カンヌライオンズ2023 速報 【予習編】 イノベーション部門ショートリスト 全19事例まとめ
明日6月19日から世界最大級のクリエイティブの祭典、カンヌライオンズ2023が開催されます。
イノベーション部門のショートリストが先行して公開されているので、予習がてらノミネートしている全19事例をまとめてみました。
なお、他の部門も含めて、主要な受賞事例については今後以下のマガジンで紹介していきますので、よろしければご覧ください。
昨年分(2022)と一昨年分(2020/2021)もアーカイブしています。
01.
Google
「Subtitles for The World」
Agency:Google Marketing
Googleが開発中のARグラスのプロトタイプ。
リアルタイム翻訳機能を持ち、目の前の相手が話している言葉が翻訳され、字幕となって表示される。
手話にも対応している。
02.
Augmental
「MouthPad^」
Agency:Wunderman Thompson
MITメディアラボからスピンオフしたAugmentalが開発する「MouthPad^」。
このマウスピース型のデバイスを上顎に装着すると、舌で操作するトラックパッドとなり、手が不自由な人にとってマウス操作を代替するものとなる。
03.
Touch / #BlackDataMatters / When We Trial
「EQL Band」
Agency:FCB Health
スマートウォッチの光学式心拍センサーは、緑色の光を手首の血管に照らし、その反射光で心拍数を測定している。
しかし、この方法だと肌の色が濃い人では心拍数データの精度が低下するという研究結果がある。このため、有色人種では診断や治療に遅れが生じ、命が失われる結果にもつながってしまう。
「EQL Band」は、この問題を解決するために開発された、心音で心拍数を測定するスマートウォッチ用バンドである。
防音バンドにマイクと心音スコープを内臓しており、認知のスマートウォッチに装着できるようになっている。
04.
L'Oréal|LANCOME
「HAPTA」
Agency:dana studio
「HAPTA」は手や腕が不自由な人がメイクアップするのを助けるスマートメイクアップアプリケーター※である。
※アプリケーター:化粧品を塗布するための道具
「HAPTA」はスマートモーションコントロールを内蔵しており、手や腕の動きに不自由さを感じているユーザーが、自宅でも自身で口紅を均等に塗ることを可能にする。
まずはロレアル傘下のランコムで口紅用アプリケーターが試験的に導入され、将来的にはその他のメイクアップアプリケーションでも導入される予定だという。
05.
ツバル政府
「The First Digital Nation」
Agency:The Monkeys (part of Accenture Song)
海面上昇により国土水没の危機にあるツバル政府が、世界初となる「デジタル国家」への移行計画を2022年11月に開催されたCOP27で発表した。
それは物理的な領土が消滅してしまうことに備えて、デジタル国家という概念を開拓し、その土地や海や文化をオンライン上に再現することで国家として機能しつづけようというものだ。
その初期段階として、ツバルの歴史的な文書、文化的な慣行の記録、家族のアルバム、伝統的な歌といった資産をカタログ化、地図化して記録し、保存する取り組みが始まっているという。
また、ツバルで最初に水没する可能性のあるTeafualiku島のデジタルツインが制作された。
大臣のスピーチ映像は徐々にズームアウトしていき、実はこのデジタルツイン内で行われていたものだったことがわかる演出となっている。
この取り組みは媒体費を使うことなく21億人にリーチし、デジタル国家としてのツバルの主権は9つの国に承認されているという。
COP27では、気候変動の悪影響に伴う「ロス&ダメージ」に関する基金の設置が決定した。
06.
Jane/Finch Community Centre
「Bill it to Bezos」
Agency:Angry Butterfly
Amazon Primeの加入者は全員、毎月3.5ドルをTwitch(Amazonが所有するゲーマー向けストリーミングサービス)でお気に入りのストリーマーに贈ることができる。しかし大半の場合この機能が使用されることはなく、寄付可能なお金はAmazonに戻ってしまう。
貧困削減や青少年支援、メンタルヘルスとウェルビーイングに取り組むコミュニティ組織であるJane/Finch Community Centre(JFC)は、寄附金を獲得するためにこの仕組みを利用した。
JFCはTwitchにアカウントを開設し、YouTubeに公開した動画などを通じて、これをフォローすることでJFCに寄付を行うようユーザーに呼びかけた。
動画ではCGのジェフ・ベゾスが登場し、JFCへの寄付を行わなければ自分はさらにロケットを購入してしまうだろう、などと言う。
そして「Make a billionaire give back(億万長者に恩返しをさせよう)」というメッセージとともに、「Bill it to Bezos(それをベゾスに請求させよう)」のプロジェクトサイトに誘導している。
このキャンペーンの結果、JFCは年間調達目標の2万ドルを1週間以内に獲得した。その45%以上はTwitchの購読によるもので、残りはPRのメディア露出によるものだという。
07.
Vow
「The Mammoth Meatball」
Agency:Wunderman Thompson
オーストラリアの培養肉スタートアップVowは、培養肉の潜在的可能性への注目を集め、地球に優しい食習慣を実現することを目的に「マンモスミートボール」を製造した。
Vowはバイオエンジニアの協力を得て、肉の質感や色や味を与えるミオグロビンというタンパク質に注目し、公開されているゲノムデータベースからマンモスのミオグロビンのDNA配列を特定した。欠けている情報はマンモスの近縁種であるアフリカゾウのDNA情報で補完してマンモスのDNAを合成。これを羊の筋肉細胞に注入して実験室で培養した。
こうしてできたミートボールはオランダのNEMO科学技術博物館で公開された。
08.
Nike
「Never Done Evolving feat. Serena Williams」
Agency:AKQA
プロテニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアムズが27年の現役生活を終えるにあたり、Nikeはトリビュートムービー「Never Done Evolving feat. Serena Williams」を公開した。
これは彼女が時間の経過とともにどのように自身のプレースタイルを向上させたかをふり返るための企画であり、Nikeの50周年記念プロジェクトの一部として実施された。
Nikeはアーカイブ映像とAIを使用して、1999年に全米オープンで4大大会初優勝を達成したとき(17歳)と、2017年に全豪オープンで歴代最多となる23回目の4大大会優勝を果たしたとき(35歳)の、2つの異なる時代のセリーナによるバーチャル試合ムービーを生成した。
その数は5000試合、13万ゲームにおよび、ムービーにはこのうちの3ゲームが収録されている。
2人のセリーナは、アーカイブ映像に基づいて各時代の意思決定、ショット選択、反応性、回復力、敏捷性といったプレイスタイルをモデル化したものとなっている。
13万のゲームを通じて2人のプレイを比較すると、セリーナは17歳の時点ですでにすばらしい基礎力を備えていたが、それをさらに高めることで最高の選手へと進化していたことがわかった。
09.
QuintoAndar
「Mosquito vs Mosquito」
Agency:GUT
ブラジルの不動産会社QuintoAndarは、ブラジルで年々症例数が増えているデング熱に対抗するため「Casas contra Aedes(蚊に対抗する家)」というプロジェクトを立ち上げた。
これはプロジェクトサイトから参加を申し込んだ人の家に、品種改良されたオスの蚊の卵が入った箱を配布するというもので、このオスと交尾したメスの蚊は、オスのみを産むという。
オスの蚊は人の血を吸わず、デング熱を媒介しないため、これが感染の抑制につながる。
10.
Intel
「Certified Human」
Agency:Dentsu Creative
ディープフェイクによる誤った情報は急速に広がり、メディアや政治、その他の機関にとって脅威となっている。
インテルの「Certified Human」はAIに生成されたディープフェイクをリアルタイムに検出する世界初の技術である。
心臓が血液を送り出すと顔の静脈の色はわずかに変化するが、これは最先端のディープフェイクでは再現ができない。
「Certified Human」では、リモート・フォトプレチスモグラフィという技術を用いて映像上のピクセルの微細な色の変化を分析し、これを深層学習させることで映像上の人物が本当の人間であるか否かをミリ秒単位で検出できるようになる。
11.
Suncorp
「Resilience Road」
Agency:Leo Burnett
オーストラリアの保険会社Suncorpは、災害レジリエンスの第一人者を集めてサイクロンや洪水、山火事などの災害に耐えられる家「One House」を開発し、前回のカンヌライオンズ2022でイノベーション部門のグランプリを受賞した。
※「One House」については以下記事を参照
「Resilience Road」は「One House」から発展したプロジェクトで、このプロトタイプで学んだことを、実際の街にある家に適用するためのものだ。
サンコープは、オーストラリアでもっとも災害が発生しやすい町の1つであるクイーンズランド州ロックハンプトンのある通りにある5軒の家に対して、「One House」から得られたデータや学びを適用したリフォームを施した。
12.
Lay's
「Lay's Smart Farm」
Agency:Leo Burnett
インドの農業は予測可能な季節の変化を前提としているため、昨今の気候変動により大きな損害を受けている。
これに対処するにはすべての作物を毎日観察する必要があるが、インドの小規模な農家が所有する農地は20kmにわたって点在しており、これを毎日監視することは人力では不可能である。
この問題は、ジャガイモを調達するために27000の農家と契約しているポテトチップスブランドのLay’sにとっても重大なことである。
そこでLay’sはインドのアグリテック企業Cropinと協力して、衛星画像とリモートセンシングを使用した農地のリアルタイム監視システム「Smart Farm」を開発した。
これは3000ヘクタールを超える契約農場における過去4年分の気象データと衛星画像をAIに学習させ、作物の成長パターンに影響を与える要因を分析できるようにしたもので、窒素や水の摂取状況や病気の兆候などをカラーコードに変換して農家に伝える。
13.
Heinz
「Heinz Tattoo Ink」
Agency:SOKO
ケチャップブランドのハインツには、そのパッケージ柄のタトゥーを入れるファンが一定数存在する。
しかし、タトゥー用の赤インクには特に有害な物質が多く含まれており、アレルギーや合併症を引き起こすリスクがある。
そこでハインツは、タトゥーインクメーカーのElectric Inkと協力して、同ブランドのケチャップ同様に品質に配慮した公式のタトゥー用赤インク「Heinz Tattoo Ink」を開発した。
14.
Haleon
「Access Codes」
Agency:GREY
グラクソ・スミスクラインからスピンオフしたコンシューマー医薬品メーカーのHaleonは、同社が製造するハミガキ粉や塗り薬、サプリメントといった商品のパッケージに記載している重要な情報を音声で読み上げるためのバーコード「Access Codes」を開発した。
Microsoftの視覚障害者向けアプリ「Seeing AI」をスマートフォンで起動してこのコードを読み込むと、使用上の注意などを読み上げてくれる。
15.
Barilla
「Passive Cooking」
Agency:Publicis Italy | LePub
イタリアの食品会社Barillaはパッシブ・クッキングというパスタをゆでる方法を広めようとしている。
この調理法自体は19世紀半ばから存在するテクニックで、パスタをゆではじめて2分経ったらコンロの火を消し、鍋にふたをしてゆであがるのを待つというものだ。
Barillaによれば、これで炭素排出量を最大80%削減できるという。
パスタにはさまざまな種類があり、最適なゆで時間はそれぞれで異なる。そこでBarillaは、同社が販売する各パスタのパッシブ・クッキング用のゆで時間早見表を公開した。
また、パッシブ・クッキングをガイドしてくれるスマートデバイス「Passive Cooker」を開発した。
これを鍋のふたの上に取り付けて専用のスマートフォンアプリと連携させると、パスタをゆでるためのお湯が沸騰するのを検知し、コンロの火を消すタイミングやパスタがゆであがるタイミングを知らせてくれる。
「Passive Cooker」は100%生分解性のフィラメントを使用した3Dプリントケース、電池、温度センサー、マイコンボードのArduinoを組み立てて作ることができる。
Barillaはこの作り方をオープンソースとして公開している。
16.
P&G|Ariel
「Making Inaccessible Accessible」
Agency:Landor & Fitch
洗剤などのパッケージには子どもが開けてしまうのを防ぐロック機能があるが、これは手先に障害のある人や高齢者にとっても妨げとなってしまう。
そこでP&Gは、大人と子どもでは手の大きさがちがうことに着目し、手の大きさを鍵として使うロックシステム「ECOCLIC」を開発した。
これは大人であれば、親指と薬指を同時に使って箱を開けることができる仕組みになっている。
この仕組みを搭載した「ECOCLIC box」は環境に配慮してダンボールで作られているが、子どもが破いてしまうことのないよう、特許を取得した補強システムを導入している。
これによりプラスチックと同等の耐久性を備えているという。
17.
甲子化学工業
「SHELLMET(HOTAMET)」
Agency:TBWA\HAKUHODO
日本有数のホタテ産地である北海道の猿払村では、年間約4万トンのホタテの貝殻が廃棄物として発生する。
甲子化学工業は、この貝殻を資源としてアップサイクルし、ホタテ漁師の安全を守るヘルメット「SHELLMET(日本名:HOTAMET)」を開発した。
「HOTAMET」は、ホタテの貝殻の形状を模倣したリブ構造をデザインに取り入れることで、少ない素材使用量で高い強度を生み出している。
18.
UFCSPA
「bAIgrapher」
Agency:AREA 23
アルツハイマー病患者が自分自身や愛する人たちについて思い出し、自分の人生を物語ることで認知機能の維持を図る回想法という療法がある。
しかしこれは介護する人に大きな負担があり、あまり頻繁には実践されていないという。
そこでブラジルの医科大学であるUFCSPAは、世界初の伝記生成AI「bAIgrapher」を開発した。
「bAIgrapher」の質問に答えていくと患者の伝記が生成され、書籍や電子書籍、オーディオブックとして届けられる。
19.
Congresso em Foco
「Transparency Card」
Agency:AKQA
ブラジルでは、政治家は旅費や食費などの経費を公金から得られる議員手当でまかなうことができるが、毎年約400億ドルが不正に使用されているという。
国民には、政治家の公金利用に関する情報を得る権利があるが、そのデータを監視する方法は複雑である。
そこで、ブラジルの無党派政治メディアであるCongresso em Focoは、政府のデータベースにアクセスして政治家の経費使用に関する情報を、誰もが簡単かつリアルタイムに監視できる「Transparency Card」を公開した。
ユーザーは公式サイトで監視したい政治家を選び、その情報をスマートフォン(iOS / Android)のネイティブアプリであるウォレットに登録することで、その政治家の支出に関する情報をプッシュ通知で受け取れるようになる。
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