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ラクイラ大学への研究留学体験記

 みなさん,こんにちは.私は伊藤研(環境システム制御研究室)に所属する修士2年の鶴原です.この記事では,2022年9月から2023年1月までの5カ月間の間,イタリアにあるラクイラ大学(University of L’Aquila)にて研究留学を行った報告を行います.実際に留学を行って感じたこと,現地の様子や文化の違い,現地での研究内容についての紹介をします.大学選びをしている高校生はもちろんのこと,在学生などで留学を検討している方に参考になれば幸いです.

【ラクイラ大学とは】
ラクイラ大学はイタリアの国立大学の一つであり,イタリア中部にあるアブルッツォ州ラクイラ県に位置しています.ローマから車で2時間程度です.過去にはラクイラ地震が発生したことは有名で,いまだに復旧を続けています.コッレマッジョ大聖堂やサン・ベルナルディーノ聖堂など有名な観光名所があり,非常に美しい街であり,ラクイラ大学があることから学問の街とも呼ばれています.

【留学先での生活】
<留学先でのイベント>
  留学期間中はイタリアの伝統料理を皆で作ったり,釣りに行ったり,大規模なパーティに参加したりと様々なイベントを通じて多くの経験をすることができました.その中でもラクイラでのクリスマスや年末年始の過ごし方について紹介します.クリスマスはラクイラ全体が盛り上がり,旧市街にたくさんの人が集まってお祝いをします.街中がイルミネーションによりライトアップされ,歩くだけでも楽しむことができます.また,パンドーロとよばれるパンを伝統的に食べますが,非常に多くの種類があり,持ち寄って食べたりもします.
 年末年始はラクイラ大学でお世話になったProf. Pierluigi Beomote Zobelに招待されて近所に住む教授の友達の家族で夕食および年越しをしました.大晦日は魚料理がメインで,Antipasto(前菜),Primo(主食)としてシーフード風ニョッキ,Secondo(第二主食)としてタラをいただき,Dessert(デザート)として,クリスマスでも食べたポモドーロやチョコレートなどをいただきました.これらは各家族が持ち寄ってきたもののようでイタリア人女性の非常に高い料理スキルを目の当たりにしました!また,食事中は魚料理と相性の良い白ワインで乾杯をし,新年のカウントダウンと当時にシャンパンを開けてお祝いしました.また,新年のお祝いと同時にイタリア版おせち料理であるコテキーノとレンズ豆をいただきました.特に,レンズ豆は形状がコインに見えることから金運が上がると言われており,いわゆるゲン担ぎです.最後に,イタリアの伝統的なゲームである「Tombola」(ビンゴに似たゲーム)を行い大いに盛り上がりました.

クリスマスの街並み(左: 街中のイルミネーション,
右: ライトアップされたサン・ベルナルディーノ聖堂)

<留学先での食事>
イタリアではピザやパスタを代表とするとてもおいしい料理をたべることができます.その一部を紹介します.イタリアの外食では生ハムに始まり,様々なチーズ,ブルスケッタなどの前菜が一般的です.1人前の量が非常に多いため,ペース配分を考えないとメイン料理を食べる前にギブアップということになりかねません!それぐらいのおいしさがあります.メインとして食べるピザやパスタは言わずもがな絶品で店によって様々な味を楽しむことができます.最後は,デザートにアイスクリームやコーヒー(主に,エスプレッソ)をいただき楽しい食事は終了です.
特に,イタリアでは食事の後など一息つくたびにエスプレッソを飲む習慣があり,たくさんのコーヒーショップやマシンの前に人が集まっています.1日に10杯以上飲むこともよくある話のようです.

食事の一部(生ハムやチーズ,ブルスケッタ,ピザ,カルボナーラ,イノシシ肉を用いたパスタ,アイスクリーム)

【留学先での研究】
<現地での研究活動について>
 私は,Prof. Costanzo Manesの下で研究活動を行いました.概ね月に2~3回程度のディスカッションを行い,疑問点や意見交換を行うことができました.特に,私が修士課程で行っている応用研究とは大幅に異なる理論研究を新たなテーマとして行ったために多くの苦戦がありましたが,それ故に理論研究の進め方を学ぶことができたり,多くの基礎知識が身についたりと新しい分野の出会いに日々わくわくする生活でした.研究室にも親切なポスドク研究員や隣の研究室を含めた多くの博士課程学生と仲良くなり,食事やコーヒーを飲みながら談笑するなど楽しい毎日でした.特に,お互いにこれまで行ってきた研究テーマを話し会ったときは多くの面白い話ができて非常に刺激的でした.
<研究テーマ内容>
 ここでは,留学先での研究テーマ「時間遅れシステムに対するInternal Positive Representationに基づく区間オブザーバの設計および安定性解析」の紹介です.まずは,非負システム(または,正システム)およびInternal Positive Representation(IPR)について紹介します.非負システムとは正の入力が印加された場合には常にシステムの状態および出力が正であるシステムのことを指します.世の中には,負の値を取りえない物理量がたくさんあります.例えば,人口,濃度,エネルギーなどがあり,生物学や経済学など様々な分野で普遍的に用いられています.また,この非負システムは従来のシステムとは異なり非常に面白い特性を多く有しています.特に,本研究では非負ゆえに順序関係が崩れないという性質を利用しています. また,IPRとは一般に正もしくは負が不明な不定なシステムに対して用いることができる非負システムの表現となっています.つまり,IPRを用いることで多くのシステムに対して非負システムのメリットを用いることができるようになるわけです.
 一方の区間オブザーバについて簡単に説明します.実際に制御を行うためには,そのシステムの状態(例えば,変位,速度,圧力など様々な物理量が対応します)が観測できることが重要となります.直感的には高精度な制御を達成するためにはフィードバックを必要とするわけです.しかし,状態を常に観測できるとは限りません.例えば,センサの導入はコストが増大しますし,物理的に計測できないこともあるかもしれません.その場合にはそれらの状態を他の計測できる情報から推定することで解決できる場合があり,その手法の一つが”オブザーバ”と呼ばれるものです.しかし,外乱やノイズが乗っている場合などには適切に推定できるとは限りません.そこで,システムの状態の真値はわからなくてもその上下限の値を求められないか?という発想になるわけです.それを可能にする手法が区間オブザーバです.ここで, IPRを用いることで非負システムの良い特性を利用して容易に区間オブザーバを設計できることが明らかになっています.実際に私が数値シミュレーションにより検証した結果,次図のように外乱が加わったとしても各状態の真値($${x_1, x_2, x_3}$$)の上下限(破線および一点鎖線)が推定できていることがわかります.

シミュレーション結果(左 : 全体図,右 : 外乱発生時の拡大図)

 しかしながら,このIPRに基づく区間オブザーバは線形系に対してのみしか検討できていません.そこで私の研究は,複数の遅れを含むシステムに対してこの区間オブザーバを設計し,その安定条件を導くことを目的に研究しています.実際に遅れを伴うシステムは線形系とは比べ物にならないくらい複雑になります.私は遅れ系に対する区間オブザーバの設計および導くべき安定条件を明らかにすることを達成し,現在はそれに基づく安定性解析を進めています.

【最後に】
 研究留学はハードルが高いように思いますが,良いこと悪いこと包括して得られる経験は計り知れないものとなることを肌で実感しました.芝浦工業大学では留学に対する多くのサポートを受けることができますので是非活用して挑戦してみてはいかがでしょうか,また,私が所属する伊藤研は現在3人の学生が別々の国へと留学をしており,来年度は2人の留学生も訪れる予定となっており国際色豊かな研究室です.興味があれば,是非,伊藤研にも顔を出していただけると幸いです.

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