マンチェスター・バイ・ザ・シー、それでも、人生は続く。
2017年に日本で上映された映画。見ようみようとブックマークしていたのをプライムビデオでやっと観た。最近ネトフリ三昧で5分ごとに刺激の強いエンタメばかりだったので久しぶりに2時間尺の中で映画らしい映画を観れた。
ケイシー・アフレックと言えばベン・アフレックの弟でこの作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞した。近年私が観た中だとA24製作のア・ゴース・トストーリーの冒頭で死んでしまうルーニー・マーラーの夫役だろうか。もっとこれからも良い作品にで続けてもらいたい良い役者だ。
このお話、冒頭から雪が静かに降り続き、空は曇り風が吹き荒ぶので最初はイギリスかと(ヨーロッパの天気イメージ)と思ったら米だった。そのグレーな雰囲気さながらに忘れられない過去の痛みを引きずりまくるリーと、たった一人の家族である父親(リーの兄)を亡くしたパトリックの話がまったりと進み、途中で過去の回想シーンが入ってくる。そしてその過去の出来事は「あぁぁ、これは無理なやつや・・・」と言うくらい辛い。辛すぎる。無理すぎる。しかも、物語の終盤主人公リーは「無理だ、乗り越えられない。辛すぎる」(そりゃそうだと思った)と冒頭から変わらない思いを吐露してパトリックと肩を寄せる。救いようがないと言えばそうなのだけど、心に深く染み入る描き方で観終わるとスルメのようにジワジワ味が出てくる。ミシェル・ウィリアムズ(リーの元妻)とのやりとりもリアルすぎて釘付けになる。この二人はどうしても別れざるを得なかったこと、もう二度と元に戻れない事がありありと解りすぎてまた辛い。辛い辛いのダブルパンチに兄貴も死んでトリプルパンチなのに、最後にリーとパトリックが葬式の帰りに歩く何気ないシーンに温かみを感じる。ボストンに帰るリーは予備の部屋がある賃貸を探している。パトリックがたまに遊びに来るからだと言う。実際はパトリックがジョージの家に居づらくなった時、父を思い出したり辛くなった時の逃げ場所を用意してあげたかったのだろう。自分にとって兄がそういう居場所になってくれたからこそ。なのに「まだこの話続ける?」とか言うぶっきら棒っぷりのリーが冒頭では喧嘩っ早いダメ男って思ってたのが、なんて胸キュンさせてくるツンデレ野郎・・・と観ている側の気持ちは180度変えられてしまう。(ケネス・ロナーガン凄いんだから早く次作作って欲しい)
人生に突然起こる悲劇は、残念ながら現実には魔法が解決してくれたりしないし、人間のメンタルはそんなに強くない。リーのようになって当たり前だと思う。リーの元嫁も、パトリックも同じ。でも、それでも次の日は来て、食べて寝て起きて働いて、毎日が続き人生が続いていく。悲しみは忘れられない、埋めることも出来ない。明日はきっと良いことがあるなんて、経験したことがある人間は絶対に言えない。ただその気持ちを分かり合える者同士がさりげなく寄り添うことは出来る。そして、彼らの人生は続いていく。