見出し画像

運命の人

 婚活をすると言ったわね。正直に言うと、本当は結婚なんかぜーんぜんしたくない。一人暮らし最高。長年一人暮らしをしているけど、寂しいとか誰かと一緒に暮らしたいとか思ったことありません。お家に帰ってきたら自分の時間を自分で自由に使える。誰にも気を遣わなくていい。どんな格好してもどんな物を食べても、誰にもなんにも言われない。天国か?
 しかも世の中にはやりたいこととか楽しそうなことがあふれている。一日中本や漫画を読み耽りたいし、絵も描きたいし、好きなときに世界中へ行ってみたいし、楽器だってウクレレでいいから弾けるようになりたい。正直、それらを全部やるためには人生一回じゃ足りない。結婚している暇なんかない。
 ていうか結婚てなに? なんのためにするの?
 子どもの頃、母に「どうやったら結婚できるの?」とか「結婚する人ってどうやったら決められるの?」とか聞いたことがあったのですが、母はこの話を聞かせてくれました。

元々人間は生まれる前、一つの球体だった。でもある時、神様によってその球体は二つに割られてしまって、世界に男と女ができた。元々一つの球体なのだから、探し求めていた自分の半身に出逢った時、ぴったりと惹かれあい結婚する。

 なんだかどこかで聞いた話…。そうです、これはアリストファネスの人間球体説です。プラトン著『饗宴』で喜劇作家として、愛(エロス)を讃えるために語られます。互いへの惹かれあいこそが愛である。愛は一つになりたいという願いである。なんてロマンチック。子どもに聞かせるにはうってつけの寓話だったのでしょう。
 しかし、今となってはそれが現実とはちょっとちがうということがわかります。今はカップルの3分の1が離婚する時代。結婚する人が必ずしも自分の半身、つまり運命の人かと言われたらそうではない。寓話的には惹かれあって結婚する人が運命の人ということはわかるんだけど、その人が本当は自分の身の丈に合ってなかったら? 自分にひどいことをする人だったら? それって本当に運命なのかしら。運命の人だから結婚したのか、結婚したから運命の人になったのかは、鶏と卵の問題で誰にもわからない。だけど、自分でもわかることがきっとあるはず。
 なぜなら、なによりも大事なのは、自分自身が幸福になることだから。自分の身の丈にあってなかろうが、ひどいことをされようが、自分が決めたことで自分が幸福ならもうそれで大正解。考えて考え抜いて、自分の人生を自分で決めることが大事なんだよね。
 婚活では可愛いお洋服を着て愛想を振りまいて、好かれるために上手な会話の練習をして、気が合えば告白されて結婚して…という流れなんだろうけれど、正直そんなものは虚しいと思う。そんなに頑張ったとしても、結局自分が相手を好きになれないなら、万人受けするように作り上げた自分を好きになってもらってもなんの意味があるんだろう。だからこそ、自分が直感的に惹かれた相手に真っ直ぐに切り込むこと、その人に好意的に思ってもらえる努力が最も重要になってくるのではなかろうか。もういい歳なんだから異性が恥ずかしいだの、なんにも努力しなくても相手にちやほやされたいだのといった甘えた考えは捨てる。まずは行動。行動あるのみ。

もし俺たち人間が恋を成就し、それぞれが自分自身の真実の恋人に出会って、太古の人間性を回復するなら、俺たち人類は幸福になることができるのだ。(中略)すなわちそれは、自分の心にかなう恋人に出会うことだ。
『饗宴』 プラトン著(中澤務訳)

 長くなったけど、こんなにごちゃごちゃと理由をつけて結婚がどんなに面倒かを語る私が、今になって腹を決めて婚活をする理由。それは、子どもが欲しいから
 不妊治療が保険診療の適応になって、いかに日本の少子化問題が深刻になっているかを考えさせられる。日本生殖医学会によると、不妊の頻度は以下の通り。

★不妊の頻度
25〜29歳:8.9%
30〜34歳:14.6%
35〜39歳:21.9%
40〜44歳:28.9%

 明らかに年齢と不妊は相関がありますね。高度不妊治療は約100万円以上かかります。早婚が一番有効な不妊対策であるなら、結婚相談所への費用の方が、不妊治療費よりも安く確実なのでは?
 この前お食事をご一緒させていただいたミドサー女性経営者の方が、起業したばかりで結婚を焦りたくないから卵子凍結をしたとおっしゃってました。卵子凍結とは名前の通り、採卵した卵子を凍結しておき、都合の良い時に融解・受精させて子宮へ胚移植する方法。卵子1個あたりの妊娠率は年齢が27〜35歳の場合だと4.5〜12%らしく、出産までの確率はさらに低くなるそう。10個採卵してようやく妊娠率45〜100%、出産率はもちろんもっと低い。ちなみに保険適応外で、アメリカではまだデータ不十分のため安全性は今後検討の考え。果たして、卵子凍結とやらは早く結婚して早く出産するよりも、安く確実で安全なのかしら…。そうは思うものの、自分の時間を買ったと思えば安いものなのかも?

 そして、婚姻率と年齢のデータについて。2015年度国勢調査による有配偶者率は以下の通り。
★有配偶者率(女性)
24〜29歳:36.3%
30〜34歳:60.9%
35〜39歳:69.7%
40〜44歳:71.7%

 いかに晩婚化していると言えども、30〜34歳は20代の1.6倍近くの有配偶者率になっている。34歳までに女性のうち約6割は結婚している計算
 今度は婚姻件数の年代別。厚生労働省の人口動態調査では女性27歳の時点で婚姻件数の累計割合の48.5%、30歳で71.1%、32歳で80.3%、36歳で91.9%となる。30歳〜32歳までは1歳ごとに約5%(約2万件)ずつ、33〜35歳は約3%(約1万件)、36歳以降は約1%ずつ(約5千件)ずつ増えてる。婚姻件数全体で見ると、32歳までに約8割の婚姻届が提出されていることになる

 なにが言いたいかというと、30歳の私の今後の婚活は大激戦ということ、32歳までの短期集中・短期決戦のつもりで精力的に行動しないと結婚の可能性がどんどん落ちていくということ。これは鬱になるわよ…。今まさに婚活を頑張ってる方々、婚活を終えた方々、本当に心から素晴らしいと思う。こんなにきつめのデータばっか並べてしまって、なんかもう頑張れる気がちっともしないな…。でも、子どもが欲しいのもそうだけど、自分の運命の人とやらがいるのなら出逢ってみたい。

2021/10/01

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?