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決めつけない、生き方。ー20歳のあなたへー

20歳の頃、あなたは未来の自分をこんなふうにイメージしていましたね。

名の知れた組織でバリバリ活躍するキャリアウーマン。どれだけハードな環境に置かれようと元気でパワフルで、世の中の、あるいはだれかの役に立っているというたしかな実感があり、毎日の生活に充足感がある。快活で、いつも前に進んでいる感じがある。目標に向かって迷わず突き進むことができる。

高給とりではないにしてもそこそこ貯金をしていて、親にさらっといいものをプレゼントできる。自分と似たような属性の人と結婚している。

家庭を築いたら、仕事と家事や育児を上手く両立できる。仕事に存分に打ち込んで達成感を得つつ、プライベートも楽しんでいる。たとえ辛くとも忙しくとも、いつも笑顔を絶やさず、かかわる人みんなを幸せな気持ちにできる。強くて優しくて明るくて、いくつになっても目がキラキラしている。

でも、実際のあなたはこうです。

就職した典型的な古くて大きな官僚組織は、石の上に3年、どころでなく2年足らずで退職。ちょっと深夜残業をしただけで体調を崩すし、ハートだって、おもったより強くなかった。

職場に尊敬できる人はいたけれど、カチカチの組織体制と長時間勤務を賛美するかのような風潮にどうも肌が合わずアレルギー反応を起こす。自分にとっては想像以上にプライベートの時間が大切で、仕事人間にはなれないことに気がついた。パワハラで部下を次々と休職・退職に追いやった上司との1年ちょっとの攻防では精神をじりじりと削られ、その頃の疲弊や人間不信はいまだに尾を引いている。

文章に携わる仕事がしたくて、IT系の中小企業に転職した。数年間ライティングや編集を担当して、今はフリーランスでマイペースに仕事をしている。

世の中に「大きな」インパクトを与える仕事をしているわけでもなければ、たくさんの人の役に立っているわけでもない。多額の利益を生んで経済を回しているわけでもない。個人として名を馳せて表舞台で活躍しているわけでもない。高校や大学の同級生、SNSで見かける人など、一部の「できる」っぽい人のことを、いいな、とおもうときがある。

仕事を辞めるたびに貯金を使い尽くした。小さい頃はお父さんとお母さんに将来新築の一軒家を買ってあげる、なんて言っていたのに、父が還暦を迎えたときには無職で、お祝いの食事すらもできなかった。今ではどうにか自力で生活できるくらいは稼げるようになったけれど、お金を使うたびに大きなストレスと罪悪感にさいなまれている。友人たちが楽しそうに海外旅行にでかけているのを見ると、ちょっとだけ悲しくなる。

学歴も職歴も年齢も性格もまったくちがう人と暮らしている。賢くてしっかりした人だ。怠け者でおっちょこちょいな私は叱咤激励されながら生活している。私は子どものように泣いたり怒ったりする日もたくさんある。料理があまり好きでないし、いつも楽な格好をしている。家事をテキパキとこなせる人や美人でおしゃれな街ゆく女性にあこがれる。あこがれるだけで、努力は怠っている。

自分に家事と育児と仕事と趣味を両立できるとはおもえず、ぜんぶやろうとしたら倒れる気しかしない。自由な時間をできる限り失いたくないという気持ちも大きく、子どもをもつことに対してポジティブなイメージが描けない。SNSにアップされた楽しそうな家族写真やかわいらしい子どもの写真を見ると、身の処し方についていつも悩む。

どうですか?想像とちがいませんか?

がっかりしましたか?しょぼいな、とおもいましたか?弱いなあとおもいましたか?

でも、これが、あなたです。

そして私は、そんなあなたがきらいじゃないんです。

マイペースなあなたも、のんびりしているあなたも、こうして文章を書いているあなたも、本を読んでいるあなたも、散歩にでかけて空を見上げるあなたも。

希望的観測に目をかがやかせ、ふわふわと宙に浮いている20歳のあなたですら、きらいじゃありません。希望的観測ができるほど、恵まれた環境で生きてきた。井の中の蛙かもしれないけれど、「自分にはできる」とおもえる人間に育った。そうおもえるだけの体験を積み重ねてきた。

これは奇跡的なことで、お世話になったすべての人に感謝してもし足りないとおもっています。その謎の自信に、今でも私はたくさん助けられているのですから。

短距離走以外のスポーツ、とくに球技がまるっきりできないあなたは、やっぱりずっと、驚異的に視野が狭くて、その視野の狭さと猪突猛進性は、仕事の選択や日常生活にも露骨にあらわれていました。

けれど、そのおかげであなたはいくつもの場所に行って、いくつかの失敗もして、自分がどういう人間なのかを少しずつ知っていきました。そしてあなたの価値観は、少しずつ変化していきました。今だって変化しています。たぶん完成することはありません。

生きている限り、人はよくもわるくも変わっていきます。「成長」「成熟」「老い」「後退」「衰退」こうしたことばで片付けられるものばかりでもありません。根っこの変わらない部分すらも、表出の仕方が変わっていく。そうおもいます。

いろんな自由を得るために、いろんな自由を失いました。いろんな衝突もしました。でもあなたは、自ら悩んで、自ら選んでそうしてきました。

あなたが選び取ってきた道です。

最初の職場を辞めたとき、周囲の人は言いました。

寿退社みたいなもんでしょ?勝ち組でいいね。
育て方をまちがえた。考え方が甘すぎる。
もったいない。ご両親、悲しんでいるでしょう。
自由で楽しそう。うらやましい。
辛くて逃げただけなんじゃないの?
文章を書きたいなんて口実だとおもってた。

あながちまちがいではない、ぐさりと刺さる指摘もあれば、なにも知らない人が勝手な想像で発しただけの、的を得ない指摘もありました。

でも、だれになにを言われようと、どうおもわれようと、気にしすぎる必要はありません。

もちろん参考にできるものはどんどん参考にすればいいし、意固地になる必要もない。素直に聞き入れるべき愛に溢れた厳しいことばや、心にじわりと沁みる温かいことばを投げかけてくれる人もいます。

けれど、毎回のように他人や自分の期待に沿う義務なんてありません。どこかで聞いた文句を正しいと証明するかのごとく、わざわざ体現する必要はありません。過去の自分の言う通りにする必要もありません。長期にわたる整合性なんていりません。裁判じゃないんだから。

今のあなたの人生です。今のあなたの人生は、今、ここにしかありません。生きているのは、脈打っているのは、今のあなたのいのちです。

やってみなければわからないことがたくさんあります。

やってみたからこそ出会えた人がいます。

やってみたからこそ出会えた自分がいます。

やってみたからこそ出会えた人や自分に、今のあなたは支えられています。

恥をかくとか、嫌われるとか、嫉妬されるとか、見下されるとか、ちょっとしたことを恐れる必要はありません。

本当の味方は、あなたがどんな状況であっても応援してくれます。叱りながらも、あきれながらも、笑いながらも、応援してくれます。そういう人を見つけて、ちゃんと大切にしてください。

20歳のあなたに会って、ひとつだけ伝えられるとしたら、「決めつけないで」と言います。

私にはこの道しかない。
今さら〇〇する選択肢なんてない。
続けなければ、これまでの努力が台無しになる。
夢や目標に向かっていつも努力しなければならない。
いつも笑顔でいなければならない。
自分ばかりが幸せになってはいけない。
お金をたくさん得ようとすることは醜い。
好きなことを見つけなければならない。
辛さや理不尽に耐えるのが大人だ。
困難は乗り越えなければならない。
親とは仲良くしなければならない。家族を好きでいなければならない。
あの人が言っているから、それは正解だ。
みんなそうしているから、それは幸せだ。

こんなことばたちで、自分を縛りつけないでください。だいたいは、妄想みたいなものです。宗教なのかもしれません。盲信することで一時的に安心できる、だれかがつくった、世間がつくった、あるいはあなた自身がつくった、手っ取り早い宗教。自分を奮い立たせるために利用するのはいいけれど、自分や他人の首を絞めるためにつかうのはやめてください。

決めつければ決めつけるほど、縛りつければ縛りつけるほど、そこから自分が外れようとしているときに、外れざるをえないときに、自分を責めてしまいます。自分がダメな人間だとおもいこんでしまいます。自信がすり減っていきます。

得体の知れない妄想なんかに、人生を奪われる必要はないよ。コントロールされる必要はないよ。ことばは自分の心を解き放つためにつかってください。人と心を通わせるためにつかってください。

もちろん、これだ!と決めて腹をくくらなければならないときもあります。でも、腹はなんどだってくくれます。だから、そんなに不安がらないでください。

あなたはこれからどんどん、いろんな人に出会います。いろんな環境に出会います。いろんな考え方に出会います。いろんな生き方に出会います。それは実物でもいいし、本や映画の登場人物でもいいです。

あなたは失敗も成功もします。失敗のほうが多いとおもいます。そして、変わっていきます。よくもわるくもです。

それで、いいんです。いけないことではありません。裏切りでもなんでもありません。むしろ好きなように変わってください。せっかく生きているんだから。こうして書くネタにもなります。

なにがなんでも変えたくないものは、とことん大事にしてください。

未来のあなたも悩んでいます。今がベストだとは、正直なところ思っていません。だから、一緒に歩きませんか。生きませんか。年齢なんて、関係ありません。

いくつになっても、私はあなたの味方だよ。


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