったが、KiKiのリノベーション経験と、元来モノづくりが好きで、つくることに対してのハードルが低かったことで、私にもできることが沢山あったので安心した。
いとしまシェアハウスでは食べ物やお米を自給しているため、食への意識の変化が大きかった。私が滞在していた時は6〜8人の住人がいて、毎昼晩一人一品つくり、毎回パーティーのような食卓になっていた。
私は実家暮らしが長かったので、ほとんど料理の経験はなかったのだが、料理人の浩一さんやシェアメイトが教えてくれたし、他の人が作っているものに合わせて付け合わせを考えたりすることが楽しかった。苦手意識のあった料理だったけれど、ただ単に経験が少ないだけだった。それを苦手としてしまうのはすごく勿体無い。
料理以外においても、苦手意識というものは案外やったことがないというだけなのだろうなと思う。「やったことないけど教えて」 だとか、「苦手だけど好き」と言うほうが楽しい方へと転がる。
実際に住んでみると 「スローライフな田舎暮らし」なんてものは存在しなくて、自然相手にやることが多すぎて大忙しだ。なんでも便利にお金で手に入れられる都会とは違って、常に動き回っていないといけないのだが、心は常に充足感で満ち溢れている。
納豆を手作りしてみたり、家や車を修繕したり、全ての事が経験となって自分の糧になっていく。そんな実感が得られるということ自体がとても豊かなことだと感じた。
「いとしまシェアハウス」での滞在が終わり、東京に帰ってきてからも、そこで得た感覚はずっと大切にしている。
自分の感覚を持ちながら生きていくこと。それこそが自信につながり、不安を抱えて生きることを減らすことができる。いざという時に、工夫してなんとかしようと思えるその精神こそが、尊いのだ。
その時のシェアハウスの住民は、今でも友達というより、何かあった時に助け合える、家族のような存在だ。そんな人が全国各地にいると思うととても心強い。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?