量子情報システム研究室の紹介
量子情報システム研究室の紹介
みなさん,こんにちは!
私は量子情報システム研究室所属の修士2年の藤井です.
「量子情報科学」という言葉をご存じでしょうか?
最近(2022年)のノーベル物理学賞が量子情報に関するものであったので,ニュースで見た方もいるかもしれません.
今回では量子の世界の非実在性について,特にBellの不等式についての実験検証を行った方たちに贈られました.
(この件は本研究室では教授が熱を出すほどのビッグニュースであり,それくらい量子情報科学をはじめとする基礎論に注目が集まるのはうれしい事でありました.)
他には「量子コンピュータ」や「量子暗号」という言葉をニュースで聞いたことがある方がいるかもしれません.本研究室ではそんな謎多き量子力学について日々取り組んでいます.
ここでは基礎的な物理学の内容を理解せずとも,私たちが日々どのような研究を行っているのかをざっくり理解できるように紹介していきたいと思います.
特に今回はせっかくなので,今年のノーベル物理学賞がどのような内容であったかを理解できるように書いていきます.
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いきなりですが皆さん,これから3つの質問をします.
ぜひご自身の頭で考えてみてください!
では早速ひとつめの質問です.
月は見てないときもそこに存在していると思いますか?
直感的にはYESと答えるかと思います.
YESと答えた方は「観測していないときにも対象が存在している」と信じている,と解釈することができるかと思います.これを固い言葉で「実在性」と呼びます.
例えるならば,家を出たときにガスの元栓を閉め忘れたか不安になる方はいるかもしれませんが,家自体が無くなっているかもしれないと不安になる方はおそらくいないと思います.このような考えのもと,私たちは普段直感的に実在性を信じて暮らしています.
ここで,もう一度似たような質問をします.
あなたがコイントスをしてちょうど手の甲で受け止めたとき,コインは手の内を明かされるかどうかに関わらず表か裏かは決まっているかと思いますか?
今回のような確率的な場合ではどうでしょう.
当たり前ですが,確率を考えれば表も裏も1/2で現れると言えます.
しかし,手の内を明かされて見るまでにコインは表でもあり裏でもある,なんて考え方はせずに,手の内が明かされる前,空中で回転するコインをキャッチした時点でコインは表か裏かは決まっていると考えるのが自然です.
ここで伝えたいことは,確率的は事象であっても観測の有無には関わらず観測結果と同じ状態がそこに存在しているはずだ,という一般常識にあります.
では最後の質問です.
原子や分子などのミクロな対象においても,観測されていないとき,コインの例と同じように,原子や分子はある状態で存在していると思いますか?
(ミクロなスケールは目では見えないので,適切な観測機器を持っているとしています.)
月であろうが,コインであろうが万物は原子分子で構成されているので,先ほどの直感を信じればYESと答える方や,いやいやそんな小さな世界のことは逐次把握できないと考えてNOと答える方もいるかと思います.
実は量子力学はこの問いに対してNOであると結論付けています.
つまり,ミクロな世界では観測していないときには存在していると考えることができない,ということになります.
(より正確には,光速よりも早い影響伝搬が存在しないという仮定が必要ですが,このような現象は経験的に存在しないので,これは物理的には暗に自動的に満たしている仮定です)
2022年のノーベル物理学賞はこの量子の非実在性を実験検証した方々に贈られています.
今回のたとえ話を用いれば,遠く離れた実験室同士で同時に観測したときに,ある特別な相関にある量子において観測結果と同じ状態が測定されるわけではないことを実験しました.
https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize/2022/physics/article_12.html
ミクロな世界では私たちの直感であった実在性が否定されたわけですが,これはいったいどんなインパクトを与えたのかは言葉だけでは少し分かりにくいものです.実際,今でも多くの物理学者や哲学者たちを悩ませています.
この問題の難解さを読者にわかってもらうために,有名な「シュレディンガーの猫」という思考実験を紹介します.
まず,箱の中に猫と放射性物質と放射性物質を検知して毒物を散布する罠を閉じ込めます.放射性物質はミクロに完全にランダムに振舞うため罠が起動するかはランダムになります.このとき猫の生死はどう考えればいいでしょうか?
という問題です.読者の皆さんはこんな思考実験を頭の中で想像してみて,かわいそうな猫がどうなっていると思いますか?あるいは猫の状態をどう解釈すればよいと思いますか?
先ほどの結論を鑑みると,猫の生死は観測するまで語ることができないというのが量子力学での考え方となります.マクロな存在である猫は確実に生きているか死んでいるかの2択であるはずなのに,量子力学を考える場合はその二元論で議論することは意味をなさなくなります.
正直,直感的なものではないのですが,これが量子力学です.
この非実在性を与えている主要な要因として考えられているのは,量子もつれ,いわゆるエンタングルメントと呼ばれる量子力学の特異な性質にあります.
このエンタングルメントは,
計算機科学に応用すれば,これまでのコンピュータをはるかに凌駕する計算を実現し!
通信技術に応用すれば,絶対に解読されない暗号通信を実現し!
さらにテレポーテーションすらも可能にする!
期待をおおいに孕んだ性質です.
(エンタングルメントを語るにはこのスペースでは狭すぎるので,また別の機会があれば記事にしたいと思います.)
このようにエンタングルをはじめとする量子力学というのは,物理学の根幹に対して探求できる分野でありながら,科学技術に対しても革新的なブレークスルーを起こしうる,2つの側面を持った分野です.
本研究室ではこれらの分野を探求することを目的としています.
最後に,学生がどのような研究をしているのかいくつか紹介したいと思います.
研究紹介
・「因果構造を仮定しない測定型量子計算」
自分は,量子論と因果構造の関係について研究しています.
具体的には,因果構造が仮定されないとしたら,量子コンピュータの性能はどうなるのかなどを考えています.
・「モンティホール問題と隠れた変数理論の関係」
自分は、非直感的な解が最適解となるモンティホール問題を量子力学の確率論に拡張したときにどうなるかを研究しています。量子力学の実在性を特徴づける隠れた変数理論をモンティホール問題に適用したらどのように表すことができるのかを研究しています。
・「量子開放系における緩和過程の研究」
量子が熱力学的な影響を受けるときの普遍的制約を見つける研究.なかでも時間発展をマルコフ過程で記述できるときはGKLSマスター方程式と呼ばれる特別な形で表すことができ,この場合での速度限界や緩和時間などの普遍的な関係を探しています.
最後に
ここまで読んでくださりありがとうございます.
ここまでいくつか質問をさせていただきましたが,その答えに納得できたでしょうか?
本研究室の本質は「悩み続ける」ことにあります.
量子情報科学などの不可解な問題を通じて,考える力を鍛えることこそ重要な過程となってきます.
おそらくここまで読まれた方は,本研究室でやっていけるだけの十分なポテンシャルと好奇心を持たれた方であると思います.
私たち量子情報システム研究室は野心ある「研究者」を心待ちにしております.
是非,気軽に遊びに来てください!
Twitterを運営しています!
https://twitter.com/quantum_gk
先輩方がどんなテーマを研究されていたのか紹介します.
「部分量子系を有する因果構造の研究及び測定型量子計算への応用」
「Hallの局所実在モデルの一般化」
「間接制御による多量子系の制御についての考察」
「時間を仮定しない量子論による因果律の創発」
「量子マルコフ過程における緩和時間の関係」 etc.
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