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企画展「21.5世紀の地域デザイン」▶ブックリスト3 C:地域文化の新しい息吹

本企画展で展示する全50冊の書籍は企画展チームの3人が選書し、7/12開催のプレイベント「〈21.5世紀の地域〉は今:企画展に向けて」においてトークセッションの形でご紹介しました。
当日の内容を再構成し、本企画展ブックリストとして全3回でお届けします。

〈選書者〉
髙宮知数(株式会社ファイブ・ミニッツ)
三尾幸司(一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ)
中村陽一(立教大学名誉教授、HIRAKU IKEBUKURO 01 SOCIAL DESIGN LIBRARY ファウンダー、株式会社ブルーブラックカンパニー)
※プレイベント当日のキーノートスピーチおよび自己紹介
https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nd6a64a6ffa45

《凡例》 ■:総論 ◎:多地域 ★:海外 〈地域名〉 【選書者】
[前]:前期 [後]:後期 [通]:通期

33.原維宏(発行)『Fukuoka Style』福博綜合印刷、1990年~2001年 【髙宮】〈福岡市(福岡県)〉[前]
 
先ほど申し上げたように私は福岡の出身です。行かれたことのある方はご存知かもしれませんけれども、福岡では随分前から駅などさまざまな公共表示が 4 カ国表記になりました。つまり、日本語、英語、中国語、韓国語の表記がされています。
 
 そのきっかけになったのが、昔は時々開催されていた「地方博」のひとつで福岡で博覧会があったことです。地方博なのに「アジア太平洋博覧会」という壮大なタイトルがついていますが、これは私の友人である平野暁臣君とお父さんの繁臣さんが中心になって企画されました。彼らが提起したのは「福岡は東京に目を向けるな。アジアにむしろ目を向けろ」ということです。
 
 福岡の人間というのは、私もそうですが、今まで聞いたこともないような、奇想天外なことを言われると、逆に「そうか!」と信じてしまうところがあります。本当にその後、アジアの現代美術専門の美術館をつくり、福岡アジア文化賞というアジアの文化芸術活動家を顕彰する賞をつくり、そして先ほどのように交通表記を変えたり、アジアの「首都」になることを目指すように90年代から動いたわけです。先ほど中村先生の紹介にもあったように、福岡という街が元気なのは、1つはやはりアジアというものを意識してこの30年やってきたのが大きいかと思います。
 
 その頃に、地元の印刷会社が「自分たちもやれることを」と始めたのが、この『Fukuoka Style』という雑誌です。20冊と別冊1冊が出ました。どの号も福岡に関連するテーマ、たとえば屋台だったり、川とか海が近いところですから水辺といったテーマなんですけれども、アジアのいろいろな都市を取材して、各地の屋台であったりとかそういったものを取り上げて「アジアの中の福岡」ということを意識してつくられた雑誌です。
 
 こういったものが 20 冊とはいえ、定期的に出されたというのはすごくいいなと思って手元に残している雑誌です。これは今、もう古本屋さんでもほとんどないのですが、ネットで全号、全ページ、デジタルで読むことができます。それも福岡のあるサイトが実現していることですね。

34.藤浩志、AFFネットワーク『地域を変えるソフトパワー』青幻舎、2012年 【髙宮】◎[後]
 AAF(アサヒアートフェスティバル)は、アートを通じて地域の「課題」を発見し、変化をもたらしていこうとしている団体です。メセナアワード 2012、メセナ大賞を受賞した10年にわたる活動のなかから、具体的な14の事例を紹介しています。

35.十和田市現代美術館『地域アートはどこにある』堀之内出版、2020年 【髙宮】〈十和田市(青森県)〉[前]
 十和田市現代美術館は、規模としては非常に小さいのですが、十和田という現場の実践と思考の軌跡・論稿を、住民や様々なゲストとともにまとめた1冊です。

36.『内子座』編集委員会『内子座-地域が支える町の劇場の100年』学芸出版社、2016年 【髙宮】〈内子町(愛媛県)〉[後]
 内子座は大正時代に町民有志によって創立され、今も夏の人形浄瑠璃公演には全国から来場があるなど現役の劇場として親しまれている芝居小屋です。この本は、戦前の隆盛、戦後の低迷と解体の危機を経て、町並み保存による再生と「まちづくりの拠点」としての展開を紹介しています。僕も人形浄瑠璃を観に何回か行きましたけれども、本当に豊かな劇場というのは、ちゃんと大切にすれば、今行ってもワクワクするような演劇を見られる場所になるんだなと実感しました。

37.ニッセイ基礎研究所、いわき芸術文化交流館アリオス『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』水曜社、2012年 【髙宮】〈いわき市(福島県)〉[前]
 
先ほども震災の話が出ましたが、この本は「復興に向けて劇場がどう取り組んだのか」がテーマです。震災直後の緊迫した状況を現場の声から振り返り、アリオスと地域のユニークな取り組みや東北3県の主要文化施設のキーパーソンらとの座談会、そして「文化からの復興」の意味を考えたものです。

 今は小田原のホールに移られましたが、当時いわきアリオスの支配人をされていた大石さんは、私と同じ久留米出身の同級生で、劇団新感線のプロデューサー~公共ホールの世界に入られた方です。大石さんとスタッフたちの淡々とでも諦めずに劇場の復活に掛ける努力は、読んでいて、ちょっと感動的です。

38.秋元雄史『直島誕生』ディスカバー・トゥエンティワン、2018年 【髙宮】 C 〈直島(香川県)〉[後]
 ベネッセが瀬戸内海の直島で展開しているアートプロジェクトを立ち上げ、実務を担って軌道に乗せた秋本さんが書いた記録です。直島の地中美術館は小さいけれどもお客さんがたくさん来る地方の美術館として知られています。1991年から15年間、直島プロジェクトを担当した仕掛け人が、2006年に島を離れて以降、初めて自らの経験をもとに語り尽くした本です。

39.『地域創造』(一財)地域創造(1995年~) 雑誌・年1回刊 【髙宮】◎[後]
 競輪の収益金を使って地域を活性化する「地域創造」という総務省系の団体が定期的に出している雑誌です。地域の文化、あるいは文化と地域の新しい関わりみたいなことを、本当に現場を回ってユニークな事例を紹介し続けています。昔『ぴあ』が雑誌メインだった時代に名物編集長だった坪池さんという方が、私ともう同じ世代ですから、今でも頑張って本当にいろんなものを発掘して紹介されています。今は年 1 回の発行になっています。

40.嶋田俊平『700人の村がひとつのホテルに :「地方創生」ビジネス革命』文藝春秋、2022年 【三尾】〈小菅村(山梨県)〉[後]
 「C:新しい地域文化の息吹」については、狭義の地域文化というよりも、地元で頑張って新しいムーブメントを起こした人たちの本を事例ベースで読むのが好きなので、そのような本を3冊ご紹介しています。この本は、山梨県の小菅村というところで「さとゆめ」という会社を立ち上げ、地域全体を一つの宿に見立てた分散型ホテル「NIPPONIA小菅 源流の村」について書かれた本です。

41.篠原匡『神山:地域再生の教科書』ダイヤモンド社、2023年 【三尾】〈神山町(徳島県)〉[後]
 
最近「神山丸ごと高専」などで話題になっている徳島県神山町の事例です。うまくいってるお話だけ聞くと、「すごいことをやってるな」と思いますし、「あのSansan の社長がやっているから、お金持ちだからうまくやれるんでしょ」みたいな声も聞こえてきますが、中身を読むとかなり苦労をされていて、本当に覚悟と熱意がないとできないということがわかります。地域おこし、町おこしをどう進めるかを考える上で、非常に参考になる本です。

42.牧大介『ローカルベンチャー:地域にはビジネスの可能性があふれている』木楽舎、2018年 【三尾】〈西粟倉村(岡山県)〉[前]
 この本は中村先生も推薦されていましたが、岡山県の西粟倉村で林業ベースのビジネスを立ち上げている事例の本です。いずれもリアルな話を読むのが好きなのでご紹介させていただきました。

43.結城登美雄『地元学からの出発:この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける (シリーズ地域の再生 1)』農山漁村文化協会、2009年 【中村】◎[通]
 著者の結城登美雄さんは私たち社会デザインの分野でも大変著名な方ですが、地元学ということをずっと提唱されています。地域学ともまた違い、非常にその地域の暮らしに密着したところから考えておられるのが特徴です。これも農文協から刊行されていて、「地域の再生」というシリーズの第 1 巻として出たものです。

 「危機の時代を希望の時代に」ということで、農文協の創立 70 周年記念出版としてシリーズ全体ではいろいろな展開がされている中で、やはり結城さんの「地元学って一体何なんだ」ということがご自身の経験を踏まえつつ、地域のたくさんの事例とともに紹介されています。具体的なところで、私たちが地域の再生を考える上でのヒントになる本だと思っています。

44.21_21 DESIGN SIGHT『 東北のテマヒマ 【衣・食・住】(colocal books)』マガジンハウス、2012年 【中村】◎[後]
 1970年代から東北の美しいテキスタイルや優れた技術と連携してきた三宅一生さんがディレクションした特別企画「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生。」(2011年7月~)、グラフィックデザイナー佐藤卓さんと、プロダクトデザイナー深澤直人さんが、東北の<食>と<住>をテーマに、各地を訪ね、「テマヒマ」がかかったものたちを見出し、デザインの美を際立たせて展示空間を構成した企画展「テマヒマ展〈東北の食と住〉」(2012年4月~)。

 本書は、東京・六本木 21_21 DESIGN SIGHTで開催されたふたつの展覧会に出品された、「テマヒマ」をかけてつくられる64アイテムを<衣・食・住>のカテゴリー別に完全収録しています。厳しい自然のなかで、手間とひま(時間)をかけてものをつくり、食し、使うという暮らしを伝承してきた東北のひとびとの姿を通して、豊かさやデザインのあり方を問いかけています。

45.前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』中央公論新社、1996年 【中村】〈鎌倉市(神奈川県)〉[後]
 もう 30 年近く前に出たものです。鎌倉アカデミアは一部でものすごくファンが多く、また研究をされている方も多いのですが、戦後間もない1946(昭和21)年、市民によって鎌倉につくられた小さな「大学」です。もちろん、文部省(現・文部科学省)が正式に認めた大学ではなく、地域の人々の学びの場ですが、ここで一体どんなことが行われて、それが今日にどういう種をまいたのか。三枝博音(さいぐさ・ひろと)とはその2代目校長ですが、学生らとともに、学問と教育の両者を合わせた理想を追究されました。私も鎌倉アカデミアには非常に心惹かれるものがあり、ご紹介しました。

46.山田太一『時は立ちどまらない:東日本大震災三部作』大和書房、2024年 【中村】〈三陸地方(岩手県)?〉[後]
 次は先頃亡くなった山田太一さんの脚本です。私は非常に好きな脚本家でした。「東日本大震災三部作」として最近刊行されたものの1冊で、「最後の作品集」と銘打っています。『キルトの家』、『時は立ちどまらない』、『五年目のひとり』というこの三部作は、震災から 1 年後、3 年後、 5 年後と時が経つ中で、同じストーリーではないのですが、それぞれの登場人物の背負っているものを、誰の立場に立つということでもなく描いています。それぞれの物語が、いかにも山田さんらしいですね。研究書や論文ではありませんが、こういう切り口から地域を考えるということが、私はすごく大事だなと思ってご紹介をしたいと思いました。

47.井野朋也 『新宿駅最後の小さなお店ベルク:個人店が生き残るには? (ちくま文庫)』筑摩書房、2014年 【中村】〈新宿区(東京都)〉[後]
 ベルクは新宿駅にある小さなビア&カフェです。駅の改札は出ますけれども構内にありますので、利用された方も多いのではと思います。個人営業の店舗があの巨大ターミナルの超激戦区で30年以上も生き残ってこられた理由を店主の井野さんご本人が解明しようとしたというか分析した本で、ビジネス書としても非常に売れた本が文庫化されたものです。エピソードも非常に豊富で、読み物としてもものすごく面白い本なので、ぜひ読んでいただければと思います。

48.松隈章『木造モダニズム建築の傑作 聴竹居:発見と再生の22年』ぴあ、2018年 【中村】〈大山崎町(京都府)〉[前]
 著者の松隈章さんとは先ほどご紹介した『3・11後の建築と社会デザイン (平凡社新書)』(23)のシンポジウムで出会いました。建築の世界では有名な「松隈兄弟」という双子の弟さんの方で、竹中工務店でずっと建築デザインの要職を歴任されました。日本の木造モダニズム建築で現存するものとしては大変歴史的な価値のある聴竹居を保全して公開したのは、この松隈さんたちの動きによるものです。

 聴竹居は当時の最新技術を取り入れた和洋折衷住宅で、実験建築的な側面もあります。設計した藤井厚二は戦前に活躍した大変有名な建築家で、一時期竹中に籍を置かれました。施工にあたっては大変腕の良い宮大工の方が手がけられ、完成に至るまでの過程では藤井さんとのものすごいせめぎ合いがあったと聞きます。設計には藤井さんのこだわりが随所に見られ、「こういうことができるはずだ。できないのか」と問いかけると、宮大工さんにもプライドがありますから、負けてたまるかということで応えていく。そんなやりとりの中で出来上がったそうです。ここには庭に面した大きなガラス窓があるのですが、阪神淡路大震災でも全く歪まなかったといいますから、本当にすごい建築だと思います。見学には事前予約が必要ですが、関西に行かれた折には、皆さんもぜひ見ていただければと思います。

 今日は聴竹居関連の本をもう1冊持参しており、『聴竹居-藤井厚二の木造モダニズム建築』(平凡社、2015年)もビジュアルが豊富でおすすめです。

49.NPO法人共存の森ネットワーク『ノトアリテ』2024年 【中村】〈能登地方(石川県)〉[前]
 先ほども能登半島地震について触れましたが、このブックレットは能登の里山里海文化というものを聞き書きとしてまとめたもので、読みでのあるものだと思います。非常によく編集されており、ブックレットとしてすごくよくできたつくりになっています。
 
 NPO 法人の共存の森ネットワークというところが出されていますが、実は立教大学21世紀社会デザイン研究科の卒業生もちょっと編集に関わっていたり、それから私は東京音楽大学ともいろいろコラボさせていただいているのですが、そこの方も関わっているという二重のつながりがあります。市販されてはいませんので、ぜひ企画展に足を運んでいただき、展示されたものを見ていただければと思います。

50.巡の環『僕たちは島で、未来を見ることにした』木楽舎、2012年 【中村】〈隠岐諸島(島根県)〉[通]
 「株式会社巡の環(めぐりのわ)」(現・株式会社 風と土と)は、日本で今一番有名な離島になったと思いますが、島根県の隠岐諸島にある海士(あま)町に移住をされた阿部裕志さんたちが立ち上げました。もともと阿部さんはトヨタ自動車の技術者だったのですが、いろんな経緯があって海士町へ移住し、このタイトル通り、「島で未来を見ることにした」方です。

 本当に逆転の発想だと思うのですが、島の中で唯一の県立高校がもう廃校寸前まで追い込まれた頃、海士町では「島留学」というのを打ち出しました。その時のポスターがすごくて、「全国の脱藩者よ来たれ」というキャッチコピーで、とにかく自分の生まれ育った地域とは違うところで高校生活を送りませんかという取り組みをやってみたところ、本当にいっぱい人が来るようになって、遠くドバイからも留学生がやって来ました。

 ここの高校は面白くて「ヒトツナギ部」という部活があります。文字通り、人をつなぐ部活動なのですが、観光ではない修学旅行で、他の地域から生徒たちが来るわけです。たとえば 4、5 日間とか 1 週間かけて、地元の高校生が案内役を買って出て、島を案内しながら一緒に回るんですね。そうすると、最後は高校生同士ですから、すごく仲良くなって、もう本当にハグをして別れるみたいなことになります。この活動は全国観光プランコンテスト「観光甲子園」でグランプリを受賞しています。こういうことが、やはりできるんですね。実際に実践している方たちの本ということでご紹介します。

※A:地域の新しいチャレンジ(№1-25)
→ブックリスト1
https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nec08a507cbb8
※B:〈本〉をめぐる新しい文化(№26-33)
→ブックリスト2
https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nbdb587da8195



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